《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》世界の岐路(8)

當然だと思う。

見ていた限り、の修復速度が異常だと言う以外に、戦うを持たない人が、誰かを守れるわけがない。

それは至極當然のことであり、それが――、山岸直人さんが己のしてまで行おうとした帰結。

だからこそ、時が止まったかのように靜寂が、その場を支配したのかも知れない。

何をしても結果は変わらない。

――必然の結末。

守っていた人――。

そして……助けを求めてきた人を助けられなかったという自責の念なのか……、山岸直人さんは、じろぎ一つしない。

それを狙っていたかのように2メートルを超える赤黒い角を生やした人間のような存在――、黒い仮面をつけた鬼が次々と先輩のを食い散らかしていく。

「やめっ――」

その凄慘な様子に私は、一歩踏み出す。

だけど――、見えない壁が、先輩と私の間を隔てている。

「やめてよ……」

私は頭を左右に振る。

こんな景を――、こんなことを見る為に私は……。

「やめてよおおおおおお」

ぶ――。

私の聲が――、周囲に響き渡る。

こんな結末が、こんなことが実際に起きたことなんて、私は信じたくない。理解したくない。こんな最悪なことが起きたなんてれがたいことで……。

「どうして……」

どうしてなの? どうして、こんな酷いことが、こんなに殘酷な事が実際に起きたのか……。

そして、どうして――。

「こんなのって……」

「そう。ないわよね」

見ていることしかできない。

守る事も何もできない。

何の力にもなる事ができないという絶的な狀況で、心が折れて座り込んだ私の隣で、そう呟いたのは月読さん。

さっきは、戦うという意思を見せていた彼だったけど、私を攻撃してくるような気配をじとることができない。

それは――。

「どうして……ですか……」

「決まっているわよ。これは、贖罪なの。人類の贖罪」

「贖罪……」

「ええ。人は、何度も何度も何度も何度も何度も何度も! 繰り返してきたのよ? これと同じようなことを――」

「――でも、それでも……」

ここまで人を絶に落してまで、こんな世界を――。

「それでも……ね。だけど、見ていなさい」

は――、月読さんは指を差す。

その先には、鬼が取り囲んだ繭のようながあり、それが蠢いているのが見える。

その中心は、山岸直人さんが立っていた場所。

もう、助けることは出來ないと言うのが分かる……分かってしまう。

「私は何の為に……ここに……」

そう呟いた時だった。

唐突に、鬼達が作り出した繭が々に砕け散る。

中からは、一匹の白と黒の斑の獣が姿を現す。

それはを伴っていて、中からと闇が噴き出しているのが分かる。

「ウォオオオ」

聲というよりも音に近い。

その咆哮は、周囲に存在していた赤き鬼を一瞬にして蒸発――、消し飛ばす。

そして、その姿は、まるで迷宮地下階層で見た漆黒の黒き獣に近い。

「あれは……一……」

突然のことで、理解が追い付かない。

何が起きているのか。

呆然と――、ただ目の前で鬼が食い散らかされて消滅していくのを見ていることしかできない。

でも、これが実際に起きたことだとすれば……。

「山岸直人さんですよね?」

「そうであるな」

答えてきたのは、天照さん。

その表は、どこか落ち込んでいるようにも見えてしまう。

「なるほどのう。まさか、そういうことだったとは……」

創痍と言った様子の山岸鏡花さんの肩の上に力無く座っていた狂の神霊樹が、そう呟く。

「どういうことなの?」

「見てのとおりじゃ。あれが、本來の山岸直人の姿なのだろう? あれが――。それを知られたくないからこそ、我々を始末しようとした。そういうことかの」

「――え?」

神霊樹さんの言葉に、一瞬だけ視線を山岸直人さんから離した瞬間、唐突に景が切り替わった。

そこは、どこまでも闇に覆われた場所。

何も存在しておらず、地面も壁も何もない。

どこまでも続く虛無。

そして、天井だった場所には無數の星々が輝いているのだけは確認できた。

「ここって……」

どこなの? と、その場に存在していた山岸鏡花さんに聞こうとしたところで、突然、目の前に一人の男が現れる。

それも、20代前半の人

だけど、その人は見た事があった。

そう――、上落ち村で見た事がある人。

「ここは人が來る場所ではない」

そう、冷たく言い放った人は――、

「山岸直人さん……?」

目の前で、言葉をかけてきた人は、私の思い人――、山岸直人さん、その人であった。

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