《【書籍化&コミカライズ決定!】10月5日コミカライズ連載スタート!10月15日文庫発売!追放された元令嬢、森で拾った皇子に溺され聖に目覚める》13・皇子は怒ると怖いらしい
「我が剣の主に、なにをしているのだ貴様たちは!」
ビンとお腹に響くジェラルドの聲が、會場の空気を震わせる。
一瞬、楽士たちの演奏の手も止まった。
私の危機を察知して、助けに來てくれたらしいと悟り、ホッとをで下ろす。
「剣の主ですって?」
「ゴミ捨て場が? そんなバカなことが」
「噓でしょう?わたくし信じませんわ、そんなこと!」
「でもご覧になって。あの額の、皇子の剣の寶玉と、呼び合うようにっていますわ」
レイチェルたちのささやきが、私に聞こえた。
見るとジェラルドの剣の柄に埋めこまれている赤い寶玉が、確かにっている。
「そっ、そうでありましたか」
とりなすように言ったのは、ランドルフ王子だった。
「そんなこととはつゆ知らず。なに、なかなか可らしい令嬢だったので、聲をかけてしまった、というだけです。ええと、あの」
王子は視線をおよがせて、楽士たちに向かって演奏せよ、というように手を振った。
「今宵は無禮講と言いますか、どうかその、余の軽率な行をお許しいただきたい」
(うわっ。あのわがまま王子が頭を下げてる!)
私はびっくりして、その姿に見ってしまった。
他の貴族たちも同様に、その場に立ち盡くしている。
やはり立場的に完全に、ダグラス王國の世継ぎの王子より、グリフィン帝國の皇子のほうが上らしい。
私は子爵家で、そんなに熱心に世界の各國について勉強しなかったけれど、かなり國力に差があるのかもしれなかった。
「それでいいのか、キャナリー」
急にジェラルドに言われ、私はもちろん、とうなずく。
「味しそうなデザートがあったから、そっちのほうが大事だもの」
「そうか。では今回の件は、俺も忘れよう」
ジェラルドが言うと同時に、柄の寶石のが消えた。
王子はすごすごと自分の席に戻り、再び音楽が流れ出す。
「今よ、ブレンダ、エミリー。ともかくしでも、ジェラルド殿下に見知っていただかなくては」
「キャナリーごときが気にられるなら、わたくしたちにだって可能なはずですものね」
「できることは、しておくべきですわ」
すると懲りもなくレイチェルたちが、目をギラギラさせて、こちらにやってこようとした。
けれどジェラルドがそちらをジロリと睨むと、足がぴたっと止まる。
さらにジェラルドは、私にダンスを申し込んでいた青年貴族たちにも、まとめて冷たい視線を送った。
「……どうもこの國には、不作法なものが多すぎるようだな。勝手に私の友人に、ダンスを申し込まないでしいのだが。もっとも、申し込ませてくれと頭を下げられたところで、許可を出すつもりはない」
青年貴族たちはこまり、誰も一言も、聲を発することさえできないようだ。
ジェラルドは私の前まで來ると、すいと腰を低くし、優雅に手を差しべてくる。
「私と踴っていただけますか、キャナリー」
かしこまった口調のジェラルドに、私は微笑んでうなずいた。
「ええ、もちろん。喜んで」
私はジェラルドの手を取り、固唾をのんで見つめている貴族たちの中を進むと、ホールの中央で足を止める。
そこでちょうど次の円舞曲が始まり、私はジェラルドと踴り始めた。
子爵家では、もちろんダンスのレッスンもけているものの、大勢の前で踴ることに、私はまだ慣れていない。
しかしジェラルドは、そんな私をたくみにリードしてくれた。
「上手いじゃないか、キャナリー」
「あなたのおかげよ」
私とジェラルドは、顔を近づけて囁き合う。
かろやかにステップを踏みながら、私は周囲の令嬢たちの、妬みの視線をビシビシと痛いくらいにじていた。
