《【WEB版】代わりの生贄だったはずの私、兇犬王子のに困中【書籍化】》十二話 緑の館の(5)
◆クロヴィス視點
ナディア嬢は規格外の令嬢だった。
妖たちが「今回ノノ子、面白イヨ」、「クロヴィスモ見テ」と、あまりにもせがむ様にいうから様子を見に行けば、自分の目を疑った。
掃除を真面目にするだけでも驚いたというのに、腳立に平気でのぼるわ、スカートをたくしあげて素足を曬して洗濯するわ、歯を食いしばりながらバケツは運ぶわ、あれほどを張るとは予想していなかった。
視線も関心も奪われ、気付けば勝手にがいていた。自分でナディア嬢に掃除を命じておいて、彼を助けてあげたいと思ってしまった。
すみれの瞳から怯えが消えていくのを見て、不覚にも喜びをじた。
まさに自作自演の救済劇。酷いマッチポンプだと我ながら思う。
念のためスパイかどうか確認するために執務室の掃除を任せれば、不審な行はひとつもなかった。
果を褒めれば涙するほどの純粋さも気にった。
問題は妖の存在をナディア嬢がどう思うか。知らせなければ良いと思ったときもあったが、し子であり守護者でいる俺の側にいれば存在を隠しきれない。
可能ならば彼には気味悪がられたくない。表に出れば誰にでも噛みつくような狂犬と呼ばれる俺が、嫌われることを恐れていたのだ。
そうだ。褒めただけで泣くような娘だ。とびっきり甘やかして、妄信するくらいに惚れさせれば良いんだ。そうすれば離れていかない。
淺はかな下心で好度を高めようと偽りの傷を消し、母上と妹姫が絶賛する素顔を曬すことにした。
だがナディア嬢は俺の顔に見惚れることなく、偽っていたことを怒るでもなく、傷が偽であることに安堵したのだ。後癥を心配し、薬まで用意して……。
なんてしい人だ――と、そのあまりの清純な優しさに陥落したのは俺だった。
しかも彼もし子。気味悪がるどころか笑顔で妖の存在をけれた。俺の最大の理解者となりうるしい存在。
絶対に彼の全てを手にれてやる――乾いていた心に油が落とされ、かつてない炎をのにじた。
「ニベル、至急ナディア嬢を妃に迎えれる準備を進める。父上が寄越してくれた資料以外のナディア嬢とマスカール伯爵家の過去の報を集めてくれ。家庭環境に洗禮式の記録、使用人を買収するために俺の私財を自由に使ってかまわない」
「かしこまりました。やはりクロヴィス殿下も伯爵家に気になるところが?」
「お前もか。侍候補としてくるはずだったのは、元は異母妹のジゼル嬢だった。果たして引きこもりだったナディア嬢が國王の希を遮ってまで、良い噂のない俺の侍として自ら名乗り出るのだろうか。そして伯爵たちはどうして傷心から回復したばかりの令嬢を、狂犬の前に差し出したのか疑問だ」
マスカール伯爵は過ちを悔いて家族を大切にし、オルガ夫人とジゼル嬢はの繋がらないナディア嬢にも気を配る優しい人だと社界では言われているが……笑わせる。
不倫をし、正妻と子をそれまで蔑ろにしておいて、母親が亡くなれば優しい家族気取り。全て伯爵側の主観から語られたもので、ナディア嬢からみた真実はどうか気になるところだ。
「そういえば、迎えに行った際も誰も見送りに來たことはありませんでしたね。伯爵や夫人、異母妹殿はおろか使用人の誰も……」
「そうか。一応知られぬよう姿を消した妖を何人かナディア嬢につけた。明日あいつらから現狀を聞けるはずだ」
今すぐにでも求婚したいところだが、王族の中でも特殊な立場上そう簡単に許されないのが歯がゆい。ナディア嬢を見送ってさほど時間が経っていないというのに、既に會いたい自分がいた。
控えめな格に、たおやかな微笑みは素樸だけれど、芯の強さは荒野に咲く強い一の花のよう。いつまでも見ていたいしい花だ。
「クロヴィス殿下に良き人が現れて、僕は嬉しく思います」
ニベルがクスリと笑った。
どうやら俺は隨分と緩んだ顔をしていたらしい。事実、これほどまで浮かれた気分になったのは久々だ。
