定例の報告會を終えた四賢者もバスケットの周りに集まってきた。

私は敷を広げ、その上に皿を並べ菓子を用意した。

「どうぞお召し上がりください」

すると賢者たちも他の妖と変わらずおいしそうに菓子を食べていく。どの賢者も可い。

「ナディアよ、何か気になることでもあるのかい？」

梟の賢者に言われ、ハッとして頭を下げた。見すぎてしまった。

「不躾に見てしまい申し訳ございません。馬以外のの姿を見たことがなかったので、思わず……失禮いたしました」

「そうか。我々は森の中でも強いの姿を模している。怖くはないのか？」

「賢者様だと分かっておりますし、珍しいの姿を見られただけでもして、怖さはありません」

「正直な想は？」

「……失禮ながら、どの賢者様も可らしく」

クロヴィス殿下から賢者たちの前では正直であれと言われていたので答えたが、やはり申し訳なくてもう一度頭を下げた。

「ホーホッホ！　これは弱そうな見た目に反して肝の據わっている娘だ。クロヴィスが気にるだけのことはある」

そう言うと梟の賢者は私のの中に飛び込んできたので、慌てて両手でけ止める。そして手のひらからじるり心地にが震えた。

「ホホホ、我の魅力がわかるか？　でるが良い」

「は、はい！」

気持ちいい。抵抗を一切じさせないらかな表面に、指が沈むようなふわふわ。らかい。高級なクッションよりも抱き心地が良い。

無我夢中で、けれども失禮のないように丁寧にで続ける。

「なかなか良いぞ。お前にはでる才能がある」

「栄でございます」

「ほう。では儂もでてもらおうかの」

「なら次は僕だね」

牡鹿の賢者様と狼の賢者様からも求められ、「本當に良いのだろうか」とクロヴィス殿下に視線で確認すると彼は頷いた。私は喜んででた。

牡鹿の賢者様はまるで上質なベルベットのような手りで、張りのある筋が手に吸いつくようだった。

狼の賢者様の質は太くも流れるようにサラサラで、おひさまの香りがたっぷり含まれ、思わず顔を突っ込みそうになってしまったのは緒だ。

蜂の賢者様は小さくてれることが葉わなかったが、菓子の禮として蜂をひと瓶くれた。琥珀のき通った高純度のだ。今度來るときはこの蜂でお菓子を作ることを約束した。

「賢者の皆様には謝申し上げます。貴重な経験をありがとうございます」

「またクロヴィスと森に來なさい。我らはいつでもナディアを歓迎しよう。ではな、クロヴィスとナディアよ」

クロヴィス殿下と私が頭を下げると、四賢者はとなって姿を消した。花畑にたくさんいた妖もお菓子に満足したのか、すでにほとんどが姿を消していた。

嵐が過ぎたように急に靜かになってしまった。

「私たちは晝食でも食べましょうか」

「そうだな。し早いが良いか」

しできてしまった無言の間(ま)が何となく気恥ずかしくなり、小さなバスケットを開ける。

中には朝から私がひとりで作ったサンドイッチがっていた。アスラン夫人ほど豪勢なものを作れない代わりにハム、卵、お、レタスとトマト、それにジャムなど種類富に用意した。

クロヴィス殿下の希で、今回はアスラン夫人の手助けなしで用意したのだけれど……

「お口に合えば宜しいのですが」

口がえた彼の口に合うか心配で思わず聞いてしまう。

「味しいに決まっているだろう。いつも練習しているのを知っているし、信用しているから君に頼んだんだ」

ひとつ食べ終わると、彼は間を開けることなく次のサンドイッチを口に運んだ。顔を緩ませ、食べる姿からお世辭ではないことが分かる。

「良かったです」

クロヴィス殿下の嬉しそうな顔を見て、私も嬉しくなる。

毎日のお茶の時間でも、このように彼の隣で座るため當たり前になりつつあったが、ふと現実なのか信じられないときがある。

あまりにも穏やかな時間で、今までの自分には無縁の時間で、夢のように消えてしまいそうで怖くなる。

でも今日はそんな不安もじないのは、ここが楽園のような場所のおかげだろう。

「まだまだありますからね」

「あぁ、ナディア嬢が作ったものだ。全部食べる」

「そんな、無理はなさらないでください」

と言ったものの、し多く作りすぎたと思っていたサンドイッチは綺麗になくなった。

その細のにどうやって収まっているのか不思議だ。

「ナディア嬢、君が俺の元に來て一か月が経つがどうだ？」

一緒に花畑を眺めながら食後の余韻を楽しんでいると、クロヴィス殿下が私の顔を覗き込んだ。

「とても楽しく過ごせております」

クロヴィス殿下も周囲の人も妖もみな溫かく、私を肯定し認めてくれている。まだ十七年と短い人生だけれど、一番楽しい時間を過ごせていることは間違いない。

「良かった。じゃあずっと俺の側にいないか？」

「はい。これからもクロヴィス殿下に仕えさせてくださるのなら栄です」

「そうではなくて……俺の妃になってくれないか、と聞いているんだ」

「――え？」

想像もしていなかったことに、聞き間違いや、夢を見ているのではないかと自分を疑った。