《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》渉決裂

「そうですか……」

俺の言葉に、轟醫師は黙り込む――。

しばらく沈黙が場を支配する。

「山岸さん。病院長と理事を呼んでもいいでしょうか? やはり私の一存では――」

「構わない」

「ありがとうございます」

席から轟醫師は立ち上がる。

そして、一目で高いと思われる木製のデスクの上に置かれている、電話のを取った。

「轟です。至急、お話をしたいことがありまして――」

電話口で、ポーションの事は言わずに無償融資をしたい人間が訪ねてきていると轟醫師は言ったあとに電話を切った。

「山岸さん、申し訳ありません。融資などと噓をついてしまって……」

「いや、構わない。ミドルポーションの相場くらい日本ダンジョン探索者協會のホームページを見て知っているからな。たしかボロナミンAと同じ120ml程度で200萬円していたはずだ。それを無制限に汲める樽を無償提供してきたと言っても信じないだろう」

「ご理解いただきありがとうございます」

――コンコン

話している間に、廊下と繋がっている扉が數度ノックされると、ドアノブが回され60代前後の男が室ってきた。

「お待たせしました」

ってくるなり、俺の服裝を足元から頭まで見て來たあと初老の男は頭を下げてきた。

「そんなことはありません」

轟醫師とは砕けた口調で話してきたが、さすがに初対面の人間には社會人風した口調で対応するのがいいだろう。

「私は、千城臺病院で院長をしております徳田(とくだ) 弓弦(ゆみはる)と申します」

男は名刺を取り出し差し出してきたので両手でけ取ると、「失禮します」と言いながら徳田院長は轟醫師の隣に座る。

「私は、山岸直人と言います。今回は、お手間をかけてしまい申し訳なく思っています」

「いえいえ、とんでもございません」

まずは挨拶から。

「――して、轟外科部長から話を伺いましたが何でも、當病院に融資をしたいと……」

「融資というか譲渡になります」

「譲渡……ですか? 何をでしょう? 醫療機か何かでしょうか? 轟外科部長――、どういうことかね?」

「院長、彼のことを知っていますか?」

「――いや知らないが……」

「彼は、警察の橫暴から市民をして守った山岸さんです」

「ふむ……、それが今回の譲渡とどのような関係があるのかね?」

「徳田さん」

「何でしょうか?」

「そこの床に置いてあるは、ダンジョンモンスターから出たドロップ品になります」

俺の言葉を聞いた徳田院長の視線が、そこで初めて床の上に置いてある樽へと視線が向いた。

その樽を見て彼は首を傾げると俺の方を見てきた。

「山岸さん、これは一なんでしょうか?」

「それは、ミドルポーションの無限製樽と言います」

「ミドルポーション!? ――しかも無限製樽とは!?」

「読んで字の如くです。ミドルポーションが無制限に取り出せる樽になります。橫に付いているワイン樽と同じようなコックがあると思いますが、そのコックの上部を倒すことでミドルポーションのが出てくる仕組みになっています」

なるべく上手く説明は出來たと我ながら思うが――。

「ハハハハ、これはご冗談を……」

「――!?」

思っていたリアクションとは違う――。

「轟外科部長、このようなが存在していたら探索者は莫大な財を得ることが出來てしまう。そのくらいは私でも分かるよ。ポーション系の薬品は各國の大企業や政府関係機関でも再現は出來ていない。日本ダンジョン探索者協會でポーションが高いのはダンジョンで手にる確率が極めて低いからだよ。それなのに、こんながある訳がない。悪い冗談はやめてほしいものだよ」

なるほどな……。

たしかに普通に考えればそうだろう。

なら試してもらうしかないな。

「轟先生、そして徳田院長」

「はい」と、轟醫師。

「なんでしょうか?」と、徳田院長。

それぞれが俺の言葉に相槌を打ってくる。

「この病院は大きい。骨折をしている方や砕骨折をしている方、さらに癌や病気に掛かっている人で力が衰えている方は大勢いると思います。その方に、この樽の中を使っては頂けませんか? 無償で構いませんので――」

