《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》誰がために鐘は鳴る(3)

1杯目、2杯目と食べ続けていく間に、以前もじていたがお腹が膨れていくのが分かる。

「おや、どうかしましたか?」

「…………ずいぶんと山さんは余裕ですね?」

「まぁ、自衛が資本ですからね。それなりに食べることができますよ? 特盛つゆだくで!」

「――チッ、こちらもつゆだく特盛で!」

3杯目が目の前に置かれる。

晝時ということもありサラリーマンが目を見開いて見てきている。

中には、スマートフォンで寫真を取っている人もいる。

肖像権の侵害なんだが? と、突っ込みをれそうになったが、山が牛丼を流し食べしているのを見て俺も牛丼特盛を飲み干す。

「山岸さんの限界は5杯ですか? それとも6杯ですか?」

「…………」

どうして、俺の現在の限界を知っているのか……。

俺ですら、重が減ってから自分がどれだけ食べられるのか分からなかったというのに。

そして――、その限界は藤堂しか知り得ないはず。

「……なるほど……な……」

「どうかしましたか?」

「いいや――」

俺は肩を竦めながら牛丼特盛つゆだく 4杯目を頼む。

もちろん山も追従してくる。

ふと思ったことだが……。

あながち間違いではないような思いが心広がっていく。

――そう。

もしかしたら、藤堂と山は裏では繋がっているのではないのか? と――。

そう考えると、いままで違和を抱いてた部分が何となく理解できる。

それと同時に――、何故? 俺に分かるように山がヒントを出してきたのか?

そこが説明つかないが……。

まぁ、いまはそれはどうでもいい。

問題は、1つのアパートに陸上自衛隊の人間が――、しかも山と同じ報調査室に所屬している人間が引っ越してくる可能だ。

その確率は極めて低いと言わざるえない。

「山さん」

「何でしょうか?」

「山さんは、自分が勝った時には自衛隊にってほしいといっていましたが――」

「そうですが……」

「それでは、私が勝ったら理由をきちんと説明してもらいましょうか? 藤堂さんとの関係を――」

「――っ!? わ、わかりました。いいでしょう……」

が頷くのを確認したと同時に俺は深く呼吸する。

さて、勝敗を決するとしよう。

「すううううううう――、はああああああああああ」

丹田を練るようにし中から力を抜き――。

「牛丼特盛10杯お願いします!」

「「え!?」」

と店員の聲だけでなく、店中にいた客たちの視線が俺に向かう。

それと同時に一部の客からは「ま、まさか……、あの食べ方は――」という聲が聞こえてくる。

どうやら、俺の食べ方を知っている奴がいるようだな。

……まぁ、それはいい。

――見せてやろうではないか!

牛丼四天王の一人の実力とやらを!

すぐに目の前にドンッ! と置かれる牛野屋の牛丼特盛つゆだく10杯。

それらを俺は、七味と紅ショウガで微妙に味を変えながら、10分もかけずに飲み干す。

「――ば、ばかな……」

が6杯目を手に持ちながら茫然とつぶやく。

「やはり……、このでは15杯が限界か……」

以前のなら30杯はいけたはずだったが……。

やはり無理なダイエットはにはよくないな。

「ま、待ってください! どこに、それほどの量が――。明らかに食べた量とに収まった量が比例しません」

「ふっ、何も分かっていないな」

俺の言葉に「――なっ!?」と、言う表を見せる山

「全ての食に謝をして食せば、限界以上に食べられる。それが牛丼道というものだ」

「ぎゅ、牛丼道……、まったく意味がわかりません……」

「素人に分からないのも仕方がない。その奧深さは、常識人では理解できないからな」

俺は、前髪をかきあげながら山の言葉に答えてやる。

もともと、勝算があったから俺に戦いを挑んできたのだろう。

――だが、相手が悪かった。

俺は世界牛丼大會で、一度は紙一重で準優勝だった漢だ。

その俺が、素人相手に本気を出すのは大人げなかった――だが! 勝負は勝負。

「さあ、勝負は俺の勝ちだ。約束を果たしてもらおうか?」

「…………わかりました」

支払いは萬札2枚になった。

全部、山が支払っていたが――、やはり領収書をもらっていた。

「山岸さん、それでは込みった話になりますので場所を変えてもいいでしょうか?」

店から出てきた山が提案してくる。

それに、俺は同意する。

藤堂の問題もある。

それに、どうして山が俺にここまで固執しているのか、その理由も知りたい。

さらに言えば、どうして俺に悟られるような言をしたのかも興味がある。

余計なことを言わずに勝負だけしていればバレなかったものを。

これではワザと種明かしを山はしたようなものではないか……。

思考している間に車が到著する。

先ほどの黒塗りのワンボックスカー。

俺と山が乗ると車はすぐに走りだす。

――そして40分ほどで到著したのは、陸上自衛隊習志野駐屯地であった。

「山岸さん、係の者が案しますので……、私はし席を外します」

顔を真っ青にしたまま、山は車から降りると小走りで建の方へとむかっていく。

無理をして食べるからああなる。

食べで遊んだらいけないという見本だな。

「山岸さん、それではお部屋までご案します」

話かけてきたのは、紺の自衛隊の服裝をピシッ! と著こなした

ステータス

名前 柚木(ゆずき) ゆい(ゆい)

