《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》ダンジョン探索依頼(4)
聲をかけようとした所で、俺は足を止める。
理由はただ1つ。
集中治療室の中を見ていた人に心當たりがあったからだ。
中の様子を伺っている人は、派遣會社クリスタルグループの社長代理をしている――、桂木(かつらぎ) 香(かおり)、その人であった。
どうやら、彼もこちらに気がついた様子で、顔を俺の方へと向けてきた。
世辭にも、その表は人とは言い難い。
今日の晝間に話した彼と同一人なのか? と心の中で呟きかけたが、瞳が充していることから泣いていたのだろう。
「お久しぶりと言ったところでしょうか? 何故、貴がこちらに?」
「山岸さんこそ、どうして――」
「俺は、集中治療室で治療をけている杵柄さんのアパートの1室を借りているので――、それと彼を運んできたのも俺なので」
「――え? 山岸さんが? そんなこと、千城臺町長の神原さんは何も言っていませんでした」
「そうですか……」
俺は肩を竦める。
そもそも、俺が杵柄さんを病院まで運んできたのは、目の前の誰かが死ぬのは了承できないという俺の信念に寄るものだ。
別に相手に、何かを求めるとか請求するとかを考えて行したことではない。
それよりも、どうやら杵柄と桂木の間には何かしらあるようだな。
「ごめんなさい」
「別に、貴が謝る必要はない。それよりも杵柄さんの親族は貴でいいのか? 苗字が違うように見けられるが――」
「はい。私の――、母方の姓が杵柄(きねづか)で、お母さんの母親が――」
「そこで治療をけている杵柄(きねづか) 妙子(たえこ)さんということか」
「はい……」
なるほどな……。
「ありがとうございます、祖母を助けて頂いて――」
「気にすることはない。それよりも……、どうして君の母親は會いに來ない? 倒れたのは実の母親なのだろう?」
「お母さんは、もう死んでいるので……」
「そうか……、それは不躾な質問をしたな」
「いいえ。それよりも、山岸さんは隨分と外面を作っていたのですね」
「まあな。社會人なら誰でもすることだ。その方が人間関係は円に進むからな」
俺の言葉に若干、落ち込んだ表を見せる桂木だが、別に彼に対して配慮するつもりはない。
「でも――、山岸さんと、こんな所で會うなんて思いませんでした。まして、倒れていた祖母を助けてくれた方なんて想像もしていませんでした」
桂木の言葉に、俺は肩を竦める。
「助けたのは偶然だ。それに、まさか杵柄さんの孫が、貴だとは予想していなかった」
「そうですよね……」
彼の弱々しい聲を聞きながら、集中治療室に視線を向けスキル「解析LV10」で容を確認する。
ステータス
名前 杵柄(きねづか) 妙子(たえこ)
職業 無職
年齢 72歳
長 151センチ
重 46キログラム
レベル1
HP2/10
MP10/10
力 2(+)
敏捷 2(+)
腕力 3(+)
魔力 0(+)
幸運 2(+)
魅力 0(+)
所有ポイント0
以前よりもステータスが全的に下がっており狀態が改善された様子が見けられない。
あまりいい狀況とは言えない。
「祖母ですが――、お醫者様が……、祖母はあと數日が山場だと言っていました」
山場か……。
「父親には伝えたのか?」
俺の言葉に彼は頭を左右に振る。
「お父さんは事業の失敗で――、を壊してしまって……、別の病院に居るんです……」
「そうか……」
母親は他界。
父親は、事業の失敗で心労から倒れたということか。
「――あ、あの! 山岸さんには晝間に失禮な事を言ってしまって……、ごめんなさい」
「気にする必要はない。話を聞く限り追い詰められていたんだろう?」
「ありがとうございます。元々、クリスタルグループは、お母さんが作った會社なんです。そして、お母さんが亡くなったあとはお父さんが経営していたんですけど……、同業他社が増えてきたことで人材確保が難しくなって……、それで……」
「業務上過失を引き起こしたということか」
「……はい」
「それで、これからどうするつもりなんだ?」
「…………」
無言ということは、コレからどうするかの目処がついていないということか。
まぁ、マニュアルに沿って行している分には、年の功は必要ない。
――だが、しでもイレギュラーが起きれば、あとは人生経験がを言う。
「わかりません。……もう、どうしたらいいのか分からないです。お父さんが、元気だった時は、何も苦労なんてしなかったのに……、でも――、お父さんが倒れて院して――、意識が戻らなくて……、それでも! お母さんが殘してくれた會社を何とかしたくて……、でも! どうしようも出來なくて……」
どうやら一度に々な事が起きたことで半ばパニックになっているようだな。
さて――、どうしたものか。
生憎、俺は――、こういうが切羽詰まった時にどう対応していいかという経験がない。
――さすがに牛丼でも気分転換に食べにいくか? とは言えないからな。
……スキル「演武」に任せるか?
いや――、藤堂の時のように問題になったら困る。
ここは、まず相手を落ち著かせることが先決だろう。
「桂木。自販売機に行ってくる」
無理だ! 絶対に無理!
