《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》株主優待券(1)
「本當に申し訳ありません」
5分で著替えた後、家から出た俺は扉の外で待っていた彼――、藤堂さんに頭を下げた。
最近は、急激に30キロ近く重が減ったことで、ウェストサイズが変わってしまった。
そのため、ベルトでジーパンを固定していたのだがベルトがすぐに見つからなかったことで時間が掛かってしまった。
普段の俺なら30秒ほどで支度を終えることが出來ただろうに……。
「お気になさらず。それより、何かしていらっしゃたのですか?」
さすがにレベル上げをしていて時間経過を忘れてしまっていたとは言えない。
さらに言えば、寢過ごしてしまって~! などと言葉も句だ。
そうなると言い訳として使えるのは、牛丼を食べに行くと言う事をデートと直訳し、デート相手をよいしょすることで煙に巻くしかない。
かなりの苦の策と言えな。
――スキル「演劇LV10」が発しました。
――スキル「演劇LV10」は、現在の窮地をする為の方法を提案します。
――スキル「演劇LV10」からの打診を承諾しますか?(y/n)?
もちろん(y)を選ぶ。
――スキル「演劇LV10」は、主――、山岸直人からの要請を諾しました。
――これより演劇を開始します。
「…………いえ。久しぶりにおしいとデートということで、洋服選びに時間が掛かってしまった――、……というところでしょうか?」
まるで普段の自分では口に出來ないような言葉がスラスラと出てくる。
さすが「演劇LV10」。
「――え!?」
藤堂が俺の言葉を聞いて一瞬呆ける。
予想外の言葉を聞いて驚いているのだろう。
ちなみに、俺も驚いているが――、まあ、ここはスキル「演劇LV10」に頑張ってもらうとしよう。
今より悪くなることはないだろうからな。
そして、しすると藤堂の頬がみるみる赤くなっていく。
さらに俺に向けていた視線を周囲に向けると落ち著かない素振りを見せ始める。
まるで挙不審者のようだ。
それにしても自衛隊所屬という割には、ずいぶんと何というか垢抜けた服裝をしているものだ。
白のニットワンピースに黒のレースアップブーツに肩口から茶いカバンを掛けている。
さらにアクセントとして首に巻いているマフラーが優しい印象を作り出していて――、もっと地味な服裝をしていると思っていただけにし意外だ。
「……そんな事言われたの初めてです……」
顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう彼――、藤堂との間に何とも言えない雰囲気が漂う。
――まずいな。
まだ「演劇LV10」を完全に掌握出來ていないようだ。
不審に思われたのかも知れない。
それに――、さすがに遅刻した言い訳が問題あったのかも知れない。
――なら、取る方法は1つだけだ。
褒められて嫌な思いをする人間はいない。
そして、社會人として20年以上生きてきた俺の知識には上司がだった時の経験もある。
それらを全て総員することで窮地をするを考えたところで勝手に口がく。
「信じられないですね……」
「――え? そうですよね……、私なんか……」
が勝手にく。
そして俺は頭を振っていた。
「自分を卑下するなんて良くはありません。私が信じられないと言ったのは、貴のような素晴らしいが男から聲を掛けられなかったということです」
ボンッ! という音が一瞬だけ藤堂の方から聞こえてきた。
「私なら、貴のようなおしいが居たら――、まずは聲をかけてしまいますね! むしろ今から、彼にしてもいいと思うくらいです!」
おいおい、俺が絶対に口にしない言葉だろ!
スキル「演劇LV10」はイタリア人なのか?
思わず突っ込みを心の中でれまくる。
――さすがに、そろそろマズい。
スキル「演劇LV10」をOFFにしないと余計な誤解が生まれる。
作をしようとした途端――、いきなり半明なプレートが開く。
――スキル「大賢者」が不在のため、力後の途中キャンセルは出來ません。
ログが流れると同時に半明なプレートが閉じる。
――なん……だと!?
俺は頭を抱えた! 心の中で!
