《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》サキガケ・シンポウ(地元紙)
ユキオが先導する先は、村をぐるりと取り囲む山々の、そのひとつだった。
人一人分がどうにか通れるほどの幅で踏み分けられた道を延々と歩いた先で、徐々に山の緑が減り、黃い山が出している場所が多くなった。
「ここらは昔鉱山があって、どこもだらけなんだよ。流石の赤梵天もの中までは目が行かないだろうからね――」
凄い山道で半ば息が上がっているレジーナたちと違い、ユキオは流石の健腳でぐんぐん登ってゆき、汗どころか息のひとつもれてはいない。
そのペースについてゆけなくなり、膝に手をついて息を整えていると、隣に來たオーリンがウンザリしたようにぼやいた。
「ったぐ、本當にこの旅は山道ばっかりだの――」
ほとほと嫌気が差した、というような口調で、オーリンは剝き出しの山を睨むように見つめた。
確かに、思えばこの東と北の辺境の旅では、平地を歩いたという実があまりなく、歩く場所には常に傾斜があった気がする。
そして極めつけはこの登山――流石に愚癡のひとつも吐きたくなったレジーナは、オーリンをり気の多い視線で見つめた。
「全く、先輩が溫泉に浸かりながら旅したいなんて言うからこんなことになったんですよ、もう……」
「ぬっ、お、俺(おら)のせいがや。俺(おら)は別にこすたらごどさ首ば突っ込みでぇなんて考えでねぇんだど」
「どうするのだ、オーリン。本當にユキオたちに協力するつもりか? というか、そんなことが本當にできるとそなたは思うか? あんな化けをだ、倒せると思うか?」
「え、エロハまでなんだや――!」
二人分の恨みがましい視線に挾まれ、オーリンもし慌てたようだった。ついつい大きくなった自分の聲に驚いたように口を閉じてから、オーリンは他の連中の目を気にするようにしながらコソコソと言い訳した。
「……俺(おら)だばって信ずでねぇよ。あんな巨大な(でったらだ)クマッコだど。どったな冒険者でもなんどもなんねぇべや。この村だけでなんどかなるわげがねぇ。それごそ討伐軍でも用意しねぇばどうにもなんねぇべ」
「しかしユキオは自信満々だったではないか。仕留めるのはこの村でやると言っておったぞ」
「強がりだべ、強がり。どうせなんぬもねぇんだよ。こいはダメだど思ったら仕方(すかだ)ねぇ、夜中(ばげ)にでもさ帆かげで逃(ぬ)げてやんべしよ」
「冒険者の言うことじゃないですね……まぁでも確かに、いよいよとなったらそれも仕方ないですね……」
ユキオには気の毒だが、そうするのも仕方ないかもしれない。ズンダー領ではドラゴンさえ降してみせたオーリンでも、流石に長七十メートルにも達する化けなど、倒すとか倒さないとかいう次元ではないらしかった。
更に、何か兵でも隠してあるのかと思ってついてきてみれば、この山道――。とてもではないが何かを隠匿しているとは思えない場所であった。
もしユキオの言う「映えスポット」とやらがこちらの想定を下回るものであるなら、そのときは本當にこの村から逃げるのも考慮のうちにれておかねばなるまい。
「しかし、本當にそれでいいんですか? なんか必要以上に関わり合いになってますよ? それにコソコソ逃げ出したらあの鉄砲で背中から撃たれませんかね?」
「馬鹿レズーナ、何(なぬ)を喋ってんだ。あの化けに踏っ潰さえでめちゃくちゃ(がちゃがちゃ)どなって死にくたばるのど、撃たれで綺麗に(さぱっと)死にくたばるのど、お前(な)はどっつがいいってすんだば」
「し、死ぬこと前提で話をしてくれるな……私はまだ十四だぞ? まだやりたいこともいっぱいあるのだ……」
「そりゃこっちだって同じよ。まだ々したいことあるわよ。結婚とか」
「結婚……確(たす)かに、そりゃ一回(ふとぎゃり)でいいがらしでぇな……」