職業 軍人 ※陸上自衛隊3等陸曹

年齢 28歳

長 161センチ

重 51キログラム

レベル117

HP1170/HP1170

MP1170/MP1170

力14(+)

敏捷25(+)

腕力12(+)

魔力 0(+)

幸運 3(+)

魅力26(+)

所有ポイント116

念のためにスキル「解析LV10」で確認しておく。

なるほど……。

どうやら、目の前の報調査室には屬していないようだ。

さらに、日本ダンジョン探索者協會にも所屬してはいない。

生粋の自衛隊員といったところか……。

「わかりました」

まぁ、虎らずんば虎子を得ずとも言うからな。

それに、全てを疑って掛かっておけばある程度の対処を取ることは出來るはず。

の後ろを付いていきながら、視界に表示されているステータスの項目を選ぶ。

視界に半明のプレートが開くと同時にステータスが表示される。

ステータス

名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)

年齢 41歳

長 162センチ

重 66キログラム

レベル1(レベル1100)

HP 10/10(11000/11000)

HP 10/10(11000/11000)

力17(+)

敏捷15(+)

腕力16(+)

魔力 0(+)

幸運932(+)

魅力 3(+)

▽所有ポイント 0

――すぐにステータスを解除する。

ステータス

名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)

年齢 41歳

長 162センチ

重 66キログラム

レベル1(レベル1100)

HP 10/10(11000/11000)

HP 10/10(11000/11000)

力17(+)

敏捷15(+)

腕力16(+)

魔力 0(+)

幸運 0(+)

魅力 3(+)

▼所有ポイント 932

リセット所有ポイント 932 制限解除まで300秒

ステータスが振りなおせるまで、気を付けておかないと。

何かあった場合に、すぐに対処できるとは限らないからな。

柚木という自衛の後を付いて行くと途中から建る。

それから建の階段を上がっていく。

の3階まで上がったところで、通路の右側へと歩いていく。

「山岸様、それではこちらへ」

頷きながらった部屋は、高級そうなソファーやテーブルが置かれている。

薦められるままソファーに座ったあと、自衛がお茶をテーブルの上におくと「それでは、々お待ちください」と、頭を下げたあと部屋から出て行った。

どうやら、彼が全て対応するという訳ではなかったようだ。

役と言ったところだろう。

まぁ、山も自ありげに俺に勝負を挑んで負けたからな。

本當は、山が俺を案する予定だったのだろう。

柚木というが退室してから、5分ほど経過した。

「遅いな……」

、山は何をしているのか。

たかが牛丼特盛6杯程度で、倒れているわけもないよな……。

そうなると――、……やはり藤堂との関係を問われることを気にしていると見た方がいいかも知れない。

それにしても、一人で待たされるというのは手持ち無沙汰以外の何者でもないな。

「仕方ないか」

一人呟きながら、スマートフォンをスーツの上著から取り出す。

「2等陸尉と……」

自衛隊の階級について俺は知らない。

一度、調べておいた方がいいだろう。

まぁ、軍曹よりも上ということはないだろうが。

――検索項目に「陸上自衛隊 階級」と音聲力し検索。

すぐに自衛隊の階級一覧が表示される。

「――さて、2等陸尉はと……」

ふむ……、尉

よくわからないな。

順位的には、かなり上の階級のようだが……。

これは軍曹よりも上なのか?

