――首相邸。

「それで、今回の問題についてどう対応されるおつもりですかな？　夏目総理」

「どう対応するも何も、もともとは與黨の失策のせいであろう？　私のせいにされても困る。それを元・財務大臣である君が知らないとは言わせないぞ？　竹山」

「――くっ！？」

総理の言葉に竹山はを噛みしめると反論する言葉を失う。

5年前に、與黨が、労働者が足りないなら外國人労働者の力を借りればいいと安易に通した外國人労働者國という法案。

それは、移民政策と変わりないであった。

そもそも市場経済というものは、売り手と買い手という絶妙なバランスでり立っている。

今は存在しているのかすら曖昧な政黨が與黨になった時に、男雇用機會均等法を作り100の市場に200の働き手を作ったことで雇用バランスは崩壊。

日本人の賃金は半分以下まで下がった。

それは至極當たり前であった。

高校生でも――、否！　中學生ですら分かる簡単な理論であった。

何せ、企業が雇用者に払える賃金の絶対額は増えない！

そこに倍の労働力が増えたらどうなるのか？　払える額が倍になるのか？　なるわけがない。

つまり、倍の労働者に払うお金が100しかないのなら50になってしまう。

それが日本の賃金が下がったもっとも大きな理由だ。

「そもそも貴様が、元・総理と作り出した派遣法は、どれだけの國民の安定した職を奪ったのか理解しているのか？　貴様らの愚策のせいで大勢の國民が苦しんでいたという事実をシッカリとけ止めるのが貴様の功罪であろうに」

「――で、ですが！　ダンジョンに派遣社員を派遣するのを止するのはやりすぎでは――」

「貴様は馬鹿なのか？　ダンジョンでは己の命をかけて日々の糧を得ているのだぞ？　派遣會社のような中抜きが許されるわけがないであろう？　本來であるなら貴様のその首、國賊として即切り捨てても文句は言えないということを理解しておけよ？」

「――そ、それは……、脅し……では……」

「脅しではない。事実だ、貴様の作った派遣法というのは、それだけ大勢の國民を苦しめているという事実を知れ」

「――ッ」

夏目総理の鋭い眼に、元・財務大臣はを震わせると部屋から出ていく。

そして扉が閉まる。

「夏目総理。仮にも、あの男は大手派遣會社の會長です。いまの発言は些か問題だったのでは？」

「ふむ……、たしかにな……。あまりにも自分の悪徳を顧みないゴミに神経が逆立ってしまったことは――、否定はせん。そうだな……」

移民政策と消費稅増稅により日本の経済は低迷。

それを打破するために、政黨を作り當時の與黨を破り過半數を得た新政黨であり現與黨。

その名も日本黨。

――そして日本黨の総帥であり日本國　第99代　閣総理大臣　夏目(なつめ)　一元(かずもと)。

それが男の名前であり、日本國における彼の立場であり役割であった。

「あの者の処遇は、歴代売國奴と同じく事故死ということで処理をしておけ。ああいう輩は日本には必要ない。そもそも日本の足を引っ張るような発言をする國賊はいらんからな。そうであろう？　時貞房長」

「……わかりました。すぐに対処を――」

「うむ。それでは、次の議題だが……、舊與黨が推し進めてきた企業優遇政策――、法人稅減額に合わせての埋めとして作った消費稅については、廃止を目安に。法人稅については、消費稅が作られた割合までの引き上げを行う。まずは消費を活化させるところから進めないといけないからな」

「わかりました。財務省の方とセッションを――」

「する必要はない。これは命令だ。言うことを聞かない僚は即・首を切れ。國民からの投票を得て我々は職務を全うするのだ。多の強行は致し方ない」

「――で、ですが……、それでは……」

山村財務大臣は、夏目総理大臣の言に不満のをわにする。

あまりにも急進的な改革は、僚から批判の聲が上がるのは容易に想像がつくからだ。

基本的に僚がいなければ國のシステムは円には回らない。

人材だって、いつ首が切られるか分からないのなら、忠実に安心して仕事に著手できるか分かったものではないからだ。

「一言言っておくぞ？　いつ首が切られるか分からない。それが怖い……。ふむ、たしかにその考えはあるのかも知れないな。だがな……、僚が恐れている安定を無くす職というものに、バブル崩壊後民間に勤めている社會人はずっと耐えてきたのだぞ？　貴様らだけが特別だとは思わないことだ。仕事ができない人間は公務員だろうが切る！　どうせ、移民政策を2年前に廃止したのだ。どこの企業も人材はしいはずだからな。丁度良いではないか？　元・僚なら――、自分たちが優秀だと思っているなら、すぐに民間で採用してくれるだろう」