「してみたいな、結婚……というか、せずには死ねないであろう……」
「でしょう? だからいよいよのときは頑張って逃げましょうよ。結婚もしないままにこんな山の中で死ねませんよ」
結婚。確実に人生の目標のひとつであろう出來事に、三人は熱く長くため息をついた。
そう、結婚とか、出産とか、子育てとか、離婚とか再婚とか、三人は人生でまだまだやりたいことがたくさんある若い空である。
こんな山の中であんな化けグマに立ち向かい、無殘に踏み潰されて死ぬことなど――いくらなんでも想定したくないことであった。
「なんか隨分楽しい話してるな? 私にも聞かせろ」
瞬間、すぐ背後にユキオの聲が発し、レジーナのに人の手のがれた。
わしっ、とそれなりのものを両手で容赦なく摑まれ、うひゃっとレジーナは悲鳴を上げた。
「ゆ、ユキオ……!?」
「まぁ正直、ただの旅の冒険者であるアンタたちにこんなこと頼んで申し訳ないとは思ってる」
キリッ、と音がしそうな表で、ユキオはレジーナを摑んだままの両手をグニグニとかした。
なんだかいつも以上にやらしい手付きを維持したまま、ユキオは冴えた表で山の上の方を見つめて言う。
「だから言っとく。アレを見てもダメだと思ったその時は――遠慮なく言ってくれ。私たちはアンタたちに無理を言うつもりはないから。けれど、逆にだ。アレを見てしでも、しでもいいからイケると思ったその時は、どうか私たちに協力してくれないか。これはレオ――いや、ワサオ自の仇討ちでもあるんだ」
「あっ――! いやっ、ちょ――! みすぎ! みすぎだって!」
「ワサオの父親は赤梵天に殺された。本人は記憶がないようだけど、赤梵天はワサオがああなる原因を作った。アンタたちはワサオの友達なんだろ?」
「話の容とやってることが噛み合ってない! アッ――! そこはダメ……! ちょ、本當にそれ以上は……!」
「だから賭ける。アンタたちが協力してくれる方に私は賭ける。だからアンタたちも、しでいいからそのつもりでいてくれないか? 頼むよ」
「ちょ、ちょ、わかったから! わかったからその手やめて! 協力するかどうかはちゃんと考えるから……!」
「オーケィ、渉立だ」
ニカッと笑ったユキオがレジーナから手を離し、後は脇目もふらずにスチャスチャと軽快に山道を登ってゆく。
くそっ、思わず知らず協力するかも、みたいな返答をしてしまった……レジーナはいまだ上気したままの頬をぶうっと膨らませた。
しかしあのセクハラマタギ、なんだか徐々にレジーナをまさぐる手付きが上達していないだろうか。
しかも今のはちょっと……何だかちょっと々と危険をじる手付きであった。これ以上まさぐられたら、この村にいるうちにすっかりとあの人の玩にされてしまうかもしれなかった。
「ま、まぁ……見るぐれぇは仕方(すかた)ねぇ。とにかぐ、この上さ何があるか見てみんべしよ」
頬を真っ赤にしたレジーナをオーリンが見つめ、それから何かを諦めたかのようにそう呟いた。
その後、三人はほとんど無言で山道を歩き、やがて山の中腹にある廃鉱山跡地へと吸い込まれていった。
◆
ようやくのことでたどり著いた場所は、山の中であるというのに大きく森が拓かれ、馬で駆け回れるほどの広さが持されていた。
鬱蒼としていたはずの山々の木々は綺麗に切り払われ、一度は禿山になったのだろう場所にちらほら灌木が生え始めているような寂れた場所。
如何にも數十年の昔はそれなりに隆盛した鉱山だったのだろうことを忍ばせる平地には、廃坑道のり口と思しき幾つもの橫があった。
「ここが――映えスポット?」
レジーナは辺りをきょろきょろと見回してみたが、それらしいモニュメントもないし、肝心の眺めも木立のせいで全く見えないではないか。
こんなつまらないところに一何があり、一何があの化けを倒すほどの武になるというのだ?
