《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》25話「わざとやられた理由と全財産を失った理由」
冒険者ギルドから人の往來のある大通りへと出た俺は、周囲の気配を探る。
(ふむ、どうやら追ってきてはいないようだ。……ごまかせたか?)
警戒していた人が追ってきていないことを確認しすると、肩の力を抜きため息を一つ吐く。
なぜ俺がラボラスにわざとやられたのかと言えば、俺を見ていた冒険者の中にかなりの手練れと思しき冒険者が一人混じっていたのだ。
その者はフード付きの外套にを包んでいたため、男かかはわからなかったがその佇まいと纏っている雰囲気からかなり実力があると判斷した。
なぜその人を警戒していたのかと言えば、俺の今後の方針にも関わってくるのだが、基本的に俺はソロ――つまりは一人で冒険者活を行うつもりなのである。
ある程度の実力を持つ冒険者は、同じランクの冒険者や同等の力を持つ他の冒険者とパーティーを組み、複數で依頼をこなすことが多い。
しかしながら、俺の場合他の人間に知られたくないこともあるため、一人での行の方が何かと都合がいいのだ。
そして、ある程度の実力を持つ冒険者になってくると、他の冒険者たちに一目置かれる存在となり、何かと頼りにされがちになってしまう。
それが直接的にしろ間接的にせよ面倒臭い事を押し付けられる可能が高く、最悪の場合他人の拭いによって死ぬことだってあり得るのだ。
であるからして、自分の実力は隠しておいて損はないし、寧ろ知られない方が何かときやすかったりするのである。
尤も、マリアンには薄々気付かれたかもしれないが、最悪この街から逃げてしまえば問題ないはずだ……たぶん。
そんなこんなで、現在街の散策をしている俺の全財産は中銀貨三枚とちょっと、即ち三萬円くらいだ。
このお金は俺が父親のランドールから月毎にもらえるお小遣いからしずつ貯めたもので、汗水垂らして働いた金ではないが、それでも毎月コツコツと貯めてきた努力のお金に違いはない。
ラレスタの街は昔の中世ヨーロッパ風な造りをしており、薄茶の石畳が敷き詰められた大通りと木造やレンガ造りの建が軒を連ねる。
木造の建とレンガ造りの建の比率は大3:1くらいで、築年數が経過している建ほどレンガ造りが多く、比較的新しめの建に関しては木造が多い傾向にあるようだ。
そんなラレスタの街並みを目にれながら散策を続けていると、店が立ち並ぶ區畫へとやってきた。
詰まるところの市場らしく、陳列棚代わりの箱の中には食材や職人が作り上げた商品が陳列されていて、店員らしき人たちが客引きを行っている。
「はあい、坊や。うちの商品見てっておくれな」
「どれどれ」
そんな中の一つに、興味を引かれる商品が並ぶ店があった。
どうやら主に雑貨などの日用品を取り扱う店のようで、使用用途のわからないものばかりが並べられている。
その中に変わった鞄を見つけたので、聲を掛けてきた店員に聞いてみる。
「この鞄は?」
「それは【魔法鞄】だね。人や場所によっては“アイテム袋”だとか“マジックバッグ”だとかいろんな言われ方があるけど、要は見た目よりも沢山ものがる鞄だと思ってくれれば間違いないわ」
「ふーん。で、いくらすんだこれ?」
表向きは興味がないように平靜を裝いつつも、値段次第では買う気満々の俺は彼に魔法鞄の値段を聞いた。
しかし、返ってきた答えに思わず目を見張ることとなった。
「そうね。うちが扱ってる魔法鞄は容量もないし時間経過による劣化を防ぐ付與もされてないから、大負けにまけて中銀貨三枚ってところかしらね」
「なっ、そんなにするのか」
「そりゃそうよ。他のものと比べると容量はないけど、それでもこれ一つで五十キロまでならるからね」
「なるほど」
確かにそれだけの量がるのならその値段は納得だ。しかし、日本円で三萬円か……なかなかのお値段だ。
だが、この鞄があれば薬草採集も楽になるだろうし、モンスター討伐の際も素材を持って帰るのもかなり楽になる。