「つまり、それは獻ということでしょうか?」

「ええ、もちろん――」

俺は、ヌァンタババロアを一気飲みする。

そして樽からミドルポーションを飲み干したペットボトルの中に注いでから飲み干す。

「このとおり、毒はっていません。どうでしょうか? 最初は骨折されている方から服用させてはくれませんか?」

二人は、俺の言葉と作に顔を見合わせる。

「徳田院長! やってみましょう! これがうまく行けば骨折して寢たきりになっている方やご老人を助けることができます。駄目元でもやってみる価値はあります!」

「…………う、うむ……。だがな……、何かあれば病院の問題に発展することに――」

「それは安心してください」

俺はスーツの中から、貯金通帳を取り出す。

そしてテーブルの上に置く。

そこには預金殘高7億の文字が書かれている。

「な……ななおく!?」

徳田院長だけでなく、轟醫師も何度も通帳と俺を互に見ている。

俺はさらに掛け金を上乗せする。

「何かあれば、示談の為に私がこの7億全額で患者さんと渉をしましょう。どうでしょうか?」

顔を見合わせる二人。

「あと何か問題があれば私が責任を取りましょう。それが、社會人としての在り方ですからね」

俺はスマートフォンで音聲を録音したあとテーブルの上に置く。

これでかなかったら仕方ないな。

「わ、わかりました。轟外科部長、すぐに整形外科の山田醫師を呼んでくれたまえ」

徳田院長の言葉に、轟醫師は部屋から出ていく。

しばらくすると轟醫師を共だって部屋にってきたのは40代の醫師。

見た目からして神経質そうな男に見える。

男は俺を見て眉間に皺を寄せると眼鏡に人差し指を添え、「彼は?」と、端的に言葉を発した。

「ああ、気にすることではないよ。ところで、これを患者に試してほしいんだが――」

500mlのペットボトル――、ミドルポーションのった容を徳田院長は轟醫師が連れてきた男に渡す。

「これは何でしょうか?」

「骨折を治療できる新薬なんだが試してきてくれ、責任は取るから」

「…………」

無言で、俺を見てくる男――。

すでに「神眼」で男のステータスは確認済み。

ステータス

名前 山田(やまだ) 太郎(たろう)

職業 醫者

年齢 44歳

長 176センチ

重 61キログラム

レベル1

HP10/10

MP10/10

力 19(+)

敏捷 15(+)

腕力 22(+)

魔力 0(+)

幸運 7(+)

魅力 22(+)

所有ポイント0

「徳田院長、こんなを患者に飲ませるなど正気ですか? 何かあれば、醫療問題になりかねませんよ?」

「それに関しては、気にする必要は無い。責任は取るし、私も一緒に立ち會おう。轟外科部長、我々が戻るまで彼のことを頼みますよ」

「わかりました」

山田醫師と、徳田院長はミドルポーションりのペットボトルを持ったまま部屋から出ていく。

――それから20分程。

何も話すことの無い俺と轟醫師は、徳田院長と山田醫師が戻ってくるのを待っていた。

――コンコン、ガチャ。

って來たのは徳田院長のみ。

「どうでしたか?」

轟醫師が勢いよく立ち上がり彼――、徳田院長に話かけている。

やはり、部外者の俺が持ってきたということで心配だったのだろうな。

「轟外科部長、落ち著きたまえ」

そう言うと、徳田院長は俺と向き合うようにソファーに腰を下ろす。

「結論から申し上げますと――、山岸直人さん、貴方の言う通りの効果がありました。骨折・砕骨折の患者は後癥もなくすでに歩けております」

徳田院長の言葉に――、やはり不安だったのだろう……、轟醫師が小さく息を吐いていたのが見えた。

「そうですか。良かったです」

「ですが――」

「何か問題でも?」

「はい。これを我が病院で本當に利用させて頂いて構わないのですか?」

その徳田院長の言葉に俺は頷く。

「そうですか……、それは醫療の現場にを置く者としては手中に患者の力を回復させることも出來ますから助かりますが……」

歯切れの悪い様子に俺は首を傾げる。

何か問題でもあるのだろうか?