「……総理、あなたは……、僚を――。公務員を何だと……」

「何とも思ってはいない。給料をもらい、その対価として人生の時間を払う。それだけのことだろう？　民間に勤めている人間は退職金すら存在しないのだぞ？　公務員がどれだけ恵まれているのか理解する必要があるのではないのか？　それとも山村、貴様は更迭されるのがみか？」

「――ッ！？　わ、わかりました……」

山村財務大臣は、手を震わせながら頭を下げる。

閣支持率73％――、不支持率27％の圧倒的な支持率を誇る閣総理大臣に――。

「――さて、次は國防だが……」

コンコン

「れ」

「失禮します」

ってきた2人の男を見て房長が視線を向ける。

「竹杉君」

「お忙しいところを失禮致します。早急にお耳にれたいことがありまして――」

「ふむ、君はたしか陸上自衛隊の――」

「総理、彼は統合幕僚長の――」

「分かっている。自國を守護する軍の長を知らずにして何が國の長か」

「恐です」

「それよりも、もう一人は見たことがないが……」

夏目総理大臣の言葉に、一人の男が頭を下げる。

「私は、山2等陸尉と申します。このたびは貝塚ダンジョンで、隣國の兵士と戦をしておりました」

「ほほう。君が――、報告はけている。民間人に一人も犠牲が出なかったのは君のおかげだと。國民を代表して謝を述べたい」

「――いえ。私は……」

「どうかしたのかね？」

訝しげな表で山を見る夏目総理大臣。

「夏目総理大臣」

「――ん？　どうかしたのかね？」

「まずは、これをご覧ください」

竹杉幕僚長が、天井から降りてくるスクリーンへと手を向ける。

「まずは、先日、起きました貝塚ダンジョンの資料と調査報告になります」

時貞房長の問いかけに答えた竹杉幕僚長の言葉に、室に集まっていた夏目閣の面々の視線がスクリーンに向けられる。

2日前に起きた貝塚ダンジョンにおける隣國の兵士からの襲撃。

それは明確な敵國からのテロ行為。

ただ、國民を不安にさせまいという配慮と事件の詳細が分からなかったことから國民には火薬の発ということで知らせてある。

つまり真実は伏せられているトップシークレットであった。

そのため、実際に事件に関わった関係者は、保護という名目で隔離中である。

室はすぐに暗くなり、映像が流れ始める。

すると竹杉幕僚長は、橫に立っていた山2等陸尉を見る。

「山君。説明を」

「はい」

「まず貝塚ダンジョンで起きたことをご説明します」

夏目閣の面々が、頷くのを確認すると山2等陸尉は指示棒をスクリーンに向ける。

「関係者の証言と伝子解析の結果、90%の確率で隣國の臣民だということが判明しました。我々と戦を行いました兵士も同様です」

「ふむ……」

「それで、例ののことに関してはどうなのかね？」

夏目総理の問いかけに、

「例の緑のと、ダンジョンの天井消失の関係は分かっておりません。ただ――、貝塚ダンジョン1Fで何かが起きたことだけは確かです。20人もの兵士の死が、それを語っています」

「ふむ……、つまり何も分かっていないと？」

「はい……」

「ご苦労だった。引き続き調査の続行をしてくれたまえ」

「分かりました」

竹杉幕僚長と山2等陸尉が退室したあと、夏目総理は時貞房長へと視線を向ける。

「房長、例のだが――、も範囲も違うが――」

「はい。4年前に隣國の首都が消滅した時に衛星から確認が取れている赤い閃に似ております」

「これは、何かの前れかも知れんな」