地竜の全を、大きな炎が瞬く間に包み込む。

「ギャオオオオオオオオッ！」

いかな地竜と言えどやはり火炎に包まれれば熱いのか、苦しげな咆哮を上げながら暴れる。頭や尾を振り回し、周囲の家屋や納屋にぶつかる。

木造の建は、地竜の重いをぶつけられて容易く崩壊し、建材が周囲に飛び散る。

「まだだ！　まだ距離をとれ！　地竜が弱り、アールクヴィスト閣下がかれるまで待つんだ！」

自のゴーレムを地竜から遠ざけ、そのにを隠しながら、グスタフがぶ。別の場所ではアレインや、全の指揮を統括するユーリも同じように指示を飛ばす。

竜の鱗は皮が化したものなので、鎧のようにくとも火がつけば焼ける。地竜は散々暴れ続け、転げまわり、しばらく経って油と鱗の表面を焼き盡くした火はようやく消えた。

「グルウウウ……」

火傷のダメージを負い、暴れまわったために疲れもしたのか、地竜は農村に突してきた直後と比べると明らかに元気がない。それを見たノエインが行を開始する。

「……っ！」

大量の魔力を消費しながらノエインがかした、自専用の巨大ゴーレム。それが司令部代わりの村長家のから地竜の前へと姿を現す。

「グオッ！　ギャオオオンッ！」

明らかに敵と分かる存在が現れ、地竜は激しく威嚇する。そこへ、ノエインは巨大ゴーレムを疾走させる。

拳を振りかぶりながら突き進む巨大ゴーレムと、それに立ち向かおうと前進する地竜。高はゴーレムの方が高いが、全長は地竜が二倍以上。

両者は激突し――押し倒されたのは巨大ゴーレムの方だった。巨大ゴーレムのくり出した拳の下を潛るように頭をかした地竜は、そのまま巨大ゴーレムの腕に食らいつき、のしかかる。

四足歩行の地竜よりも、二足歩行の巨大ゴーレムの方が重心が高く、バランスが悪い。巨大ゴーレムはあっけなく後ろに倒れ、地面が揺れた。

しかし、ただではやられない。ノエインの作によって無事な方の腕をかした巨大ゴーレムは、その腕で地竜の首を締める。

ゴーレムは人間と比べて腕が太く長いので、これで地竜はそう簡単には逃げられない。じたばたともがくが、大きく重いゴーレムが頭に絡みついていてはその場をくことも難しい。

「今だ！　クレイモアはけ！」

ユーリがび、それをグスタフやアレインが伝達。傀儡魔法使いたちがそれぞれのゴーレムをかし、地竜に四方から襲いかかる。そのうち何かは地竜の尾に弾き飛ばされ、衝撃で破壊されるが、多くは地竜のに取りつくことに功した。

ゴーレムたちがまず狙うのは、地竜の鱗。火で焼かれたことで脆くなった鱗を摑み、力任せに引き剝がす。あるいは叩き割る。特に四本の腳を中心に鱗を破壊していく。

「グギャアアッ！　グオオアアアッ！」

地竜は痛みにび、より一層強く暴れる。その暴走に吹き飛ばされるゴーレムもいるが、破損のない個はすぐに戦線に復帰する。

數で圧倒的に有利なゴーレムは、まるで蟻のように地竜に群がってダメージを與えていく。

「……このまま」

いけるか。とノエインが思ったそのとき。

「ゴガアアアアアアアアアッ！」

やはりそこまで甘くはなかった。地竜はおぞましい絶を上げ、生存本能を発させる。自らの首にまとわりつく巨大ゴーレムを、なんと首の力だけで持ち上げた。

地を這う生きである分、地竜はワイバーンよりも筋力があるらしかった。相當に重いはずの巨大ゴーレムのが浮き上がり、地竜はそのまま頭を振って巨大ゴーレムを投げ飛ばした。

地竜の首から巨大ゴーレムの腕が抜け、宙を舞った巨大ゴーレムはそのままノエインたちのいる場所目がけて飛んでくる。

「うわっ」

「退避！」

ユーリがび、ノエインを抱えたマチルダと、ノエインを囲むペンスたち親衛隊は全力で橫に飛ぶ。先ほどまでノエインたちがいた場所を通過した巨大ゴーレムは、村長家に突っ込んだ。