あとはどうやってナディア嬢の心を手にれるかだ。主君として敬を抱いてくれているが、足りない。彼が最も求める男になりたかった。
晝間出來なかった公務の書類を片付けつつ、未來計畫を練っているとナディア嬢に付けていた妖たちが執務室に飛び込んできた。
「ナディア、ブタレタ!」
「嫌ナガ、ナディア苛メテタ!」
怒りの形相で報告してきた妖のは怒りのあまり熱くなり、近くにあった書類を焦がした。冷靜さを失った彼らの話は散らかり、まともに會話ができない。
「落ち著け。まずは見たこと全部教えろ」
意識した以上に不機嫌で低い聲が口から出てきた。
おで妖は我に返り、ナディア嬢のことを報告し始めた。
「脅してを奪っただけでなく、ナディア嬢の頬に傷をつけただと?」
話を聞いた俺はかつてない怒りをじていた。
はらわたは煮えくりかえって熱くなるのに反して、頭は凍てつくように冷えていく。
義母の傲慢なふるまいや言、屋敷からその景を見てほくそ笑んでいた異母妹の様子を聞けば、マスカール伯爵のナディア嬢に対する扱いもわかろうというもの。
今すぐにでも義母に仕返しをするのだと、苛烈なイタズラをするために飛び出そうとする妖を止める。
「ドウシテ止メルノ?」
「王の制約でイタズラの範囲は決められている。そのイタズラ程度では愚かな人間は自分の罪に気付かず反省すらしない。中途半端に刺激しては再びナディア嬢を傷付けるだろう……々時間はかかるが、正當な手段で俺が手を下す。協力してくれるな?」
「モチロン、ナディア助ケル!」
「帰ってきたときに褒を用意しておく。頼りにしているからな」
伯爵家の観察を徹底的にするよう命じ、妖を再びマスカール伯爵家に送る。
右手で頬杖をつき、左手の人差し指で機をトン、トンとゆっくりと叩く。こうすると獲をどう狩るかイメージが広がりやすく、すっかり癖になっている。
すると手慣れたようにニベルが紅茶ではなく、コーヒーを俺の前に置いた。
「今夜は遅くなりそうですね」
「そうだな。こんなにも噛みつきたい獲が現れたのは久々だ。しっかり牙を研いでおかないとな」
そう言うと、ニベルは珍しく張した面持ちでゴクリと息を飲む音を鳴らした。
【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】
【12/15にコミックス第1巻が発売。詳細は活動報告にて】 聖女モモを虐めたとして、婚約者の公爵令嬢クロエ=セレナイトを追放した王子レッドリオ。 だが陰濕なクロエが大人しく諦めるとは思えず、愛するモモへの復讐を警戒してスパイを付け監視する事に。 ところが王都を出た途端、本性を表す『悪役令嬢』に、監視者たちは戸惑いの嵐。 ※本編完結しました。現在、不定期で番外編を連載。 ※ツギクルブックス様より書籍版、電子書籍版が発売中。 ※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」でコミカライズ版が読めます。 ※世界観はファンタジーですが戀愛メイン。よく見かける話の別視點と言った感じ。 ※いつも誤字報告ありがとうございます。
8 83【書籍化決定】白い結婚、最高です。
沒落寸前の男爵家の令嬢アニスは、貧乏な家計を支えるため街の菓子店で日々働いていた。そのせいで結婚にも生き遅れてしまい、一生獨身……かと思いきや。 なんとオラリア公ユリウスから結婚を申し込まれる。 しかしいざ本人と會ってみれば、「私は君に干渉しない。だから君も私には干渉するな」と言われてしまう。 ユリウスは異性に興味がなく、同じく異性に興味のないアニスと結婚すれば妻に束縛されることはないと考えていた。 アニスはそんな彼に、一つだけ結婚の條件を提示する。 それはオラリア邸で働かせて欲しいというものだった。 (ツギクル様にも登録させていただいてます) ※書籍化が決定いたしました。12/9、ツギクルブックス様により発売予定です。
8 165お悩み相談部!
