《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》38話「二度目の大狩り」
「【アクアボール】!」
こちらに気付いていないワイルドダッシュボアに向け、今必殺の“アクア戦法”を仕掛ける。
手から放たれた水の球が奴の顔全を覆い盡くし、呼吸を阻害する。
自の異変に気付いたワイルドダッシュボアがフゴフゴと暴れ回るものの、顔を覆う水を払い除けることはできていない。
このままあっさりと勝負が決まってしまうと思われたその時、いつもと違う事態が発生する。
「なるほど、確かに並のモンスターではないな。俺の必殺のアクア戦法が破られるとは」
突如として、ワイルドダッシュボアのに薄い狀のようなものが張り巡らされる。見覚えのあるそのは他でもない、強化が発している狀態を意味していた。
通常強化は自分自のにある魔力を使用し、それを全に包むようにすることで機能を向上させる能力だが、その他にも特殊な使い方が存在する。
それは己を自分の魔力で包むことで、他人の魔力の介を阻止するという副次的な能力だ。今回の場合、俺の使ったアクアボールがそれに該當する。
俺の魔力で作られているアクアボールを、ワイルドダッシュボアが持っている魔力を使ってそれを阻止する形で、魔力形した水の球を霧散させたのだ。
魔法は基本的に魔力を源として使用されるれっきとした理現象だ。魔力があるからこそ魔法が使える。これはこの世界の魔法の常識といっても過言ではない。
自分の持つ魔力と他者の持つ魔力は質が異なるため、基本的に水と油のように混じり合うことはない。その質を利用して今回ワイルドダッシュボアは、俺のアクアボールの無効化に功したのであった。
両手で數えきれないほどのダッシュボアとフォレストウルフを倒してきた方法があっさりと破られたことに一瞬戸ったが、それならそれで他の手段を試すだけだと頭を巡らし始めたその時、それを邪魔するかのように奴が突進してきた。
「ブモォオオオオ」
「ちっ、豚の分際で。ふっ、そんな直線的な攻撃が當たるわけ――な、なにっ!?」
奴の突進を直撃する寸前で回避する。これはいつもダッシュボアに対してやってきたことなので、俺にとってはいつもの流れ作業的な行だ。
ダッシュボアの上位種だけあって突進のスピードは些か速かったが、それでもきが単純なので避けるのは簡単だった。予想通りの軌道で突進してきたワイルドダッシュボアを避けることができたのだが、ここで想定外のことが起きた。
「ぐっ、そうきたか……伊達に上位種に分類されているわけではないということか」
奴め、俺が攻撃を回避した瞬間すぐに勢を立て直し、まるで追尾機能の付いたミサイルのように方向転換して突っ込んできたのだ。
三メートルを超える巨を持つにしては小回りの利いたきをするワイルドダッシュボアに、さすがの俺も回避することは葉わず、奴の突進をまともに食らいそうになる事態にまで陥る。だが、いくら虛を突かれたとはいえまともに當たってやるわけにはいかない。
「はぁあああああ!!」
ここで俺は日々鍛錬してきた強化を全力で発させる。俺のの周囲を結界のような狀の何かが出現すると、機能が著しく向上する。
その力を以って、右腕を突き出しワイルドダッシュボアの突進の勢いを殺すことに功する。
奴自、自分の突進をけ止めることができる生と出會ってこなかったのだろう。自分の突進が止められたことに理解が追いついておらず、困気味な表を浮かべている。
「ほーう、俺の全力の強化と拮抗するとは、なかなかの突進だ。いや、俺のがまだ十二歳だということを考えれば、俺の修行不足だと言った方がいいかもな」
「ブ、ブモォオオオ!」
強化を駆使したワイルドダッシュボアの突進をけ止めることができる者など、一部の高位冒険者を除けばほどんと皆無と言っていい。しかし、俺はそれができてしまっていた。
だが、俺としてはそれくらいの力がなければ降りかかる火のを払うことすらできないと思っているし、この程度のモンスターに苦戦するなど論外だ。
拮抗するワイルドダッシュボアも突進をけ止められたことに困していたが、さらに力を込めてこちらを押しつぶそうとしてくる。そんな奴に対し、空いている左腕で毆りつけることで奴を後退させることに功する。
毆りつけられた衝撃と痛みで悲鳴のような鳴き聲を上げるワイルドダッシュボアだったが、ダメージ自はそれほどないようですぐに威嚇のような咆哮を上げて再び突進してくる。
「ほっ、はっ、追尾してくることがわかっていればこの程度のものか」
「ブモォオオオ!?」
自分の突進が盡く躱されているという事実に、驚愕と恐怖のを浮かべ始めたワイルドダッシュボアを目にして、俺は頭の中でこの戦いの幕引きの方法を模索していた。
相手を傷つける方法は避け、できるだけ無傷で素材を手にれたい。そのための最も良い方法は、やはりアクアボールを使った窒息である。
しかしながら、こいつは強化を使って俺の魔力で作ったアクアボールを自分の魔力で相殺することでアクアボールを無効化してしまう。ならどうするか?
