《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》37話「Aランク冒険者とあのモンスターとの再戦」
“バンッ”という床を叩いたような音が、ギルド全に響き渡る。
そのあまりの大きさに、騒いでいた人々が何事かと押し黙る。
音のした方を振り向けば、そこにいたのは一人の男だった。
男といってもただの一般市民などではなく、今いる場所が冒険者ギルドであるということを考えれば、男が冒険者ギルドに所屬している冒険者だということは彼が武裝していることからわかる。
しかしながら、ただの冒険者ではなく高位冒険者……所謂“ハイランカー”と呼ばれている連中だ。
冒険者のランクは上はSSSから下はFの九つの階級に區分されているのだが、さらに一定のランク毎に下位・中位・上位・最上位・伝説の冒険者に分類されている。
的には下位がF・E、中位がD・C・B、上位がA・S、最上位がSS、そして伝説がSSSといった合だ。
今まで得た報では、冒険者になるために必要な資格などは一切なく、ギルドの登録も無料なため登録の手続きさえできてしまえば誰でもなることができる職業だ。
その分何かあった時の責任は自分で負わなければならないため、毎年多くの冒険者が命を落としている。
そして、その多くが下位の冒険者……つまりはFやEランクの冒険者ばかりでDランク以上の中位冒険者という存在は、冒険者全から見れば數だ。
その中でも上位以上の冒険者ともなれば、それこそ國で五十人にも満たない選ばれた存在なのである。
ちなみにギルドの規定として最高ランクはSSSとされているが、現在そのランクを保持している冒険者はおらず空席となっているため、実質的には一つ下のSSが最高ランクと認識されているのが現狀である。
「おい、あれは【ヘヴィーカイザー】じゃねぇか?」
「帰ってきてたのか」
「誰だそれ?」
「お前はこの國に來たばかりだから知らねぇか。この國で主に活してる有名なAランク冒険者だ」
(Aランク冒険者ねぇ……)
他の冒険者かられ聞こえてきた話から相手が上位の冒険者だということはわかった。
だが、そんな人間が一全なにをするつもりなのか、この場にいた全員が彼に注目する。
「うるせぇぞ商人連中ども。靜かに酒も飲めやしねぇだろうが! 大素材の直接手の依頼はご法度だっててめぇらも知ってるだろう? わかったらとっとと諦めて帰りやがれ!!」
怒號と表現するにふさわしいほどの大音聲で男がび散らす。それだけで周りの人間が大人しくなり、委する。
ハイランカーの冒険者の敵意ともなれば、かなりの重圧が含まれている。それを戦いの素人である商人がけては、ひとたまりもないだろう。
そんなことを考えていると、男がこちらに歩み寄ってくる。
年の頃は二十代の前半くらいの悍な顔つきをした好青年というイメージがわかりやすいだろうか。背中にの丈ほどの巨大な大剣を背負っており、先ほどの大きな音もその大剣で床を叩くことで出したようだ。
「大丈夫か坊主? いろいろ大変だったな」
「あ、ああこっちとしては実害はないから問題ない。この場を収めてくれたこと、謝する」
「気にすんな。困ったときはお互い様だ。俺はギルムザック、こう見えてAランク冒険者だ」
「ローランドだ。ランクはEだ」
「まさか、お前みたいな坊主が今起きている騒の中心人だとはなー。よろしくな」
お互いに自己紹介をし、握手をわす。
その間にもギルムザックの威圧のおか、あれほど騒いでいた商人たちが三々五々にギルドから解散していく。
中には諦めの悪い商人もいたが、ギルムザックがひと睨みすると兎の如く逃げて行った。
「じゃあ俺はこれから仲間と依頼をけに行くんで、これで失禮する」
「ああ」
短い挨拶をわし、酒場にいた仲間と共にギルムザックがギルドを出ていくのを見屆けたあと、付カウンターに向かった。
カウンターにはミリアンが眠たそうに船を漕いでいたが、俺が現れたことを知るとすぐに眠気を飛ばし挨拶をする。
「あらー、ローランド君じゃない。今日も依頼をけに來たのー?」
「それなんだが、あるモンスターの報を聞きにきた」
今日俺が冒険者ギルドにやってきたのは、依頼をけるためではない。あるモンスターを狩るために事前報を手にれておきたかったからだ。
そのモンスターとは他でもない、ワイルドダッシュボアのことである。
以前奴に遭遇した時は、魔法鞄の容量が小さく倒しても持ち帰ることができなかったが、五百キロの魔法鞄を手にれた今ならば持ち帰ることは十分可能だ。
ならば以前約束した通り奴を狩ってやるのが道理というものではないだろうか?