その衝撃で二階建ての家屋は半壊し、一方の巨大ゴーレムは片腕がもげ、腰から真っ二つに折れる。上半と下半が泣き別れになってはもう使えない。

巨大ゴーレムを投げ飛ばした地竜は、そのままノエインたちを見る。明らかにノエインたちを認識し、狙いを定めてきた。

「……まずい」

ノエインが表を強張らせて呟いたのもつかの間、地竜は軽くなった全を振るってまとわりつくゴーレムたちを払いのけると、雄びを上げて突き進んでくる。

それを止めたのは、リック率いる狙撃部隊だった。農村の西側り口から距離をとって建の屋などに配置されていた彼らは、地竜の目を狙って狙撃用クロスボウの一斉を浴びせる。

地竜が頭を激しく揺らしていていたこともあり、眼球を直撃する矢はなかったが、それでも目元を狙われた地竜はわずかに怯んできを鈍らせた。

そこへ、左右から二のゴーレムが襲いかかる。目印からグスタフとアレインのる個だと分かる二のゴーレムは、両側から地竜の頭を挾むと、その目を毆り潰した。

「グギュオオオオッ！」

よほど痛かったのか、地竜は奇妙なび聲を上げる。視界を失い、その場でじたばたと無茶苦茶にもがく。

そこへ再び、ゴーレムたちが殺到する。ノエインも自分が普段使っているゴーレム二に魔力を注ぐと、地竜へと向かわせる。

そこからは一方的な殺戮だった。ゴーレムたちは集中的に地竜の腳を狙い、鱗や爪を割り、剝がし、脆いを毆って骨を砕く。ときには弾き飛ばされながらもしつこく攻撃を続ける。

四足歩行の地竜は、その四つの腳を潰されればすはない。地面に腹をつけ、首とと尾をくねらせる無殘な姿になった地竜をゴーレムたちが総出で押さえつけ、最後にノエインのゴーレム二が地竜の首をへし折る。

地竜はをぶるりと振るわせると、それでかなくなった。

「……一応、脳を完全に潰しておこうか」

以前オークカイザーが半分死んだで暴れ狂ったことを思い出しながら、ノエインは呟いた。

ノエインは魔力供給中の巨大ゴーレムを破壊された直後に無理やり神集中をしてゴーレム二を作し、集中力が限界だったため、地竜の脳を潰す作業はアレインに任せる。

それと並行して、ユーリの指示のもとで大公國軍は損害の確認をする。幸いなことに死者はなし。地竜が破壊した建の破片をけて、軽傷者が十人ほど出たのみだった。バリスタは三臺が修理不可能なほどに大破した。

キューエル子爵やビアンカ・ランプレヒト爵の軍にも、目立った損害はなかった。巨大な地竜を相手にした戦いの結果としては、最良と言える。

「――ゴーレムは大破が四。部分的に破壊されたものが五。共食い修理をすれば、三はそのまま使える見込みです」

クレイモアの隊長としてゴーレムの損害を報告するグスタフの話を聞きながら、ノエインは小さくため息を吐く。

「ってことは、使用不能は六か……予備のゴーレムは殘り四まで減ってしまったけど、相手が地竜だったことを考えれば許容範囲の損害かな」

「こちらが頼めばキヴィレフト伯爵家やビッテンフェルト侯爵家から領のゴーレムの提供をけられるので、問題はないでしょう」

ノエインの橫でユーリが言った。ゴーレムは質さえ問わなければ、規模の大きい貴族領には存在する。魔道職人もいる。ダフネが製造し、整備したクレイモア用のゴーレムには及ばないだろうが、ないよりはましだ。

「そうだね。今のうちに何かゴーレムの提供を頼んでおこうか……巨大ゴーレムに関しては、どうしようもないね」

ノエインが視線を向けた先には、泣き別れになった巨大ゴーレムの上半と下半、そして外れた腕や割れた破片が並べられている。

「これはダフネさんにしか扱えませんからね」

「一しかないし、予備部品もないし……ダフネが見たら悲しむね」

巨大ゴーレムは整備も修理も時間がかかる。大公國に帰還しても、しばらくあれがくところはお目にかかれない。

ノエインがダフネへの申し訳なさをじていると、そこへ別隊としていていたラドレーの隊の兵士が駆けてくる。

「アールクヴィスト閣下、報告いたします……地竜をっていたと思われる敵の使役魔法使いと、その護衛の部隊を拘束しました」