《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》人類の罪過(29)

「先輩っ!」

先ほど、天照が見せた先輩の姿。

広いドームの中央部に向かって私は走る。

ただ……、山岸先輩の姿は先ほど消えた時のように一切見ることが出來ない。

それでも、遠くない距離を走ったところで私のに衝撃がはしった。

「――っ!? こ、これは……か……べ?」

走っていた事で、思いっきり額から見えない壁にぶつかった事で、し立ち眩みを覚えながら、ゆっくりと手をばすと、そこには見えない壁が確かにある。

は、ゼリーに近い。

おかげで怪我をせずに軽い脳震盪で済んだのは、不幸中の幸いでもあったけれど……。

一切! 手のひらから壁の溫度をじることは出來ない。

指先からじるのは、衝撃を分散させるように作られているであろう壁。

「でも……」

私は呟きながら、手をばす。

だけど、すぐに先を進みたい私の進路を阻むように存在する壁が存在していて、最後まで手をばすことは出來ない。

それでも……。

先輩の姿が一瞬見えたのは……。

「この壁が一瞬でも消えたから?」

そうとしか考えられない。

ただ――、一つ問題があるとすれば……。

私は後ろを振り返る。

後方では、天照大神と呼ばれるが赤る日本刀のようなモノを作りだし、狂の神霊樹が作り出したであろう無數の蔦を切り裂いて、鏡花さんと神霊樹に近づいていた。

明らかに、その様子は天照大神と自稱していたの方が優で、アドバイスを求めることも出來そうにない。

「私がするしかない……」

拳を叩きつけるけど、不可視な壁は全ての攻撃の衝撃を吸収分散させてしまうようで効果がないようにじる。

「どうすれば……?」

こうしている間にも時間を稼いでいる二人は追い詰められているというのに……。

何度も何度も壁を叩きながら思考する……、だけど考えても、何も良い案が出てこない。

「どうすれば……、どうすればいいの? 私が出來ることと言えば……、この世界で、私が出來ることと言えば……」

この世界に來て――、自分が起きた出來事を見ているだけしか出來ない。

実際に起きた事を目の前で見せられても、どうすることもできない。

魔法も使えず、武もなく、自分が無力だと、自分は無力なんだと、見せつけられてきた日々。

それは確固たる現実として、目の前に付き付けられていて――、どうしようもできなくて……。

「それでも! 先輩っ! 山岸先輩! 山岸直人さんっ!」

私には聲を出す事しか出來ない。

何の力もない。

自分が脆弱で、弱い人間だと痛いほど分かってしまうから。

「佐々木ですっ! 山岸直人さんっ!」

私には、自分の名前と――、私を救ってくれた彼の名前をんで壁を叩くことしかできない。

それしか今の私には出來ることはないから。

「山岸直人さん!」

彼の名前をぶ。

見えない壁に向かって――。

山岸直人さんの姿を見えないというのに。

それでも、聲が――、思いが屆けばいいと――、ううん……、屆くと信じて!

先輩……、山岸先輩……、山岸直人さん。

彼は、私を最初に救ってくれた。

アパートの時も――。

ダンジョンで、工作員と戦った時も――。

普段は、適當で私の事を意識してない様子だけど、それでも……。

それでも! 私は! 先輩を――、山岸直人さんを助けたい! だから!

「私の邪魔をしないでよ! この先に先輩が! 山岸直人さんが居るんだからっ!」

心のから湧き出すと共に拳を叩きつけると共に、先ほどまで衝撃を吸収し分散させていた壁が唐突に化し壁となった。

拳の先からは堅くなった壁を叩いたことで、手を痛めたのか激しい鈍痛が響いてくるけど……。

化しているのなら……」

攻撃を吸収分散させるのではなくけ止めるだけなら、毆り続ければ!

何度も何度も思いのたけを痛めた拳に乗せながら白く化した壁を毆り続ける。

すると、徐々に罅がっていき――、

「これで!」

私は思いっきりで――、肩から壁にタックルする。

鈍い痛みをじると共に、ガラスが割れた時のような音が空間上に広がる。

勢いあまって、地面の上を転がり続け立ち上がると、私は思わず目を見開いた。

そこには、この世界の日本國の総理大臣である男と、部下であろう白の男。

そして自衛が數十人。

それらが、塗れの山岸直人さんを取り囲んでいたから。

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