《ひねくれ領主の幸福譚 格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】》第438話 地竜討伐①
地竜確認から一夜が明け、アールクヴィスト大公國軍を主軸とした討伐部隊は、地竜の予想侵攻路上にある農村へと陣を張った。
「……この戦闘が終わったら、ぐっすり寢よう」
農村の中で一軒だけ二階建てになっている、おそらくは村長家の家。二階の窓から西を眺めながら、ノエインは呟いた。その言葉に、付き従うユーリやペンス、通信役のコンラートが苦笑する。
昨夜から、ノエインたちはほとんど一睡もせずに迎撃準備を整えた。戦場で一晩の徹夜程度は覚悟の上とはいえ、眠いものは眠い。
「ノエイン様、お茶をどうぞ。皆様も」
「ありがとう、マチルダ」
時刻は日の出からしばらく経った頃。マチルダがこの場の人數分を淹れてくれたお茶はいつもより濃い味で、眠気覚ましに丁度いい。
ほどよく冷めたお茶を口にしながらしばらく待っていると、コンラートがハッとした表になり、中空を見つめて一人喋り出す。『遠話』による呼びかけをけた者の定番の反応だ。
「アールクヴィスト閣下。中間地點にいる対話魔法使いより連絡です。キューエル子爵閣下の囮部隊が地竜と遭遇し、現在こちらに導しているとのこと。間もなくここへ到達します」
「分かった、ありがとう……さて、始めようか」
コンラートの報告をけて、ノエインはお茶を飲み干し、立ち上がって階段へと向かう。マチルダたちもそれに続く。
魔である地竜が相手ということもあり、今回の作戦は単純。
まず、キューエル子爵が偵察中の偶発的な遭遇のふりをして、地竜とそれを率いる部隊の視界にる。そして、慌てて逃げるふりをしてノエインたちの待つ農村へと戻る。
偵察部隊が逃げた先には本隊がいるのが常。おそらく地竜は先行してキューエル子爵たちを追い、地竜をる使役魔法使いとその護衛部隊も後に続いてくる。こちらの本隊を発見し、奇襲するために。
その様を、進路上にいる対話魔法使いが確認。ノエインたち討伐部隊に連絡をれた上で、この魔法使いも急ぎここへ戻る。
連絡をけてノエインたちは迎撃のために配置につき、対話魔法使いが帰還し、キューエル子爵たちが帰還し、そこに釣られてきた地竜をノエインたちが叩く。それだけだ。
ノエインたちが一階に降りて外に出ると、全軍がき始める。ユーリやペンスが兵士たちに指示を飛ばす中で、ノエインはダグルを連れたビアンカ・ランプレヒト爵に聲をかける。
「ランプレヒト卿。それにダグルも。調子はどうですか?」
「問題ありません。準備は萬端です……ダグルも士気は高く保っていますよ。この作戦が終われば、生きた人間を食べられると言い聞かせてありますから」
「……ははは、それはよかったです」
ノエインは努めて笑みを作った。
地竜を撃破したら、それをる使役魔法使いと、おそらくはそこに付いている護衛部隊を捕縛するつもりだ。その中から一人、オークに丸かじりされる不幸な犠牲者が選ばれることになる。
捕虜を殺すのは本來褒められた行為ではないが、戦場に予定外の事故はつきもの。貴重な戦力であるダグルに機嫌を保ってもらう方が、ノエインたち東部軍にとっては大事だ。
「間もなく地竜がここへ到達します。共に頑張りましょう」
「ええ。よろしくお願いします、閣下」
ビアンカと一旦別れ、ノエインは今度はクレイモアの方へ向かう。
グスタフとアレイン以下二十人の傀儡魔法使いは、ゴーレムに魔力を注げばいつでも行開始できる狀態にあった。
「閣下、専用ゴーレムの用意はできております」
「ありがとう。それじゃあ、皆も配置に」
「「「はっ」」」
敬禮した傀儡魔法使いたちは、各自のゴーレムに魔力を注ぐ。今回は集団で地竜に毆りかかることになるため、対人戦闘と防火を用途とする漆黒鋼製の突撃盾は持っていない。
立ち上がった二十のゴーレムは、者と共に農村の各箇所に散っていく。そして、ノエインもまた自のゴーレムに魔力を注ぐ。
「……儀禮用だったのになぁ」
急激に大量の魔力を放出したことによる小さな眩暈を覚えながら、ノエインは立ち上がった自専用の巨大ゴーレムを見上げた。
儀式の場で大公の威厳を見せるための道だったはずの巨大ゴーレムは、今では強力な魔と戦う際の定番兵になってしまっている。
三メートルを超える背丈のゴーレムは下手をすれば農村の外から見えてしまうので、二階建ての村長家のに移させる。
「アールクヴィスト閣下! キューエル子爵の隊が戻りました! 地竜の土煙も見えてきましたよ!」
そのとき、家屋の屋の上に陣取るリックから、そう報告がった。
いよいよ迎撃戦闘が始まる。皆が構える中で、ノエインの周囲にはペンス率いる親衛隊が集まる。マチルダも丸盾を構える。