たまに來る相談者の悩み相談に乗り、その解決や手助けをするのが主な活動のお悩み相談部。そこに在籍している俺、|在原《ありはら》は今日も部室の連中と何気ないことを話し合ったり、一緒に紅茶を飲んだりしながら、なに変わらぬ代わり映えのない日常を過ごすはずだった……。 だが、生徒會から舞い込んだ一つの相談がそんな俺の日常を小説のような青春ラブコメへと変貌させる。 ●キャラクター紹介 |在原《ありはら》、今作の主人公。言葉は少しばかり強めだが、仲間思いのいい奴。でも、本人はそれを認めようとはしない。 |晝間夜《ひかんや》、在原の後輩でことあるごとに在原をこき使おうとする。でも、そんな意地悪な表裏にあるのは密かな戀心? 本人はまだ、それに気付いていない。 本編では語られていないが、在原にお弁當のおかずをご馳走したこともある。 |緋野靜流《ひのしずる》、在原の同級生。面倒見がよくいつも部室では紅茶を注いでいる。みんなからは密かに紅茶係に任命されている。 家はお金持ちだとか……。 |姫熊夢和《ひめぐまゆあ》、三年生。いつも優しそうにしているが、怒るとじつは怖い。 學內では高嶺の花らしく彼氏はいないらしい。みんなから愛されている分愛されるより愛したいタイプ。 じつはちょっと胸がコンプレックス。 |海道義明《かいどうよしあき》、在原の中學からの幼馴染。この中では唯一の彼女持ちだが、その彼女からは殘念イケメンと稱されている。仲間とつるむことを何よりの楽しみとしている。どちらかもいうとM。 |雙葉若菜《ふたばわかな》、海道と同じく在原とは幼馴染。在原のことを母親のように心配している。本人は身長なことを気にしているが、胸はどうでもいいらしい。じつは彼氏がいるとかいないとか……。
8 59終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビを操ってクラスメイト達に復讐する―
いじめのせいで不登校になっていた少年、夜月 帳(よるづき とばり)は、自分が引きこもっている間にパンデミックが起こり、世界中がゾンビで溢れかえっていることを知る。その中でトバリは、ゾンビと化した幼なじみの少女、剎那(せつな)に噛まれ、一度意識を失ってしまう。しかし目が覚めると、トバリはゾンビを操ることができるようになっていた。ゾンビになった剎那を好き放題にしたトバリは、決意する。この力を使って、自分を虐げていたクラスメイトたちを、ゾンビの餌にすることを。終わってしまった世界を舞臺に、トバリの復讐劇が今始まる! ※この作品は『小説家になろう』様でも掲載しています。
8 154【嫌われ體質】自覚したら最強?かも
主人公『五色 大輔』は生まれ持っての【嫌われ體質】、幼馴染みが居ない、小さい頃から回りの者に嫌われる、友達も居ない、ペットも犬、貓、鳥、金魚にも嫌われる。生き物から嫌われ、病気にも嫌われ、死んだら神にも嫌われていた…。ネタバレ注意、主人公以外にも迷い子(転生者)複數登場。
8 53剣聖と呼ばれた少年、願いを葉えるためにダンジョン攻略~最強がチートスキルで更に最強に~
柊司(ひいらぎ つかさ)は高校一年生にして剣道のインターハイで優勝できるほどの剣才をもつ天才で、世間からは敬意を持って剣聖と呼ばれていた。 そんな順風満帆な日々を送っていた司であったが、決勝の試合後に心臓発作で命を落としてしまう。 しかし捨てる神あれば拾う神あり、死んだ司の肉體を呼び戻し、條件付きではあるが異世界で生き返ることが出來た。その條件とは最初に攻略したものは願いを葉えることが出來ると云われている天の大樹というダンジョンの攻略。司は魔法の習得、剣術との融合、様々なことに取り組み天の大樹をどんどん攻略していく。果たして司は最後まで攻略できるのだろうか、また攻略したその先はどうなるのだろうか。
8 148