《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第3章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 3 止まっていた時(3)
3 止まっていた時(3)
結局、智子から得た報はそのくらいで、あとはただただ伊藤が心配だと聲にする。
無論、彼は家に帰りたいだろう。剛志くんはどうしているかと聞いた後、
「わたし、家に帰れますか?」
と、恐る恐る聞いてきた。ここで返事を遅らすのは絶対まずい。
だから間髪容れずに答えるが、その後がどうにも難しいのだ。
「もちろん、家には帰れますよ。でも、今すぐってのは、それがちょっと難しくって……」
剛志はすぐにそう返し、この後どうするか即行頭を巡らした。
時計を見れば、すでに五時半を回っている。窓の外も暗くなって、きっと気溫もずいぶん下がっているはずだ。だから剛志はとりあえず、智子を自宅マンションに連れ帰ろうと思う。そして明日の朝出直して、あれがなんなのかを調べてみようと決めるのだった。
何がどうあれ、元の時代に戻れるのであれば、それが何より智子にとっていいことだ。
しかしそう簡単にいくとは限らないし、あの中にったら最後、さらに二十年先に行ってしまうことだってあるだろう。そんなことになったら、五十六歳になった剛志は、やはり十六歳のままの彼をここで待たねばならなくなる。
――何をするにしても、きちんとすべてがわかってからだ。
剛志は心に強くそう言い聞かせ、離れの部屋からタクシー會社に電話をかけた。
巖倉という名を告げた途端、向こうからすぐにここの番地と、「巖倉様のお屋敷ですね、正門の方でよろしいですか?」とまで返してくれる。
だからあっという間に話を置いて、剛志は電話の傍に十円玉をそっと置いた。
智子の時代は十円で、何時間でも話せたからもったいないくらいに思ったのかもしれない。しばらく十円玉をジッと見つめて、どうして? というような表を剛志に向けた。
そんな顔する智子に向けて、剛志はここぞとばかりに聲にするのだ。
「僕が知っていることは、すべてあなたにお話しします。ただ、実はここ、わたしの家じゃないんです。あなたを出迎えるために、本當の持ち主に、しばらく借りているだけでして……」
だから、自宅まで一緒に來てほしいと話すと、彼はほんのし考えてから、
「あの……ここがあの林のあったところなら、わたしの家はすぐ傍なんですけど、このまま帰っちゃダメなんですか?」
などと、當然であろう言葉を返すのだ。ここで強い否定を聲にすれば、きっと智子は不審に思う。しかし実際、今や彼に帰る家などないのだった。
あの事件後數年で、彼の父親はこの世を去って、母親もここ數年で亡くなっているらしい。さらに〝煮込み亭〟での話によると、大きかった屋敷は売りに出され、今ではそこに高級マンションが建っているということだ。
剛志はそこまで思い浮かべて、あえて智子を、そこへ連れて行こうと考える。
このままこの時代に殘ることになれば、いずれ二十年という月日についても伝えなければならないだろう。ただそれが、今である必要はぜんぜんないし、今夜、両親が死んだなんて話すつもりも頭ない。なくとも今は、そこに両親は住んでいない、という事実だけ知ってもらえればいいだけだ。そうして明日にでも、引っ越し先を調べてみようと聲にして、その後は玉川にあるマンションに向かえばいい。そう目論んだ剛志だったが、事はそんなに単純じゃなかった。
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