地竜を引きつけて無事に生還したキューエル子爵は、そのまま農村の通りを駆け抜けてノエインの近くまで來た。
「キューエル卿、ご苦労さまでした。無事で何よりです」
「何のなんの! これくらいはさして難しくない任務です!」
最後まで追いつかれない程度の距離で地竜に見つかった上で、地竜に見失われることもないように戻ってくるのは誰にでもできる任務ではない。
難しい仕事を見事にこなし、生きて帰ってくれたキューエル子爵にノエインが本心から言葉をかけると、子爵は笑って答えながら後方まで退避していった。地竜との戦闘に彼ら騎兵が出る余地はない。
そして農村の西側には、ノエインの位置からでも見えるほどに地竜の上げる土煙が迫る。
「……ユーリ。戦闘開始だ」
「はっ……総員、戦闘開始だ! 各部隊長の判斷で攻撃してよし! 抜かるなよ!」
「「「はっ!」」」
農村に響き渡るユーリの聲と、それに応える大公國軍兵士と傀儡魔法使いたちの聲が、戦闘開始の合図となった。
その間も地竜は迫り、土煙の中からその姿がはっきりと確認できる。ワイバーンと比べるとずんぐりした見た目で、まさに「鱗の鎧を纏い、地を這うトカゲ」と表現するのが適切だった。
地竜は次第に農村へと接近し、距離がおよそ百メートルを切ったところで――
「全弾放てえっ!」
バリスタ隊を指揮するダントの聲が響き、い弦が空気を切り裂く音がいくつも響く。
積み上げられた藁束、西側に面した家屋や納屋。そうした障害の裏に隠されていたバリスタが、狙いを微調整された上で、藁束のや建の窓から地竜に向けて放たれる。
その先に取りつけられているのは壺。十を超える壺は地竜へと真っすぐに飛翔し、そのい鱗に激突して砕け散る。
しかし、まだ炎矢のように発火はしない。砕け散った壺の中にっていた油が地竜の鱗の表面にまとわりつくだけに終わる。
「ギャオオオオオオオオッ!」
壺をぶつけられたところで地竜の勢いは止まらない。むしろ、妙なをかけられた不快に吠え、怒り狂いながら、さらに勢いを増して前進を続ける。
「退避!」
ダントがび、バリスタ隊の大公國軍兵士たちはバリスタをその場に捨て置いて逃げる。全員が後方へと下がったところで――地竜は申し訳程度の門と、豚や鶏の逃走を防ぐ程度の効果しかない背の低い木柵を吹き飛ばし、農村の敷地に突した。
十數メートルの巨による、極限まで勢いのついた突進。木製の門や末な木柵は宙を舞い、さらに門の周辺にあった建も砕される。それらの建の中に配置されていたバリスタが破壊され、その破片がやはり宙を舞う。
宙を舞った大小の破片は、重力に従って地に降り注ぐ。
「おっと……まったく元気がいいね」
親衛隊とマチルダの掲げる盾によって破片から守られながら、ノエインは呟いた。後方に退避した者たちは建の中に隠れており、他の場所に配置されている傀儡魔法使いたちはそれぞれ大盾兵の護衛がついているので心配はない。
「ギャオオオオ! グオオオオッ!」
農村に侵した地竜は、ここまで追ってきた騎兵の群れや、自分に壺をぶつけてきた存在が見當たらないことに苛立った様子で周囲をきょろきょろと見回し、周辺の建にをぶつけながらうろつく。
その斜め後方、死角から忍び寄ったのは、オークのダグルだった。
油を纏った地竜に火を放つとしても、火矢をちまちまと撃っていては油の部分にうまく命中するか分からないし、そんなことをしているうちに地竜に気づかれ、人間の兵士など簡単に殺されてしまう。
かといって、バリスタで炎矢を放とうとしても、のんびりと狙いをつけている間に見つかり、やはり簡単に撃破されてしまう。バリスタを作する兵士も無事では済まない。
しかし、オークのダグルであれば人間よりもはるかに俊敏にける上に、自で狀況判斷をして臨機応変に行できる。気配を察知されずに行するのも人間より得意だ。彼ならば素早く移して即座に地竜へと狙いを定め、距離をとって攻撃することができる。
ダグルが手にしているのは、魔石を裝填済みの壺、すなわち炎矢。油を詰めたら數キログラムはあるこの炎矢も、ダグルにとっては軽い。
地竜の死角からひっそりと、ある程度の距離まで近づいたダグルは、炎矢を投擲する。オークの腕力であれば、道を用いずともただ投げただけで相當の飛距離を稼ぐ。
著弾を確認する前にダグルは退避し、上空から迫りくる炎矢を地竜が察知したときには、炎矢はその背に當たって砕け散り、火を生んだ。
その火は炎矢の中から飛び散った油に引火し、そして地竜の鱗にまとわりつく油にも燃え移る。
地竜の全を、大きな炎が瞬く間に包み込む。
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