《沒落令嬢、貧乏騎士のメイドになります》第五十六話 き出す
ベルナールは重い足取りで、客間まで向かう。
今回の事件ついて、どう謝れば良いものか、彼には分からなかった。
部下の不祥事は上司のさまざまな面に響いてくる。今日まで多大な迷をかけたであろうことは、分かりきっていた。
それに、信頼も裏切ってしまった。二度と、取り戻せるものではない。
客間の前まで到著すると、意を決し中へとる。
ラザールは二週間ぶりの部下の顔を見て、弾かれたように立ち上がった。そして、早足でベルナールの元へとやってくる。
「オルレリアン!」
ラザールがベルナールの名を呼びながら手を上げる。瞬間、ぐっと奧歯を噛みしめ衝撃に備えた。が、彼の行は無駄に終わる。
「お前、無事で良かった!」
「え?」
上げた手は、肩をバンバンと叩いている。
強く叩かれて痛かったが、想定していたものではなかった。
「あ、あの、隊長?」
「ああ、すまない。座って話そう」
ラザールは怒っていないどころか、普段通りの態度でベルナールに接していた。
ポカンとしていると、あまり時間はないと言って著席を急かされる。
「いったい何から話せばいいのやら――そうだな、まずは謝ろう。すまなかった」
「何の話で?」
「いや、お前が何か大変な行を起こそうとしていたのに、見て見ぬ振りをした」
ラザールはベルナールの不審な行に気付いていた。だが、止めることも、協力することも出來なかったと言い、謝罪をする。
「止めても無駄だと思った。それくらい、あの時のお前は差し迫った顔をしていた。協力は――俺が部下を引き連れてしたとしても、今頃みんなで仲良く雑居房の中だっただろう」
それほどに相手は強大で、敵わないと分かっていたのだ。
「頃合いを見て助けようと思っていたが、保釈金が高すぎた。騎士団に在籍していた犯罪者の中で、歴代一位だったそうだよ」
「……でしょうね」
「それで、どうにかしようと奔走していた時、釈放された話を聞いて本當に驚いた。まさか、オルレリアンが、かの大商人カルヴィン・エキューデの孫だったとは知りもせずに」
「母方の祖父です。カルヴィン・エキューデの名とは別に本名があるので、書類上は誰も気づかないかと」
大商人の名聲は良いものばかりではなかった。
拐、脅迫、詐欺など、親族はとにかくトラブルに巻き込まれやすい。なので、商売をしている時のみ、カルヴィン・エキューデを名乗っているという事があった。
「――とまあ、処罰容や保釈金の額を見て、騎士団部の人間が直接権力を揮い、オルレリアンを潰そうとしていることが分かった」
見逃せる事案ではないと思ったラザールは、調査に乗り出す。
「報を漁れば、あっさりと出てきてな」
ラザールが職権を使って資料などを探れば、重要な手がかりとなる報があっさりと見つかる。労務部の役職者への莫大な會食費、贈答費、使途不明の支援金など。
苦労することなく閲覧が出來たと話す。ありえないほど、管理がずさんであった。
「どうして、そんな――」
「騎士団部、昇格を目指す隊長格が部の不正について調べるとは思っていなかったのだろうな」
とにかく、報は揃った。だが、上の人間がやっていることなので、部告発をしても握りつぶされる可能が大いにあったのだ。
「この件を糾弾するには、大きな後ろ盾が必要だった。だが、そんなものなんてあるわけがない」
この國での絶対的な権力者、國王へ謁見をみ、直接申すことも可能であったが、そもそも、この件については黙認をされている可能もあった。
そうであれば、ラザールは取り押さえられ、口封じをされてしまう。
「どうしようもないと思っているところに、奇跡のような助け船が來たんだ」
「助け船?」
「ああ、エルネスト・バルテレモンが、オルレリアンの無実を証明したいと、訊ねて來てくれたのだよ」
「あいつが――」
エルネストは父親を説得してからやって來ていた。
彼の父親は指折りの大貴族であり、國でも大きな発言権を持つ。