さらに検索。

「2等陸曹が、軍曹と同格なのか……。つまり、それよりも5階級上ということは、かなり偉い人間なのか……」

なるほど……。

つまり、2階級特進をしても屆かないということか。

ずいぶんと偉いんだな……。

ただ、そうなると一つ問題が発生する。

どうして、俺みたいな人間に、あそこまでアピールしてくるかという點だ。

客観的に見て、俺は40歳を過ぎていて自衛隊に勧するほどの逸材だとは思えないんだが……。

――と、なると、何か裏があるとしか思えないが……。

「……ダメだな」

あまりに報が乏しすぎる。

こういう時に大賢者がいればと思わずにはいられない。

――コンコン

「大変、お待たせいたしました」

室してきた。

の脇には、茶い封筒が抱えられている。

「お待たせしましたか?」

「そうですね。ずいぶんと待ちましたよ」

俺は、皮じりに肩を竦めながら答える。

実際に噓はついていない。

それに、相手が自衛隊で階級がどれだけ高かろうが俺には関係の無いことだ。

そんな俺の様子に山が笑みを浮かべながらソファーに座る。

「こちらも時間がないので、手短にお願いできますか?」

「ええ、分かっています。私は負けましたから、お約束のことはお話しましょう」

「それでは、藤堂に関してですが……」

こちらが、ある程度は報を摑んでいるぞ? という意味合いを含ませながら語りかける。

「そうですね。簡単に、ご説明しますと私は、最初から貴方に興味をもっていました」

いきなり話が線したな。

それよりも、俺に興味を持っていたとは、どういうことだ?

「いえ――、私にそういう趣味はありませんから。ノーマルですから」

「違います! そういう意味合いで言ったわけではありません!」

おっと! ずいぶんと強い口調で否定してきたぞ?

まさか、俺の言ったことが本當だったのか?

「気にすることはありませんよ――、趣味や癖というのは人ぞれぞれですから。ただし、私はノーマルです」

が自の頭に手を添える。

「さすがは山岸さん、渉は得意と言ったところですか?」

こいつは何を言っているのだろうか?

そもそも――、まだ俺は、渉すらしていない。

渉というのは、お互いの掛け金をテーブルの上に乗せた上で始まる。

――そのために、渉はまだ始まってすらいない。

「さて、それではどういう意味合いで言ったのでしょうか? 私に興味があったというのはどういうことでしょうか?」

「簡単に申しますと、山岸さんは人を信用はしていませんよね?」

「……ええ、まあ――」

の言葉に俺は頷く。

まぁ、人に話すことではないが……、親しい友人でもないから別にいいだろう。

「それが何か?」

「私が、以前に探索者説明會に來られていた山岸さんをスカウトしたのを覚えていますか?」

「覚えていますが? それが何か?」

「あの時は、お斷りになりましたよね?」

「そうですね。自衛隊にも探索者にも興味はなかったので……」

「本當にそれだけですか?」

俺の答えに、山が問いただすような口調で話しかけてくるが、俺は肯定の意を込めて頷く。

「それで、それが何か関係あったのですか?」

「最初、私は山岸さんは人間に興味がない――、簡単に言えば冷徹に人間相手に対処が出來る兵士としては理想な神構造を持っていると一目でわかりました。だからこそ、貴方を自衛隊に勧したのです。兵士というのは、かでは――、緒がかではやっていけませんからね。貴方のような冷めた目をしている人が兵士として理想です。だからこそ、山岸さんを勧させてもらいました」

「買い被りすぎですね」

たしかに俺は人間がどうなろうと――。

人がどうなろうと知ったことではない。

自分が見ていなければ――。

自分の視界にらなければどうでもいいと思っている。

だが――、それは決して人に――。

「そうですか? 私から言わせて頂ければ、山岸さんは兵士として高みに至れる才能を持っていると思うのですが?」

「山さん。申し訳ないが、話が逸れていませんか?」

「………失禮」

「私は、藤堂さんのことについてと聞いたはずですが?」

「そうですね……、以前に貴方は一般市民を暴挙に出た警察僚や警察からして守りましたよね?」

「それが何か?」

「それで一躍有名になった貴方を守るために派遣したのが藤堂です、何せ貴方は、ヒーローですから」

「…………」

「貴方も、薄々と気がついているのではありませんか? 自分が、すでに多くの人間に顔を知られているということに。そして、そうなると何が起きるかということも」

「……マスコミが押し寄せてくるということでしょうか?」

「――ええ。ですが、問題はそれだけではありません。マスメディアと言うのは、ニュースをエンターテイメントと勘違いし真実を捻じ曲げて造し國民が喜ぶように証言を作り変えます。そうなれば、被害を被るのは山岸さん、貴方なのです。そこで、私は獨自の裁量で貴方をマスコミから守るために報統制をおこないました」

「……つまり、警察署で起きた問題でアパートまで記者が尋ねてこなかったのは……」

「ええ、私達――、自衛隊が貴方を守っていたということです。これでもかなりの手間暇をかけていたのですよ。それも、貴方が競馬で萬馬券を超える億馬券を出してくれたことで、意味を為さなくなりましたが……」

小さく溜息をつく山

「なるほど、つまり私のを守るために――、そしてあわよくば自衛隊に勧ということで藤堂さんをアパートに住まわせたということですか?」

「ええ――、まあ……それだけではありませんが……」

それだけじゃない?

