《沒落令嬢、貧乏騎士のメイドになります》番外編 『教ベルナールとやんちゃな生徒達』

騎士を育てる教として、ベルナールは新たなる一歩を踏み出した。

そんな彼が初めて指導する生徒は、王都から遠く離れた地方よりやって來た、十歳~十二歳の年達。

いずれも貴族ではなく、平民の出で、試験に合格をしたのでそれなりの者達が集まっていると思っていた。

だがしかし、ベルナールの期待は大きく外れることになる。

一日目。

アニエスの見送りをけ、妻弁當を持って出勤し、張しつつ教の休憩室へと向かう。

若き新任教であるベルナールを、同僚となる者達は溫かく迎えてくれた。

所長からも激勵され、幸先のいい門出だと思っていた。この瞬間までは。

突然、休憩所の扉が開かれる。

それは卒業前の十七歳くらいの従騎士であった。

慌てた様子の彼より、驚きの報告があげられる。

「し、失禮いたします」

「どうした、ジャック・イヴァーノ第五十期生?」

「教殿、大変です! 第五十六期生達が――」

第五十六期生はベルナールがけ持つ生徒達であった。

人員は十名。今日が初めての顔合わせとなる。

その彼らがどうしたのかと言えば、教室で闘騒ぎを起こしているとのこと。

ベルナールは立ち上がり、所長を見る。

深く頷くのを確認したので、休憩所を飛び出した。

ジャック・イヴァーノ第五十期生と呼ばれていた従騎士の案で、第五十六期生の教室まで辿り著く。

騒ぎは、外からでもよく分かった。

暴れているのは二名。周囲の者は囃したてたり、呆然としたりとさまざまだ。

罵倒容を聞いていれば、出地についてだった。どちらが田舎の出だとか、どうこうとめていたのだ。

ベルナールは深い溜息を吐く。彼らのには、よく覚えがあったからだ。

それは、妻アニエスとの出會いの場での記憶で、田舎貴族だと馬鹿にされたと思い込んでいたことがあった。悔しくて、暴れ出したくなる気持ちはわからなくもない。

故郷を罵られて許せない気持ちは理解していた。都會の者達が田舎と呼ぶ場所は、生まれ育った自分達にとっては田舎ではないのだ。

怒りを覚えるのも仕方がない話であったが、だからと言って、この騒ぎは無視できない。

ベルナールは勢いよく扉を開き、んだ。

「――お前ら、何してやがる!」

綺麗に並べてあった機や椅子は倒れ、教室も生徒二人が暴れ回ったおかげで埃が舞っていた。

ベルナールの登場で、取っ組み合いはピタリと止まり、囃したてていた生徒も黙り込む。

取っ組み合っていたとみられる生徒を離し、周囲の生徒達には機と椅子を整理整頓するよう命じた。

再び、喧嘩をしていた二人の生徒に向き直る。

「お前、名前は?」

「リジー・ドール」

「出は?」

「……サミルカ」

「麥の生産で有名な土地だな。あそこので作ったパンは香りがよくて味い」

拗ねたような表をしていたリジーであったが、ベルナールの話を聞いてパッと表を明るくする。

「うちの親、小麥農家なんだ! 王都からも、商人がたくさん買い付けに來ていて」

「そういえば、中央街のパン屋はサミルカ産の小麥で作られていることを宣伝文句にしていたような」

「本當!?」

今度買いに行くと、リジーは嬉しそうに言っていた。

次に、もう一人の生徒と向き合う。

「お前はなんと言う?」

「カイル・ジャーマニー」

「どこから來た?」

「アイルー」

ベルナールはリジー同様、出地の名産や気候を挙げ、話をする。

そうすれば、ふてくされていた表も、らかくなった。

人は誰もが皆、生まれ故郷を誇りに思っている。

それを馬鹿にされたら、居ても立っても居られなくなるのだ。

そもそも、何かを比べるという行為は良いものではない。

世の中にあるすべてのものは、それぞれが良い部分を持っているのだ。

それをわかってしいとベルナールは願い、雙方の生徒と話をした。

