村の畑へとやってきたを目にした僕は、その景に唖然とする。そこには、原形を留めていないほど荒らされた畑があったからだ。

兄さまの話では、し調子に乗って強化の魔法で暴れまわっただけだと聞いていたのだが、これのどこがしなのだろうか。

畑全の広さに対して荒らされている割合は三割から四割だが、それを七歳の兄さまがやったとなればまた別の意味で驚愕することになる。

畑一帯には、仕事にを出す十數人の村人の姿がちらほらと見えたが、どことなく空気が重い気がした。

おそらく一生懸命耕した畑をほんのわずかな時間でダメにされてしまったことで、やる気がそがれてしまっているのだろうと予想を立て、現狀改善を行うべく僕はき始めた。

「こんにちわ、ちょっといいですか」

「な、なんでしょうか」

「先日は我が兄が皆さんに大変ご迷を掛けたと聞き及んでおります。そこでそのお詫びというわけではないのですが、皆様の畑仕事をお手伝いさせていただきたいのですが」

「そ、それは……」

村人の反応はあまりいいものではなく、寧ろまた厄介事が舞い込んできたという雰囲気を孕んでいる。そりゃあ、畑をめちゃくちゃにした人の家族となれば、同じように畑を荒らされるのではないかという邪推があっても不思議ではない。

僕は兄さまが自の地位を貶めるためわざと畑を荒らしたことを知っているが、仮にそれを知ったところで彼ら村人からすれば汗水垂らして働いた果を臺無しにされたことに何ら変わりはない。

本當のことを話したい衝をなんとか抑え込んだ僕は、優しい微笑みを浮かべながら頭を下げてお願いした。一緒に付いてきた護衛の人も村人も僕の行に焦ったように慌てふためいている。

「お願いします。兄の仕出かした不始末を償う機會を與えてもらえませんでしょうか？」

「ぼ、坊ちゃま何もそこまでしなくとも……」

「あ、頭をお上げください！　わ、わかりました。では、こちらに」

何とか真剣に頼み込んでお願いすると、ようやく頷いてくれた。護衛の人は納得していない様子だったけど、僕自がんでの行だと理解しているようで、余計な口出しはしてこない。村人の案で畑の端まで付いて行くと、木に立て掛けてあった鍬を手渡してくる。

「それでは、こちらの鍬をお使いください」

「ありがとう、それじゃあいきますね」

僕は兄さまに教えてもらった強化の魔法を発させると、ものすごい勢いで畑を耕し始めた。その勢いは凄まじく、瞬く間に荒らされた畑に綺麗な畝が出來上がっていく。

二人とも一何が起こっているのか最初のは呆然とするだけであったが、狀況を飲み込み始めた頃にはすでに荒らされた畑の三分の二が元の狀態に戻っていた。

その様子に周囲の村人たちが集まり始めちょっとした騒ぎになり始めた時には、荒らされた畑はすっかり元通りになった。

それを見ていた村人たちが驚きのあまり騒ぎ出し、それを聞きつけた他の村人たちが集まり出す中、騒ぎに気付いた村長と父さまも畑にやって來ていた。

「靜まれ！　これは一何の騒ぎだ？」

「そ、それが……」

この狀況をどう説明していいのか畑で作業していた村人が言い淀む中、僕は父さまのもとに歩み寄り狀況を説明した。

「父さま、僕が彼らのお手伝いを申し出て畑を耕したのです。差し出がましいとは思ったのですが、我がマルベルト家の人間が仕出かしたことを放っておくのは忍びなく、微力ながらお手伝いした次第です」

「な、なんとあれだけ荒れていた畑が元に戻っておる。一どうなっているのじゃ！？」

「マーク、あれをお前がやったのか？」

「はい、余計な事だったでしょうか？」

「い、いやそんなことはないが……」

村人たちの証言と、僕の言葉に最初は胡な表を浮かべていた村長と父さまだったが、それが真実だと知るとその表が驚愕と困のものに変化した。

わずか五歳の僕が、大人十數人掛かりで何日も掛かるような作業を瞬く間に終わらせてしまったという事実に驚きを隠せないようだ。

村人たちも最初こそ驚いていたが、畑が元の狀態に戻ったことでやるはずであった仕事をせずに済んだことを喜んでいた。

これで兄さまがこの村で行った事を全て解消できたはずなんだけど、これで本當によかったのかな？

僕がそんなことを考えていると、父さまが真剣な表で問い掛けてきた。

「マーク、お前強化の魔法が使えるのか？」

「はい」

兄さまからもし自分が魔法を使えるところを見られた場合は素直に使えることを認めろという指示が出ていた。理由を聞いたところ、別段隠すことではないということとこの年で強化の魔法を使いこなしているという事実は、貴族の家にとっては譽れになっても悪いことにはならないだろうという答えが返ってきた。

その言葉通りに素直に強化の魔法を使えることを認めると、父さまは僕に歩み寄り不意に僕を抱き上げた。

「そうか、でかしたぞマーク！」

「あ、ありがとうございます」

それからしばらく、父さまは僕を抱えたまままるで踴るように回り続けた。僕が強化の魔法を使えたのは兄さまの指導の賜だということを言いたかったのだが、僕が兄さまから領主になるための知識や技の全てを教えてもらっているのはなので、そのまま黙って父さまに抱えられ続ける。

父さまが落ち著いたところで降ろしてもらうと、村長が話し掛けてきた。

「マーク様、此度の一件誠にありがとうございますじゃ。これで予定通り、作を育てられます」

「気にしなくていいですよ。もともとは我が家の者が仕出かした不始末を付けるためのものですので」

「……マーク様」

僕の言葉に村長や村の人々が嘆する中、平靜を取り戻した父さまが口を開く。

「村長。これで稅の引き下げはしなくとも問題なくなったわけだな」

「そ、それは……」

僕が畑を元に戻したことで、稅率を引き下げなくともよくなってしまったことを指摘され、村長が言い淀む中僕は父さまにある提案をする。

「父さま、よろしいでしょうか？」

「どうしたマーク」

「今回の一件は我がマルベルト家の失態から始まったことです。それを狀況が一変したという理由で、一度確約されたことを反故にするのはあまり良くはないかと……」

「ふむ」

「どうでしょう。今回は謝罪の意味も込めて、約束通りこのまま稅を引き下げてはいかがでしょうか？　し稅を引き下げたところで、マルベルト領の財政が悪化することもないでしょうし」

「そうだな、お前の言う通りにしよう」

父さまがそう宣言されたことで、村長も安堵の表を浮かべる。

これで兄さまが指示されたこの村でやるべきことは終わったので、父さまに一言屋敷に帰ることを告げ村長に挨拶して護衛の人と共にその場を後にした。

帰り際に僕の耳に聞こえてきたのは「やはりロランよりもマークの方が」という言葉であった。