「……えっと――、いきなりは――、その……、ちょっと……、心の準備が……。でも、嬉しいものですね……」
そこで藤堂が俺に笑顔を向けてきた。
完全にナンパである。
そして、藤堂という――、ちょろすぎて心配になるレベルだ。
さらに半明なプレートがまた開く。
そしてログが流れる。
――スキル「演劇LV10」は、主の窮地を救ったため終了します。
たしかに……窮地はしたのかも知れない。
したのかも知れないが――、さらに大きな問題を作り出したことは否めない。
「あっ……あの!」
「――な、何でしょうか?」
嫌な予しかしない。
「お返事は、あとでもいいですか!」
「あ……、そんなにすぐに急がなくても大丈夫ですよ? ほら、私とか40歳過ぎていますし……、藤堂さんのようなおしいが、私のような者と釣り合うなどとはとても思えませんので……」
とりあえず、何とか回避する方向に話を持っていくしかない。
「――いえ! 私、決めました! もっと私らしく生きてみようって!」
「……そ、そうですか……。本當に、ご自分を大事にしてください。私のような者は、モブという形で記憶の片隅に存在しているくらいの扱いでいいので……」
俺の言葉に、藤堂は微笑みを向けてくると腕を引っ張ってくる。
そのままアパートの階段を降りるとアパートの前には一臺の車が停まっていた。
助手席に座ること數分――、どう考えてもというより、どう見ても道が違う。
走りだしてすぐに薄々と気がついていた。
本來であるなら千葉都市モノレール沿いの大通りを通り、都賀駅方面へと向かうのが正規のルート。
なのに、どうしてだが……、東金街道を走っている。
「…………だ、だだ……、大丈夫です! こ、こう見えても私! ち、地理には自信がありますから!」
震える聲で、顔を変えながら答えてくる藤堂の顔を見ながら俺は思う。
――極度の方向音癡なんだなと……。
さらに車は京葉道路を右折せずに左折し進む。
間違いない。
本當に極度の方向音癡のようだ。
「藤堂さん……」
「――は、はい!? に、にゃんでしょうか!?」
車のハンドルを持つ手が若干震えているように見えるのは気のせいではないだろう。
おそらく彼も薄々、道が間違っていることに気がついているはずだ。
――ただ、それを言い出せないだけ。
だが! それをストレートに指摘してしまうと傷つくかも知れない。
……いや、ここはストレートに注意することで、スキル「演劇LV10」が稼いだ好度を落とす方が良いのかもしれない。
「藤堂さんは、普段から車の運転をしているのですか?」
「…………も、もちろんです! 何を、拠にそんなことを聞いているのですか?」
「――いえ、わナンバーはレンタカーの番號ですので……」
俺は、先ほど車に乗るときに偶然! 視界にった車のナンバープレートを思い出しながら言葉を紡ぐ。
それに東葉レンタカーの代表とも言えるデミオは、レンタカーとしては、とても有名な車種だ。
間違いなく、彼は俺と約束したあとにレンタカーを借りたのだろう。
そして、AT車なのに信號待ちからのスタートが上手くいっていないこと――、そしてウィンカーを曲がる直前に點燈させていることからも分かるとおり運転には不慣れだと分かる。
「…………」
「し車を端に寄せて頂けますか?」
「……はい」
彼――、藤堂と俺は運転を変わる。
本來なら借りた人間以外は保険の問題もあり運転をするのは規約的に不味いのだが――、致し方ない。
「すいません。私……、免許は持っているのですが――。本當は……」
「気にする必要はありません。人間誰しも不慣れというモノがあります。それに、事故を起こす前で良かったです。ですが――、なるべく無理はしないでください。誰も得はしませんから。それと元々、今日、キング牛丼を食べに行きましょうとったのは私の方からですから。それで、貴が事故を起こしたりしたら困ります」
――助手席に男が乗っている狀態で、が運転していて事故を起こしたら男の立つ瀬がない。
本當に困ってしまう。
主に俺が――。
責任を取ってくださいと言われたら本當に目も當てられてない。
「――は、はい!」
どうして、そこで俺の言葉に瞳を潤ませるのか理解が出來ない。
一応、俺は叱咤したつもりなのだが――。
「さて……」
カーナビの使い方は分からない。
だが! 俺には、若い頃に東日本中を車で地図を片手に持って走り回っていたという経験がある。
つまり、東日本の地図マップル帳を殆ど暗記していると言っていい。
都賀までの道のりを考えてたところで、一つの事を思い出す。
「藤堂さんは、蕎麥は好きですか?」
「――え? あ、はい。好きです……」
「そうですか。それならオススメの料理店が近くにあるので向かいましょう」
そこなら、割引券も使えるからな。
キング牛丼の店では使えない株主優待券を使えるのは大きい。
車の運転を変わったのは八幡宿近辺の館山道。
そこから南にし向かうと、そばと牛丼がセットで食べられる店が見えてくる。
俺は、すぐに車を駐車場に止める。
「ここに料理店があるのですか?」
「ええ。あそこに牛野屋そば処があります!」
「…………え? 料理店……では?」
この小娘は、何を言っているのか――。
牛野屋が料理店ではないと言いたいのか?
やれやれ――。
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