取っ組み合いの喧嘩をしていた二人は、互いの故郷について理解を深め、どちらが田舎だとか、いつの間にかどうでもよくなっていた。

場が収拾したと思い、授業を始めようかと思ったが、今まで大人しくしていた生徒が靜かな教室である言葉を呟いた。

「……どいつもこいつも、ガキばかりだ」

それをきっかけに、再び騒ぎが始まる。

ベルナールはどうしてこうなったと、頭を抱えることになった。

◇◇◇

「――というわけで、一日目は大変な騒ぎで」

「それはそれは。お疲れさまでした」

帰宅後、新妻アニエスがどうだったかと聞いてきたので、一日目の様子を語って聞かせた。

授業も思ったように進まず、見直しが必要であった。

「どうやら用語が難しいみたいで、これから容を改めなければならない」

「まあ! でしたら、まだお休みにはなられないのですね」

「まあな。お前は先に寢てろ」

「……はい」

シュンとするアニエス。だが、それも一瞬で、すぐに夫を応援する言葉をかけた。

「忙しいのも今だけだろう。慣れたら、ゆっくり過ごせるから」

「ええ」

そう言って妻の肩を引き寄せ、そっと額に口付けをした。

◇◇◇

半年後、騎士見習いの生徒達は王都での暮らしにも慣れたようだった。

ベルナールとも、比較的年が近いからか良好な関係を築いている。

「先生、奧さんとはどこで會ったの?」

人? に敷かれているの?」

「……うるせえ」

若干仲が良すぎる傾向にあったが。

ベルナールは放課後に生徒の剣の指導を行うこともあった。

剣技は授業に含まれず、仮隊する部隊で習うようになっているのだ。

だが、現場の騎士達は忙しく、教育に力をれる暇はない。

その事を理解していたベルナールは、補習的な意味合いで生徒達に剣の振り方や軽い実戦などを指導していたのだ。

「先生って、若いのに騎士を辭めて、教をしているんだ?」

「ちょっと前に腳を怪我したんだよ」

「噓だ~~」

生徒達から見て、ベルナールは腳に障害があるようには見えなかった。

「でも、オルレリアン先生のクラスでよかった。剣の腕も上がったような気がするし」

「俺も!」

手が付けられないほどやんちゃ盛りだった生徒達も、一人一人じっくりと付き合えば良い生徒だということが分かる。

休日も、生徒が希をすれば家に招いて剣の指導や、勉強などを教える。

集中力が続かない生徒に活をれていれば、トントンと扉が叩かれた。

って來たのはアニエスで、手にしていた盆の上にはお菓子とお茶があった。

「そろそろ、休憩にいたしませんか?」

「まあ、そうだな」

アニエスを初めて見た生徒達は呆然とする。

「先生、あの人は?」

「俺の妻だ」

アニエスはしい笑みを浮かべながら、挨拶をする。

「甘いは、お好きですか?」

「は、はい!」

「と、とても、好きです!」

「良かったです」

アニエスはそう返事をしながら、お茶をカップに注いでいく。

年若い年達は一気に頬を染め、お茶を淹れる人の姿に魅っていた。

アニエスが去ったあと、生徒達は興した様子で喋りだす。

「先生の奧さん、すげえ人だ!」

「やばい、あんな綺麗な人、見たことねえ!」

「どこに行ったら會えるんだ、あんなの人に!」

質問の數々に、ベルナールは答える。

「騎士をやっていたら、會えた」

その回答に、驚愕する生徒達。

「き、騎士すげえ……」

「や、やばい、今までにないやる気が……」

「が、頑張って騎士になろう……」

本日集まったのは、第五十六期生の中でも飛びぬけて集中力が欠けている三人であったが、以降、ぐんぐんと績が上がり、優良騎士の評価を得て卒業することになる。

騎士としての一歩を踏み出す生徒達を見送りながら、アニエスは凄いと、心の中でひっそりと思うベルナールであった。

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