これはやはりみ薄なのかもしれない。レジーナはオーリンとイロハに目配せし、三人とも同じことを考えているらしいことを悟った。
「まだガッカリするのは早いぜ、皆さん。ここにはまだ隠し種がある」
その落膽を察したように、ユキオが冴えた聲を発した。そんなユキオを見て、ヘイキチが戸ったように言った。
「ゆ、ユキオ、本當にお客さんにアレを見せるのか……? あんな騒なものをか?」
「何言ってんだよ父さん、見せないでどうなる。それになんでそんなに自信ないんだ? アレを村の観の目玉にしたっていいぐらいだろ」
「あ、あんなものを観の目玉!? 今の若い子の考えとることは本ッ當にわからん! あんな危ないものよりも村には他にもっと名所があるだろ! 桜の木とか、綺麗な川とか!」
「桜だぁ? 川だぁ? ハァ、私には父さんの考えてることの方がわからんよ……。ならいいよ、アレが映(ばえ)るものかどうか、それはこの人たちに判斷してもらおう」
「お、お客さんたち! 見てもあんまりガッカリしないでくださいね! アレはホントにつまらないものなんです! 他にもコンセイ様とかありますんで! どうかガッカリしないように!」
ハァ、と呆れ果てたようにヘイキチから目を逸らしたユキオは、その背後に居並んだマタギたちに「始めてくれ」と合図をした。
始めてくれ……? 一何が始まるんだと思っているレジーナたちの前で、マタギたちがバラバラと散ってゆき、崖の中にぽっかりと口を開けた廃坑道に吸い込まれてゆく。
あの廃坑道の中に何かあるのか? レジーナが眉間に皺を寄せた瞬間、それは始まった。
ゴゴン……という、重苦しい音が地面を揺らし、足を伝わった。
うわっと悲鳴に近い聲を上げた、その瞬間、その震、いや、律はますます大きくなり、崖全が震え始めた。
森の木立から一斉に鳥たちが飛び立ち、時ならぬ聲を上げて飛び回る。
まるで地の底から這い上がってくるかのような突き上げに、レジーナたちは顔を見合わせ、おろおろと虛空を仰いだ。
ゴゴ、ゴゴ……という空恐ろしい響きが、マタギたちが消えていった廃坑道に複雑に反響し、まるで唸り聲を上げるかのように山全が震える。
あの廃坑道から何かがやってくる――レジーナがそう確信した、その次の瞬間、にゅう、とばかりに廃坑道から顔をのぞかせたがあった。
「んな――!?」
レジーナはぎょっと目を見張った。
あれは――一なんだろう? に照らされ、黒々とる――鉄砲(シロビレ)の先端だろうか?
しかし、その巨大さはマタギたちが背中に擔いでいるそれとは比べにならない。太さが人間一抱え分もあろうかというほどの鐡(くろがね)の極太の筒が、マタギたちの手によって廃坑道から引きずり出され、錆びついたレールの上をってくる。
その筒――否、大砲の全が廃坑道からすっかり全を表した時點で、大蛇が鎌首をもたげるかのように、巨砲全が立ち上がった。
鉄の軋む音、車とレールのれ合う音、歯車と油圧機械が稼働する音……それらが複雑にり混じり、まるで産聲を上げるかのような重い嘶きがミヒラの莊を取り囲む山々に木霊した。
あまりに想定外のものが出現して慌てるレジーナの目の前で、ブゥン、と巨砲が震え、砲門から青白いが発した。瞬間、程の方向に幾重にもり輝く魔法陣が出現し、高い青空に向かって白いを照する。
これは――ただの大砲ではないらしい。
どうやら、超特大の魔導兵であるらしかった。
レジ―ナは有り得べからざる景にただただ圧倒されていた。
これが――これが、この村のマタギたちが隠し持つ兵。
凄まじいまでに剣呑な――それはまさに超弩級と言える、巨竜のような列車砲であった。
しばらく、三人とも何も言えなかった。
こんな山里の、こんな山の中から現れるにはあまりにも想像外である兵の登場に、イロハもオーリンも目を點にして見っている。
「これが対赤梵天用に私たちが作り上げた決戦兵――『魁(さきがけ)神砲(しんぽう)』だ」
あまりの景に口をあんぐりと開けたままのレジーナの側で、巨砲を見上げながらユキオが説明した。
「バレル部分には鉱山で使われてた煙突を改造してルーンを刻み、土臺部分には鉱山で使われてた搬出用のトロッコ列車を応用したんだ。要するに超特大のシロビレだ。後はこの中に裝薬を詰めて魔力を流し込めば――赤梵天を倒すどころか、魁星だって撃ち落とせるさ」
「ねっねっ、つまらないでしょうこんなもの!? もう全くお客さん相手にこんなもの見せるなんてお恥ずかしい!」
得意顔のユキオとは裏腹に、その父であるヘイキチは激しく恐したような表を浮かべ、まるで三人の視界を遮ろうとするかのように両手を広げて振った。
「別にこんなもの我々だって好きで作ったわけじゃないんですよ! でもね、あの怪が村にやってきそうだから仕方なく作ったんです! こんな仰々しいものがこんな小さな村にあるなんて本當にお目汚しで申し訳ない! もっ、もういいでしょう!? ほらユキオ、さっさと仕舞えこんな騒なものは!」