だが、ワイルドダッシュボアはダッシュボアの上位種であるため、油斷ならない相手だ。戦う前にしでも報があればと思ったのだが……。
「ローランド君、ワイルドダッシュボアに出會ったの?」
「ああ、その時は持って帰れそうになかったから見逃したんだが」
「悪いことは言わないわ。やめておいた方がいいわよ」
珍しく真剣な眼差しで訴えかけてくるミリアンだったが、もうすでにワイルドダッシュボアを狩ることは決まっていることだ。中止にする理由はない。
「忠告はけ取っておこう。倒せそうにないなら、また逃げてくるだけだ」
「そう……ああ、そういえばワイルドダッシュボアの報についてだったわね。行パターンは通常のダッシュボアと同じだけど、攻撃力や防力が桁違いに上がっているわ。あと知能も高いから予想外の行を取ることもあるから気を付けて」
「わかった。報提供謝する」
ミリアンから一通りの報を手した俺は、さっそくワイルドダッシュボア狩りに向かうことにする。
彼は終始心配そうな顔を浮かべていたが、能力自は俺よりも格下だし俺自油斷せず全力で戦うつもりなので、よほどのイレギュラーが発生しない限りどうにかなると考えている。
「そういえば、ニコルはどうしたんだ? 姿が見えないが」
「彼は今日お休みよ。ニコルに用だったかしらー?」
「いや、いつもギルドにいることが多かったからな。姿が見えなくて気になっただけだ」
これは本當だ。特にニコルに対し特別なを抱いているというわけではなく、ただ純粋にいないのでどうしたのだろうと疑問に思っただけなのだが、どうやらミリアンは何か勘違いしたようで、さっきからニヤニヤ顔を浮かべている。
「ローランド君ってそうなのー? 若いっていいわねぇー」
「何か勘違いしているが、俺は別にニコルにそんなは抱いていないぞ?」
「あらー、そうなの?」
「の好みで言うなら、ミリアン。お前の方がとしては好ましい」
「ちょ、ちょっと、何言ってるのよ。大人をあんまりからかわないでちょうだい!」
先にからかってきたのはそっちなんだが、という突っ込みをかろうじて押し留めることに功した俺は、彼に行ってくるとだけ告げギルドを出た。
俺がの好みを告げた時ミリアンの顔がし赤かったような気がしたが、気のせいだろうか? 妙なフラグが経たなければいいのだが……。
~~~~~~~~~~
そんなこんなでいつもの狩り場にやってきた俺は、早々に森へと進軍を開始する。
目的は言わずもがなワイルドダッシュボアなので、道中で出會ったモンスターはすべてスルーする。
さすがに薬草は採集しておくべきかとも思ったが、今日中に見つかるかわからなかったのでワイルドダッシュボア優先で森を突き進む。
「む、いたな……」
そのまま気配を探りながら進んでいくと、開けた場所に出た。そこは大きな巖が點在している巖場となっており、そこにかつて見たあの巨がいた。
見間違えることのない巨は、何か探しているような仕草を見せているが、しばらく観察した結果特に意味のない行だという結論に至る。
(戦う前にステータスを確認しておこう)
一応だが念のためステータスを確認することにする。事前に確認することがあとになって重要なことを思いついたりするからこういったことはとても大切だったりする。
【名前】:ロラン
【年齢】:十二歳
【別】:男
【種族】:人間
【職業】:元領主の息子
力:1800
魔力:2000
筋力:B+
耐久力:B
素早さ:A
用さ:B-
神力:B+
抵抗力:B+
幸運:A
【スキル】:鑑定Lv6、強化Lv5、気配察知Lv4(NEW)、気配遮斷Lv3(NEW)、魔力制Lv6、魔力作Lv6、火魔法Lv4、水魔法Lv4、風魔法Lv5、土魔法Lv4、剣Lv5、格闘Lv6
ワイルドダッシュボアと出會ってからも日課のトレーニングは欠かしておらず、日々ダッシュボアやフォレストウルフを狩猟していたこともあって以前よりも能力は向上している。
魔力を使った気配を探る技を多用していた果もあってか、新しく気配察知と気配遮斷というスキルを手にれた。詳しい能力は字面の通り、気配の察知と遮斷する能力だ。
ワイルドダッシュボアとの初遭遇から能力も向上し、新たにスキルを手にれている。これならば萬が一にも格下の奴に後れを取ることはそうそうないだろう。
奴に気付かれないよう気配遮斷を使って近づき、鑑定で改めて奴の能力を調べる。
(能力は以前とほとんど変わってないようだな……よし、これならいける)
相手はこちらに気付いておらず、こちらは戦う準備は整っている。俺は先制攻撃のチャンスと見て、奴に奇襲を仕掛けることにした。
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