泣いて取りしているを落ち著かせるとか、俺には難易度が高すぎる。
相手からの了承もけず、俺は病院の廊下を歩き1階まで降りたあと、自販売機に辿り著く。
「はぁ、參ったな……」
正直、桂木は、俺を利用しようとした前科もあるわけだし、いい印象もない。
なので、普段どおりどうでもいい相手として対応することにしていた訳だが……。
自販売機に千円をれてボトル缶コーヒーを購。
そしてキャップを回して開けて一口飲みながら考える。
「父親が心労で倒れて、母親が死んでいた。そして――、母親が作った會社を守ろうとして、俺を利用しようとしたが……」
たしかに……、やり方は最低であった。
それは間違いない。
だが――、それで相手を責められるのかと言えば――、難しい。
それに、まだ20代後半だと言っていたからな。
「困ったものだな」
壁に背中を預けながら溜息をつく。
そして、缶コーヒーを一気飲みしたあと、溫かいお茶を二つ購してから階段を上がり廊下の角を曲がるところで俺は足を止めた。
「おや? 貴方は、杵柄さんを連れてきてくれた……、山岸さんですか?」
廊下の角で接しかけたのは、以前に急で杵柄を連れてきた時に対応してくれた醫師のようであった。
あの時は、俺も慌てていたから、誰が誰だと認識していなかった。
それでも俺を覚えている辺り、流石は病院の醫師と言ったところか。
「あの時は、お世話になりました」
「いえ、いいんですよ。人を救うのが我々、醫師の仕事ですからね」
躊躇なく即答してくる醫師。
「そうですか……」
「そういえば――、山岸さん、杵柄さんの親類の方が來られていますよ?」
「はい、先ほど會ってきました」
「そうでしたか」
何度か頷く醫師――、名前が書かれているのプレートには轟(とどろき)と、書かれている。
「轟先生、杵柄さんのことですが數日が山場だと聞きましたが?」
「……それは、患者の家族から聞いたのですか?」
「はい。桂木 香さんから伺いました」
「そうですか……」
轟醫師は、神妙そうな表で頷くと。
「実際の所、どうなんですか?」
「…………コレから話すことは緒にして頂けますか?」
「構いませんが――」
「正直なところ、患者である杵柄さんはいつ容が急変してもおかしくない狀態なのです」
「それは、つまり……」
「はい」
轟醫師の言葉に、俺は深く溜息をつく。
つまり、杵柄は何時死んでもおかしくない狀態だということだ。
「そうですか……」
「……あの、患者の親類の方には緒にしておいてください。一目で分かるほど、親類の方も衰弱しているようですから……」
「分かっています」
言われなくても言わない。
いまの追い詰められている桂木には、あまりにも酷な現実なのだから。
――それよりも問題なのが……。
「轟先生、杵柄さんを連れてきた人間だとしても――、どうして第三者の俺に話したんですか? それは不味いのでは……」
俺の問いかけに――。
轟醫師が、ほんの僅かだが笑みを浮かべる。そして――。
「現代の英雄でありヒーロー、山岸直人」
「……また、それか――」
思わず溜息が出そうになる。
「ふふっ、やはり誰からも言われますか?」
「そうですね」
肩を竦めてしまう。
別に、俺は英雄になりたい訳ではない。
ヒーローになりたいわけでもない。
「それでも貴方は、警察の兇弾から市民を守った。生で――、自分のがどうなるか分からない狀況でも――、だからこそ日本國民は貴方を英雄視したんです。自分が出來ないことをしたから。英雄やヒーローは自分でんでなれるではありません。大勢の名も知れない人から人々から思われることで――、求められることで英雄(ヒーロー)と呼ばれるようになるわけです。そして、そんな貴方だからこそ、教えたと言えば分かりますか?」
「…………俺は、英雄(ヒーロー)ではない。人を救ったのは、俺の意志(ポリシー)だからだ」
「はい。分かっています。やはり、貴方は私が思ったとおりの方でした。山岸さんは杵柄さんを助けようとした。人を助けるという行為は、とても尊いものだと思っています。だからこそ、私は貴方に話しました。本當は、病院に貴方が來たと聞いた時からずっと後ろを著いて観察していました」
観察ってストーカーか……。
思わず心の中で突っ込みをれてしまうが――。
「何故?」
「貴方に話していいかどうか迷っていたからです。でも、貴方は憔悴している桂木香さんを気遣う様子を見せていました。だからこそ――」
「廊下の曲がり角で接するようにして話しかけてきたということか……」
「はい。申しわけなく思っています」
「いや――。別に気にしない。むしろ誰かを救うというポリシー、信念があるだけマシだ。
「それで、俺に話したと言う事は……、どうにかしてしいから話したんだろう?」
「山岸直人さんは、ポーションというを知っていますか?」
「ええ、まあ……」
「持ち合わせなどは……」
「ないですね」
「そうですか……」
「そもそも、ポーションで杵柄さんのは治せるなんですか?」
「治療は出來ません。ですが! 時を稼ぐことができます。最下級のポーションでも數日は時間が稼げます」
「數日間、時を稼いでもどうにもならないのでは?」
「杵柄さんの病気は、心臓病ですが病名は虛心疾患と言います。治療には、冠脈バイパスを使うのですが、いまの杵柄さんの力では手に耐えられるだけの力が……」
「なるほど……、つまり――、その手に耐えられるだけの時を稼ぐ――、正確には力を回復させるためにポーションが、どうしても必要だということですか?」
「はい、そうなります。山岸さんでしたらお持ちかと思ったのですが……、日本ダンジョン探索者協會の方とも畫では親しげに話していましたから……」
「申し訳ない。手持ちはない」
「そうですか……」
「ただ――、俺が、そのポーションを持ってくれば杵柄さんが助かる可能がある――、そういうことでいいんですか?」
「――は、はい!」
「そうですか。それで、時間的猶予はどのくらいあるんですか?」
「それは、桂木香さんに伝えたとおり、數日です」
「ふむ……」
スマートフォンで、日本ダンジョン探索者協會のホームページを開く。
そしてチェックしていくが、どのオークションのポーションも締め切りまで一週間以上ある。
とてもじゃないが間に合わない。
お金を積んで購してもいいが――、どうやら即決設定はないようだ。
まったく……、融通が利かないな。
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