どういう意味だ?

「……どういうことでしょうか? それだけではないということは?」

「杵柄氏が所有しているアパートを自衛隊で買い上げました。自衛隊関係者以外の人間が引っ越してきた場合に、不測な事態に対処できるとは限りませんので――、もちろん……これは杵柄氏に許可を得ています」

「…………」

の言葉に俺は絶句する。

いくら何でもやりすぎだ。

寶くじや競馬で勝ったと言っても……、――自衛隊にスカウトすると言っても、そこまでの価値が俺にあるとは到底思えない。

普通の企業では、投資を行う際には、必ずそれに見合うメリットがなければ投資はしない。

それなのに、たかが俺一人のためにアパートまで購するとは正気の沙汰と思えない。

「どうして――、私のためにそこまでするのですか?」

俺の言葉に、山が口元を歪ませる。

「決まっています。それだけのリターンが私達にあるからですよ。山岸さんが、ネット上で持つ影響力はとても大きいものです。貴方が陸上自衛隊に加するだけで――、兵士でなくとも多くの若者が自衛隊にってくれるでしょう。貴方は、善良なる市民を悪人から救った【セイギのミカタ】ですからね。正義という幻想に酔いしれる國民は警察ではなく自衛隊を支持してくれることでしょう」

「…………」

「どうでしょうか? 山岸さんが、その気なら所屬してくれるだけで構いません。もしくは委託という形でも――、待遇も役職も、それなりのをご用意しましょう。それに貴方が持つ異常なほどまでの運も貸していただければ「斷る!」……」

の言葉を途中で遮るように俺は怒鳴る。

何が【セイギのミカタ】だ。

そんなモノのために俺は行をしたわけではない。

俺は、俺の信念のために行したに過ぎない。

それに……、俺は誰かに利用されるのは我慢ならないし、何より誰かが敷いたレールの上を歩くなど真っ平ごめんだ。

「斷るですか……。ですが、貴方に斷るという選択肢はないはずですか?」

「どういう意味だ?」

なくとも、貴方は億馬券の件で有名人になりました。そんな方を――、問題があるかも知れない方を會社が雇いいれるとは到底思えないのですが? それなら、私達――、自衛隊に所屬した方が遙かに賢い生き方だと思いませんか? それに、よく考えてください。山岸さんは、他人なんてどうでもいいと思っているはず。――なら、貴方が起こした行の結果、何がどうなろうと知った事ではないではありませんか? それに、國民が自衛隊を支持してくれるということは、國防が強化されることに他ならないのですよ? 誰も不幸にはならない。あなたの行いが多くの日本國民を幸せにすることに繋がるんですよ! 一人でも多くの國民を救う! 誰かを助ける! 困っている誰かに手を差しべる! それが人間の在り方ではないのですか? 貴方も、そう考えて拳銃で撃たれそうになった母娘を助けたのではありませんか!?」

「…………」

「別に、正義を説く必要はないのです。重要なのは、國民に我々が【セイギのミカタ】だと思わせること。そして、それが出來るのは日本中を探しても山岸さんだけだということです。もう一度、考えてもらえませんか?」

「……一人でも多くの國民を救うね……」

……一人でも多くの人間を救う。

その言葉はとても魅力的であり、誰もが求め止まない言葉であり、大義なのだろう。

――だが、それだけは、俺は絶対に認めない。

人間の在り方は。

どこまでも利己的であり。

他者を蹴落とすことで快を得る。

そんな、どうしようもない腐ったを持つ、よりも劣る存在だと俺は知っているからだ。

だから、俺には山の言葉は――、理想は屆かない。

「悪いな。俺は、人間に絶しているんだよ。そして俺自にも失している。だから――、俺は【セイギのミカタ】なんて信じないし認めるわけにはいかない」

「なるほど……、思ったとおりの答えでしたね」

「そうか……」

「はい。それにしても、その話し方が本來の山岸さんの話し方なのですね」

俺に語りかけながら、山がテーブルの上に置いた茶封筒を差し出してくる。

「それでは取引をしませんか?」

「取引?」

「はい。 貴方には、その方がよさそうですから」

手渡された封筒を開けて中を見る。

そこに書かれていたのは、俺が住んでいた村――。

「山岸さん、こちらの條件を呑んで頂けるのなら【上越智村で起きた事件】に関しての首謀者たちのファイルをお渡ししますよ。しいんでしょう? 首謀者達の報が! 貴方は、そのために――、その報を得るために大手のコールセンターを転々としながら20年以上も働いてきたのですから」

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