「うん。一応方法はいくつか思いついたが、果たしてうまくいくかな。まあ、だめだったらだめで他の手を考えるだけだけどな」
いくつかの手段の中で一つ思いついた手を使用してみることにする。まず今も突進してきている奴の攻撃をひたすら避け続ける。
いくら相手がモンスターとはいえ、永遠にき続けられるわけではない。まずは抵抗できないように奴の力を削ることを優先する。
ワイルドダッシュボアの攻撃を回避し続けること三十分、どうやら奴の持つ魔力が盡きたようで、纏っていた強化が消えていた。
息遣いも荒くなり、突進の頻度と勢いが徐々に落ちてきている。もうそろそろ作戦を実行しても問題ないだろう。
……なに? 俺はバテていないのかって? まあ、奴ほどではないがそれなりといったところだ。まったく問題ない。
「ブモォ……」
「お前はよく戦った。しかし、お前はもうここで終わりだ。食らえ! 【スネイクウェーブ】」
きの鈍ったワイルドダッシュボアに向け、俺は水魔法で作った蛇型の攻撃魔法を放つ。
蛇のようにく水の奔流は、狙い違わず奴の口へと吸い寄せられるように向かっていく。
すべての水がワイルドダッシュボアの口の中に吸い込まれていき、奴の肺を水で一杯にする。
そうだ。俺の考えた作戦……それは口を塞いで窒息させられないなら肺自を水で一杯にして呼吸できないようにしてしまえばいいという強引なものだった。
強化での他者の放った魔法阻害は、の外側でこそその効力を発揮する。しかし、にり込んだ他者の魔力をかき消すというのは事がまた違ってくる。
先ほど説明したように自の魔力と他者の魔力が混じり合うことはない。水と油のようにぐちゃぐちゃな狀態となってしまう。
そして、でそれが起これば自分の魔力と他者の魔力とが打ち消し合って魔力消費という結果が殘るのである。つまり魔法を使っていないのに使ったという狀態になってしまうのだ。
現狀奴は強化の力を使いすぎたために魔力が極端に減ってしまっている。そんな狀態でに魔力で作った水がり込めばどうなるのかは想像に難くない。
「ゴボ、ゴボボボボ」
「上位種にしてはよくやったが、俺の敵ではなかったな」
いつまで経っても供給されない酸素に次第に奴のきが鈍っていく、口かられ出すのは水ばかりで空気を求めて呼吸をするも、肺に直接り込んだ俺の水魔法がそれを許さない。
そんな狀態が數分も続けば當然ながらただで済むはずもなく、しばらくしてワイルドダッシュボアの巨が地面に橫たわり、かなくなった。
「終わったな……じゃあさっそく解といくか」
戦いに勝利した余韻に浸ることなく、すぐさま解作業にる。しはワイルドダッシュボアを労わってもいいのかもしれないが、そんなことをして素材の鮮度を落としたくないのでさっさと解作業にる。
しかしながら、これだけ言わせてもらおう。ありがとうワイルドダッシュボア、そしてさようならワイルドダッシュボア。
「抜きはこれくらいにして、皮を剝いでいくか……ふんっ、って固ったいなぁ!? 鉄のナイフがらんだと!?」
抜きをするときに首筋を切ることはできたのだが、あまりにワイルドダッシュボアが固すぎるため、それ以上ナイフがらなかった。
とりあえず解は後回しにして、ワイルドダッシュボアを解できるナイフを街に戻って探そうと考え始めた時、とある考えを閃いた。
「そうだ。ナイフが無理なら魔法を使って解すればできるんじゃね?」
幸いなことにワイルドダッシュボア自のの構造は、ダッシュボアのそれとなんら変わらない。つまり切り込みをれる箇所を間違わなければ、魔法を使っても十分解は可能なはずだ。
「……試してみるか。【ブロウカッター】」
魔法での解を試みるべく、風魔法で作った刃狀の魔法を手足のように作していく。その切れ味は鉄でできたナイフの比ではなく、まるでプリンを切るかのようにサクサクと解できてしまった。
「できちゃったよ……。これ、普通にナイフで解するよりも早くね?」
なぜもっと早く試さなかったのかという後悔と共に、これで日々の解作業が短されるという事実に顔を綻ばせる。
とりあえず、解に関しては問題なく完了したので、次に手にれた素材を味していく。
「どれどれ……皮にに骨に牙か。ここまでは普通のダッシュボアと変わらないけど、魔石が大きいな。テニスボールくらいあるんじゃね?」
手にれた素材はどれもダッシュボアと変わらないのだが、その品質は比べものにならないほど上質で、鑑定を使わなくてもわかるほどだった。
モンスターから手できる魔石も、通常のダッシュボアの魔石の大きさが直徑五ミリ程度の大きさに対し、今回手した魔石は目測で四センチから五センチほどと大きかった。
三メートルを超える巨から取れる素材の量は計り知れず、はなくとも三百キロ以上あり、皮や骨などもダッシュボアの數十倍の量が手できている。
「新しい魔法鞄でもぎりぎりるかどうかってところだな……ここに來る途中で他のモンスターを狩らなくて正解だなこりゃ」
新しく手にれた五百キロの魔法鞄でもぎりぎり足りるといったところで、仮に他のモンスターを狩っていたらそっちの素材は捨てなければならなかっただろう。……危ない危ない。
「おし、解も終わったし、このまま街に戻ってもいいけど……まだやらねばならないことがあるよなぁー?」
そう獨り言を呟きつつ、俺はとあることをするためニヤニヤ顔で粛々と準備をし始めた。
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