それになによりも、今の俺の所持金でも買えるというところも実に悩ましいところなのだ。
(だがしかし、待て落ち著くんだローランドよ。この鞄を買えば全財産を失うことになる。ここは慎重に考えねばなるまい……)
結局悩みに悩むこと三十分、俺が気付いた時には中銀貨三枚を彼に支払っていたのである。
言い訳ではないが、この鞄があれば今日みたいに薬草を手に抱えていく必要もないし、それに加え大量に持ち運びができる。
「まあ、先行投資ってやつだよねー。そう思うことにしよう!」
などと當たり障りのないもっともな理由を並べ奉っているが、詰まるところ無駄遣いは厳である。
実際魔法鞄が無駄遣いになるのかはこのあとの俺の行次第だとだけ言及して、俺は店をあとにする。
他にもいろいろと店を見て回ったが、魔法鞄以上のこれといったものは特になく、気付けば腹の蟲が泣き出したので店で適當に軽食を買い晝食とする。
なけなしのお金を支払うことになってしまったが、これも自らがまいた種、自業自得なので甘んじてけれよう。
市場の他にも冒険者が使う裝備や道などが売られている商店が立ち並ぶ區畫や、職人が武や防を作る工房がある區畫など様々な場所を見て回っていると、いつの間にか空が夕焼けに染まり始めたため、その日は宿に戻って夕食後に日課をこなしたあとですぐに就寢することにした。
翌日、再び冒険者ギルドへとやってきた俺は、昨日納品した薬草の報酬をけ取るため買取専用のカウンターに足を運ぶ。
ギルドにる前に魔力で気配を探ってみたところ、ラボラスも俺が警戒している人もいなかった。おそらく、依頼をこなしているのだろう。
カウンターには昨日と同じようにニコルがおり、こちらに気付いた彼がにこりと笑いかけてくる。
「おはようございます」
「おはよう。昨日納品した品の金をけ取りにきた」
「用意できております。こちらがセレニテ草の納品依頼の報酬にセレニテ草自の買取金額を加えた報酬になります。ご確認ください」
そう言ってニコルが渡してきたのは、小さな革袋だった。中を検めると、そこには大銅貨五枚がっている。
ちなみに報酬の訳は、セレニテ草の納品依頼が大銅貨一枚の報酬で、俺が採取してきたセレニテ草の合計が八本で一本當たり小銅貨五枚の計大銅貨四枚となっている。合わせて大銅貨五枚、五百円也。
報酬額が問題ないことを確認したあと、再びセレニテ草納品依頼をけることにする。
その旨をニコルに伝えたところ、常設系の依頼は納品対象となる品を先に採取してきてあとで依頼をけるという形を取ることができると言われたので、俺もそれに倣いセレニテ草を取りに行くため冒険者ギルドをあとにする。
ギルドをあとにする時に別の付で仕事をしていたマリアンと目が合ったが、忙しそうだったので目禮だけに留めておいた。
再び薬草が自生する森へとやってくると、前回と同じく鑑定を駆使してできるだけ多くのセレニテ草や他の薬草なども採取していく。
セレニテ草の他にも解毒作用があるデキシ草や食用となる茸類も僅かながら採取することができた。
気付けばお晝を回っていたので、魔法鞄の中にあらかじめれておいた店で購しておいた食べで晝食を取り、さらに採取を続ける。
すべて採取しないようある程度の薬草を殘しつついい時間になったので、街へと戻ることにした。
街に戻るとすぐに冒険者ギルドで採ってきた薬草を清算してもらうが、あまりに量が多いとのことで報酬は明日もらうことになったのだが……。
「一どれだけ採取したんですか!?」
「ニコル無駄口を叩いてないで、さっさと手をかしてください」
大量の薬草や茸類に愚癡をこぼすニコルとそれを手伝うマリアンの構図がなかなか対照的で印象に殘った。
薬草の査定は彼たちに任せて、そのまま宿に戻って夕食を食べた後お湯でを清め、強化や魔力の訓練である日課をこなしたあとで、眠りに就いた。
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