《妖刀使いがチートスキルをもって異世界放浪 ~生まれ持ったチートは最強!!~》113:奪われた者
「ねぇ、ユウ君。私と一緒に殺し合いましょ?」
ユウはその聲に聞き覚えがあった。それはの聲であり、先日行方不明になったと聞いた、不知火雛乃の聲だった。
周りにはまだ魔もいて、それに対抗するように冒険者たちが闘を続けている。
「不知火、なんでお前がこんなところに……」
「何でって、そりゃユウ君に會いに來たからだよ」
そんなこともわからないの? と続け、その虛ろな瞳でユウを見つめていた。ユウはそんな不知火を見てその異常に気づいていた。
雛乃は薙刀を片手でぐるぐると回し、だんだんと距離を詰めてくる。そんな雛乃にユウはムラクモを構えていた。
「あはっ、殺る気になったんだ。うれしいなっ」
ユウが刀を構えたのを見ると、すごくうれしそうな反応を示し、ぐるぐると回していた薙刀を止め一気に距離を詰めてきた。それと同時に繰り出される薙刀の一突き。それをかろうじて躱し、ユウは大きく後ろに飛び距離を取る。
「その詰めの速さ。地に似た移スキルを持っているな」
「そうだよ。今のは飛足ヒソク。さぁもっと楽しもっ」
先ほどと同じように、ユウへと距離を詰める。たださっきとは違い、距離を取らせる気はない。ユウもそれに対抗するように、け流し、弾き、雛乃の薙刀をいなしていく。
このき方は薙刀のリーチを生かして、相手を追い詰めるような攻め方をしている。
薙刀を大きく上には時期、足払いをする。だがそれは読まれていたようで、雛乃は勢を立て直すように、距離を取った。
「不知火。お前は一何がしたいんだ」
「私は、私はもう奪われたくないの。自分の周りから大切なものがなくなっていくのが嫌なの、耐えられないの。そんな私が今しいのは、ユウ君、貴方だよ。でも、あなたは周りに溺れて、私から離れて行く。せっかく會えたのに、また私から……。だからね、今まで奪われてきた私は今度は奪うの。貴方を、いえまずはあなたの周りから奪っていく。それが今の私のしたいことだよ」
虛ろな目で雛乃はユウを見ていた。その目に噓はなく、ただ悲しそうにでもうれしそうな、そん顔をしていた。
魔は周りで冒険者たちと爭っている。球に流れてユウの元へ向かってくる。それをユウは一太刀で払う。対して雛乃の元には魔が向かおうとしない。
《すいません。ますたー再起に遅れました》
唐突にユウの頭の中に聲が響いた。それはいつもユウの助けになる優しい聲。黙示録であるエルの聲だった。
《狀況の整理完了。大型種はレジーナ及びラースによって討伐。中型の魔にはCランク以上の冒険者たちと騎士で対応可能。それ以外の小型は個別で當たります》
今のエルの意思疎通の相手はユウ以外にアイリス、レジーナ、ラースにも伝わっている。
(すまない。俺はちょっと相手しなきゃいけないやつがいるみたいだ)
(大丈夫です。ユウさんは充分に活躍しました。他はこっちで対応します)
心配そうな、でも応援したいそんな気持ちの籠ったアイリスの聲が聞こえた。こっちの狀況はエルを通じて3人にも伝わっただろう。
「無視されるとへこむなぁ」
こっちの狀況整理の途中で雛乃は薙刀を構え突撃してくる。何の影響かはわからないが、直接的に雛乃はに向ける瞳の能力は使えないみたいだ。
「ほらほら、どうしたの? ユウ君はそんなものじゃないでしょ」
雛乃は土魔法と薙刀の連攜が得意らしく、隙がなかなか見當たらず、防戦一方だ。
《ますたー何をためらっているのですか? 敵意を向けられているんですよ?》
そんなユウの心を見かすように、的確にエルは突っ込みをれる。そうただ踏み切れないだけ、敵だと思いきれないだけ、それが防戦一方になる理由。
「あぁ、詰まんない、詰まんない、詰まんない。ねぇ、何か失くせば、あなたは本気になるのかな?」
《ますたー!》
エルの聲も、雛乃がやろうとしていることも全てが、全てにユウが気付くのが遅かった。
『魔閃マセン』
その黒い瘴気を纏った薙刀は的確にムラクモを狙い、不利な勢からその薙刀とぶつかったムラクモの刀は、その黒い刀を二つに分かれた。何も音を立てず、周りの音すら聞こえない。そんな中、別れた刀は地面に落ち、ユウは狀況を整理出來ずにいた。
「あはは、奪っちゃった。奪っちゃった。私がユウ君のを、私がユウ君を。大切なものを、うふふふふふ」
薙刀を右手に自分の両腕で自分を抱きしめ、妖艶な笑みを浮かべていた。
「ムラクモ、ムラクモおい返事しろよ、いつもみたいに、なぁ」
柄とし殘る刀。それを抱えて、地面に座り込む。ユウの耳には耳障りな笑い聲が聞こえていた。
「ははっ、何年ぶりだろうな。俺が涙を流したのは」
ユウは左手の甲にある竜紋を発させ、ノワールを呼ぶ。折れた刀、殘った柄、そして鞘それをノワールに預けて、王城へと向けて飛ばせる。それを逃がさないとばかりに土でできた槍を飛ばす。
「邪魔すんなよ」
飛んでいった土の槍は空中で歪んだ空間に飲み込まれる。
「あはっ殺る気なんだね」
「あぁ、期待に応えてやるよ」
ユウの周りには溢れんばかりの黒い魔力があった。
「力を貸せよ。ヨリヒメ」
“いいよ。実はボクも結構イラついてるんだ”
『我は萬象に乞い求。魂鬼が纏いし災禍の鎧を!』
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