「今後、バルテレモン侯爵が騎士団の部調査の証人と支援をしてくれることになった」
なので、安心してことのり行きを見守ってしいとラザールは話す。
「それで、お願いがあるのだが」
「はい」
「ここしばらく、王都を空けておいてしい。可能であれば、家族全員」
「ええ、それは、偶然ですがその予定でした」
ベルナールは三日以に王都から出て行くことをラザールに告げた。
だが、何故それが必要かと聞けば、これから潛調査などをして、詳しい報を探って行くと言う。その間、危険が何もないとは言い切れないからだと語っていた。
「侯爵様は怪しい者はもれなく全員捕獲したいとおっしゃっている。これから各地で、さまざまな騒ぎがあるだろう」
「そういうことだったんですね」
ベルナールはこの屋敷を使ってもいいと提案した。
數日家を空けていると思われるより、居るように見せかけるのもいいだろうと思ったからだ。
「いいのか?」
「はい。盜まれて困るような高価な調度品などもありませんし」
「助かる」
こうして、ベルナールの屋敷は騎士団部調査隊の活拠點地となった。
「それでだ。ここからが本題となる」
「?」
話は部調査の件についてだけではなかった。他に何があるのかと、ベルナールは眉間に皺を寄せ、考える。いくら考えても、分からない。
そんな中で話されるラザールの語る本題とは、思いがけないものだった。
「オルレリアンに頼みがあるんだ。事件がすべて解決したら、騎士団に復職してしい」
「――え?」
「はく奪された位は元に戻せるだろうと、バルテレモン侯爵様のお墨付きだ」
「隊長……!」
ラザールはベルナールの無実を証明しようとしていただけでなく、この先も騎士として働けるようにと、いろいろと行を起こしてくれていたのだ。
「ここまでして下さっていたなんて――」
「當たり前だ。優秀な人材を失うのは、騎士団にとっても損害になる」
「ありがとうございます。とても、嬉しいです。ですが――」
ベルナールは自の腳を見て、表を暗くする。
「どうした?」
「腳が、かないんです」
「怪我をしているからだろう?」
「刺し傷は完治しました」
「まさか、そんなわけないだろう?」
「自分ののことは、自分が一番分かりますので……」
原因はナイフに塗られた毒か、いい加減な治療後の化膿か、分からないと醫師は話していた。理由が分かったとしても、腳が元の通りにくわけではない。追及は無駄だと思っている。
だがしかし、その話を聞いてなお、ラザールは食い下がる。
「それでも、騎士団に戻って來てしい」
「俺に、何が出來るのでしょうか?」
「たくさんある。オルレリアンの騎士としての心構えは、素晴らしいものだ。それを、次代の若者に伝えることは、とても重要な騎士の仕事だろう」
「!」
ラザールの言葉を聞いたベルナールは、信じがたい気持ちになる。
怪我をしてを思うようにかせなくなったベルナールにもまだ、騎士として出來ることがあったのだ。
それをまれる嬉しさは、言葉では表せないものであった。
「まあ、それをするためには、事件の解決が第一となる。一杯頑張るが、最後にだけ、し協力してもらう形になる。大丈夫だろうか?」
「はい。是非とも、協力させて下さい」
「良かった。ありがとう」
調査は短期で行うと話す。
「家はどれくらい空ける?」
「一ヶ月ほどを予定しております」
「分かった。十分な期間だ。その間に、なんとかしておこう」
「ありがとうございます。ですが、無理はなさらず」
「ああ、危ない橋は渡らないようにする」
今回の騒ぎで、ラザールがかなり慎重な格だと改めて分かったので、その辺は心配いらないとベルナールは思った。
こうして、事件解決への道が開き、未來にもが差し込んできた。
あとは、ことが上手く進むようにと、祈るばかりである。
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