確かに――これはこのささやかな山村にはあまりにもふさわしくなかった。しかもこれがこの里の人間以外の目にれたら、この村は國崩しでもする気なのかと慌てられるに違いない。
ヘイキチが躍起になって否定するのも納得の兵を見て――オーリンがぶるりと震えた。
「か」
ふと――背後のイロハが口を開いた。
か、なんだろう? レジーナがそう思った、その途端。
イロハの目がきらきらと輝いた。
「カッコイイ――カッコイイではないか!!」
「えぇ!?」
ヘイキチがぎょっとイロハを振り返る。イロハは小さなをぴょんぴょんと跳ねさせ、まるで小さい子供が生まれて初めて園でゾウを見たときのように小躍りした。
「カッコイイ! なんだこのデッカくて激しくメカニカルな大砲は! しい、これはズンダー家にもしいぞ! こんなものが宮殿にあったらさぞかし民の話題になろうな! なぁオーリン、カッコイイであろう!?」
「た、確(たす)かに……カッコイイな! こ、こったなものがこった山奧にあるなんて考えでもみながったでぁ! すんげぇ、すんげぇなやエロハ!」
拳を握りしめ、まるで目の前にスーパーヒーローが登場したかのように歓聲を上げる二人に、ヘイキチだけでなくレジーナも慌てた。それを見て反対にユキオは「してやったり」とばかりにの片方を吊り上げた。
「な、これは映るだろ? しかも見てくれだけじゃない、ちゃんと使えるんだぜ? これが火を吹くところを実際に見てみたいとは思わないか?」
「見たい! 切実に見たい!」
「ああ、見でみでぇな! こいがどったげ威力のあるもんだがさ……!」
二人は拳を握り締め、得意気な表のユキオにかぶりついた。
「ちょ、ちょっとイロハ、先輩も――!」
「何を躊躇うのだレジーナ! こんな凄いものがこんな山の中にあってしないわけがなかろう! 見たい! 私はこれがくところを見たいぞ!」
「じゃあイロハ、私たちに協力してくれるよな? これが赤梵天を倒すところが見れるぞ。しかも最前線でね」
「ああ、是非とも協力させてくれ! オーリンは!?」
「そういうごどだば喜んで協力する(すける)でぁ! その代わり、後で俺(わ)にもこれかさせでもらでもいいが!? いいべよな!」
「協力してくれんならいくらでもどうぞ。ささ、話は決まりだよ。どうだ父さん、コンセイ様よりもこっちの方が映るってわかっただろ?」
ユキオの得意気な笑みに、ヘイキチどころか、居並んだハッピの集団でさえ呆気に取られたような表をした。
『今の若い子が考えることはわからん』――言葉以上にそう語っている表を見て、レジーナも心で嘆息した。
意外と言えば意外なことに、オーリンとイロハは、こういう年の夢の塊のようなものにとことん弱いらしかった。
まぁイロハは見た目通り神もお子ちゃまで仕方ないのかもしれなかったが、まさか人済のオーリンまでこんなにやる気になってしまうとは。
どうやら男という生きは、何歳になっても神年齢は子供のままであるのが普通であるらしかった。
これで、この村とはすっかり関わり合い、あの赤梵天からは逃げるわけにはいかなくなった――。
元はと言えばアンタのせいだぞ、と恨みがましく足下のワサオを睨むと、ワサオはレジーナの視線にもどこ吹く風で、ワフゥ、と大きな欠をした。
『じょっぱれアオモリの星』、第一巻稿いたしました。
これはもう、個人的に、ですが、それなり以上のものに仕上がっております。
原稿の完以外にも角川スニーカー文庫様と々と畫策しておりますので
今冬の第一巻発売を心してお待ちくださいませ。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読まへ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。
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【書籍第2巻が2022年8月25日にオーバーラップノベルス様より発売予定です!】 ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あの親のように卑劣で空虛な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め稱える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これは少し歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※カクヨム様にも掲載させていただいています
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