「……グ……ガ……ガガ……ガアアア！」

黒の狼と化した獣は、腕を振るい相沢凜を吹き飛ばす。

彼は地面に日本刀を突きさし、威力を半減させながら私の橫を通り過ぎる。

そんな彼を、無數の枝がやさしくけ止める。

「これって……」

「――さて、主よ。妾が手助けできるのは、ここまでじゃ。あとは――、主の行次第で結末は決まると心得よ」

そう聲が聞こえた途端、私の目の前にりと共に狂の神霊樹さんが姿を現すと狂さんが無數の蔓を黒の獣に放つ。

黒の獣は、殺到する蔓を強靭な腕を振るい破壊していくけど……、貫かれたからはどす黒いが流れ続けていき――、それに呼応するかのようにきが鈍くなっていく。

そして、とうとう凜が貫いたに幾つもの蔓が突き刺さる。

「イレイザー！」

天を仰ぐ狂さん。

それと同時に、天から白い粒子を纏うが音もなく降ってくると黒の獣を包み込み、獣は絶し――、目の前で散した。

周囲には黒い霧が漂い――、それらは天から降り注ぐの粒子と絡み合い形をしていく。

その形は徐々に大きくなっていき人の姿へと形を変える。

「これって……」

「そのが持っていた刀の特だろうな。どうやら浄化の力を持つらしい」

「浄化って……。――でも、何で？」

私は、狂の神霊樹に聞き返す。

無數のは、無數の人の形を作り、りが消えたあとに殘るのは大勢の人々。

が上下している事から、生きているのは確認できるけど……。

「さて――、主よ。まぁ代理であったが楽しめたぞ。我がマスターよ」

「え？」

よく見れば狂の神霊樹さんの姿が、あせ明になっていく。

「ほら。マスターの思い人も元の姿を取り戻したようじゃ」

指差す方向には、黒の獣から元の人の姿へと戻った山岸直人さんの姿があった。

彼は、ゆっくりと地面に向かって倒れ込んでいく。

「先輩！」

私は殘された魔力でを強化し、床の上に無防備に倒れようとしていた山岸先輩を抱きしめる。

彼の心臓の鼓が――、溫が伝わってくる。

生きているというのが分かって、涙が出てくる。

「先輩が元に戻りました！」

「それは、良かった。さて、妾は役免のようだ」

「お役免って……」

「さっきも言ったであろう？　楽しめたと……。佐々木よ、汝は本來であれば妾の本來の主ではなかったが、汝の生き様しかと見屆けた。これから、想像を絶する困難が待ちけていると思うが、我がマスターたる汝であるのなら、困難を克服することは出來るであろう」

「でも、それって……鏡花さんや狂の神霊樹さんが居てくれたから……」

「…………何を弱気な事を言っておる。太古の神たる神霊樹が認めておるのだぞ。我がマスターであるなら、を張るとよい」

もう殆ど消えかけ、周囲の暗闇と同化しつつある狂の神霊樹がそう告げてくる。

「うん」

もう消えることは確定何だろうと言う事は、その様子から分かった。

理解出來てしまった。

だから……、引き止めてはいけないと分かってしまった。

「今までありがとう。狂の神霊樹さん」

「うむ。――では、我がマスターである汝に、妾が神名を告げよう。妾の神名はユグドラシル。妾の力の全ての汝に渡そう」

「ユグドラシルって……」

その名前は私も聞いたことがある。

北歐神話において、世界を支えていたされる大樹の名前。

そんな彼が笑顔で笑うと私に向けて、黃金に輝く玉を送ってくる。

私は、それを黙ってけ止めた。

「どうやら、妾の力をけ止めるにたるは手にれていたようじゃな。ではさらばだ。我がマスターよ」

そして、私の目の前で神霊樹ユグドラシルさんは、黃金の粒子と共に姿を消した。