「現在のミドルポーションの最低落札価格は200萬円というのはご存知かと思いますが?」

「はい。それは知っていますが?」

「轟外科部長の話ですと無料で配布したいと聞いております。ですが――、そのようなことをすれば探索者達の収が減ってしまうということは理解していただけると思います」

「…………」

たしかに、その通りだ。

そこまでは考えてはいなかった。

「そこで、ミドルポーションを販売するという方向で話を持っていくのはどうでしょうか? 無償ではなく有償で――、そうですね、1回100萬円――、なら問題ないでしょうし……、それでも市場を破壊することになるかも知れませんが手限定でしたら問題ないでしょう。」

「…………」

それならお金が払えない人間は……、治療も満足にけられないということか。

「お気に召しませんか?」

「はい。私としては誰でも平等に人種國家に隔たりもなく利用してくれることをみますが――」

「なるほど……、やはり……、これは貴方のですか……」

「――ッ!?」

俺の反応を徳田院長は見て、深く息を吐いた。

「山岸直人さん。貴方の考えはとても素晴らしい。――、そう、素晴らしすぎる」

「何が言いたい?」

「誰もが平等にという思想や考えは正しい。――ですが対価を貰う事、それは人が営みを行う上で必ず必要なことです。醫師として、これはから手が出るほどしいものです。ですが、私はミドルポーションを無償で配ろうとは思っていません。何故なら、これほどのを無償で配布すれば市場に混をきたすからです。貴方は、それをんでいるのですか? もし、それをんでいるのなら、はっきり言わせて頂きましょう。貴方は自分の行いが正しいと信じているだけ――、ただ誰かを救いたいと守りたいと思っているだけの偽善者に過ぎない」

「院長! そこまで言う必要は! 山岸さん、院長は神科のカウンセリングをしている方でもあるので――」

「轟外科部長、黙っていなさい!」

徳田院長の怒鳴り聲が室に響き渡る。

「良いですか? 貴方の、その考えは歪んでいる。間違っている。もし対価を要らない――、それでも誰かを守りたい、救いたいと思っているのでしたら……、そんな考えはもう人の考えではありません。そんな考えの人からのけ取ることは出來ません」

俺から一切目を逸らさず、徳田院長はそれだけ言うと大きく溜息をつく。

そしてテーブルの上に3本のペットボトルを置いた。

3本の、2本は空になっているが一本はったまま。

それを見て、俺は杵柄さんの分もけ取ってもらえないかも知れないと直し――。

「分かりました……、ですが杵柄さんの手で使う分だけはけ取ってもらえますか?」

俺の言葉に、しぶしぶといった表で徳田院長は頷く。

「山岸直人さん。今回、見た事は忘れることにします。それは持って帰ってください」

徳田院長の言葉に、黙って俺は頷きながらアイテムボックスの中にミドルポーションの無限製樽を収納し立ち上がる。

「失禮します」

部屋から出る。

そしてハイヤーが停まっているであろうり口に向かって歩く。

「山岸さん!」

振り向くと、そこには轟醫師が立っていた。

「何でしょうか?」

「私は、貴方が損得勘定無しで行しているということを素晴らしいことだと思っています。それに院長は元は神科醫の醫師ですから――」

俺は、轟醫師の問いかけに頭を振る。

「気にすることはない。それより、杵柄さんの手功させてくれ」

それしか、俺が言える言葉は見當たらなかった。

ただ1つ思い出したことがあった。

俺は、勘違いを――、そう勘違いをしていた。

俺は……、他人が死のうがどうなろうと……、知ったことではないと思っていたのではなかったのか?

自問自答しながらも、それを顔に出さず轟醫師と別れる。

そして病院から出たあと、スーツのポケットからスマートフォンを取り出す。

「山岸ですが――」

「すぐに伺います」

電話を切り、空を見上げる。

アパートを出た時は晴天だったが――、いまの空は薄暗く曇っていた。

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