やがて三曲目にっても、ジェラルドはしっかりと私の手を握ったままだ。
「ねえ、ジェラルド。しは他の令嬢とも、踴っていいのよ。帝國の皇子様と踴れる機會なんて、きっとここの王族でも滅多にない栄譽でしょうから」
ジェラルドは、肩をすくめた。
「きみは他の誰かと踴りたいのか?」
「えっ? まさか。私、ここの貴族は嫌いよ。言ったでしょ、ひどい目にあったんだから」
「そんな貴族と踴りたくないのは、俺も同じだ。それに」
ジェラルドは私をくるくる回してから、優しく抱きとめる。
なぜか心臓が、砂糖漬けのレモンで包まれたように、きゅっとなった。
「きみと踴っているのは楽しい」
耳元で囁かれる聲も、ハチミツのように甘くじる。
「私もよ」
ジェラルドの腕の中で、私はにっこり笑った。
「ダンスがこんなに楽しい、って初めて思ったわ」
「それなら、もう一曲、ぜひ、お相手をお願いします」
笑いを含んだ聲でジェラルドが言い、私は応じて手をとった。
「まったくもう、いったい何曲踴ったのですか」
舞踏會が終わり、ジェラルドの部屋でくつろいでいると、アルヴィンがげっそりした顔をしてってきた。
「ジェラルド様たちはいいですよ。楽しそうに延々と踴ってらっしゃって。私はむんむんした令嬢たちの熱気に囲まれて、窒息してしまいそうでした」
ぐったりとして椅子に座ったアルヴィンに、同じテーブルの椅子についていた私たちは、悪いと思いながらも笑ってしまった。
「しかし、妙齢の子たちに人気があるというのは、いいことじゃないかアルヴィン。それに、お前がキャナリーの護衛をしっかりしていないからそうなったんだぞ」
「モテモテだったわね。レイチェルたちったら、目をハートの形にしてたわ」
「違いますよ。本當はあのご令嬢たちは、私になどそこまで興味はないのです」
呼び鈴を鳴らし、アルヴィンの分までお茶を用意するよう言いつけてから、ジェラルドは不思議そうな顔をする。
「とてもお前に興味がないようには、見えなかったが?」
いえいえ、とアルヴィンは首を左右に振る。
「ご令嬢たちが、本當に狙っていたのはジェラルド様、あなたですよ」
「俺を?」
「當然でしょう。なんといっても、帝國皇子なのですから。ジェラルド様に許嫁はいないのか、グリフィン帝國の後宮事はどうなっているのか、ジェラルド様の好みのはどんな容姿なのかと、質問攻めにされておりました」
「そんなことを聞いて、どうするつもりなのかしら。ジェラルドの好みに、自分を変えるのかしらねえ」
森育ちの私は正直、異へのがなぜそこまで強くなるものなのか、というものがどういうものなのか、よくわかっていない。
だから彼たちのエネルギーに、し心してしまったのだが、ジェラルドは冷ややかに言った。
「今度聞かれたら、そんな質問をする令嬢はお嫌いだそうです、と答えてやれ」
「そんなことを言っても、ではどんな質問をするがお好きなの、と聞かれるだけですよ。いやあ參った」
アルヴィンは運ばれて來たお茶を飲み、やっと落ち著いたというように溜め息をつく。
「グリフィン帝國の貴婦人たちはどのようにみやびで、自分たちよりどれほどしいのか、どんなドレスや髪型が流行なのか、もう心底どうでもいいことを、次から次へと尋ねられ、頭がくらくらしておりました」
「お疲れ様。災難だったわね」
同する私に、けない顔をしてうなずくアルヴィンだったが、ふいにジェラルドは表を引き締めた。
「それで、アルヴィン。肝心なことは、わかったのか」
「そうですね。ちょっとお待ちください、結界を張ります」
アルヴィンはまた、複雑に指をかしてから、改めての話を始めた。
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