《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》三話「崇高なる信念を貫きましょう」下
平間と壱子はしでも距離をかせごうと懸命に足をかすが、いかんせん壱子が著のせいで歩幅が狹く、遅い。
男との距離は瞬く間にまっていってしまっていた。
路地から抜けて広い通りに出れば人にまぎれて逃げられるかもしれない。
そう平間は思ったが、相変わらず紛れ込めるほどの人通りは無い。
「駄目だ、追いつかれる!」
平間が悲壯な聲を上げた。
男は、もう平間たちのすぐ背後に迫っている。
平間は、遅れて付いて來ていた壱子の手を思いっきり引いた。
れ替わるように、平間が男たちと壱子との間に立つ。
「わわっ……おい平間、何を!?」
「先に行け! 後で追いつく!」
「でもお主、戦えるのか?」
「當たり前だろ! さっさと行け!」
噓だけど。
本當は、ろくに武を習ったことも無い。
だが、ここでみすみす二人とも死ぬくらいなら、壱子だけでも逃がした方が良い。
それにの子をかばって死ぬなら、死に方として一番マシだ。
唯一不満があるとすれば、その相手が壱子であることくらいか。
「ああもう、どうせなら梅乃さんが良かった!!」
平間の心の聲が盛大にれる。
だが、壱子も一目散にこの場を離れているだろうし、いまさら恥も何も無い。
「こんな時に何を言っておる、たわけ! お主だけ置いていけるか!」
聲のした方を見ると、平間の傍らに壱子がいた。
だから何してんの、この子。
しかし平間はすぐに気付いた。
ああ、迂闊うかつだった。
壱子はどこまでも正直で、真っ直ぐで、正しい。
自分をかばおうとした人間を置いてスタコラ逃げおおせるなど、そもそも出來ない質たちなのだ。
全く、どこまでも壱子は思い通りにならない。
平間は思わず苦笑いする。
小さな聲で壱子が言う。
「良いか平間、あやつの狙いは私じゃ。やつは、私が顔を知っていると言ってから襲い掛かってきた」
「それはそうだけど……」
追ってきた男が立ち止まり、刀を抜いた。
鋭い金屬の音と共に、刀が鈍く不気味にる。
「すまない、俺もこんなことはしたくないが……恨まないでくれ」
もうこの距離からでは逃がさない自信があるのだろう、男は悠然と歩いてくる。
平間は助けになるものは無いか辺りを見回すが、これといって有用なものは見つからなかった。
壱子が平間より一歩前へ出て、言った。
「こやつはお主らの顔を知らぬ。知っているのは私だけだ。であればこやつは逃がしても構うまい?」
平間は壱子の意図を理解した。
彼は自分を代わりに平間を逃がそうとしている。
もうし「利己的」という概念を持っていても良いだろうに。
壱子の口ぶりは堂々としたものだが、その足が震えていることに平間は気付く。
男はゆっくりと距離を詰めながら、さも世間話をするように言った。
「片や相手を逃がそうとし、片や己がを差し出さんとする。相思相がしいが、殘念ながらそういうわけにはいかない。せめて一思いに楽にしてやろう」
目の前まで來た男が、刀を振りかぶる。
駄目だ、終わった。
平間は壱子に覆いかぶさり、く目を閉じた。
地が揺れるような覚に、平間のが小さく跳ねた。
――
「……あれ?」
背中に來るべき衝撃が來ない。
顔に當たる冷たい空気と腕の中の壱子のは確かにあるから、死んではいないのだろう。
平間はゆっくりと振り向いた。
視界にってきたのは、先ほどの男と、その刀を角棒でけ止める大男の姿だった。
その風貌は顔の下半分が白い髭に覆われていて、それとは対照的に頭髪は綺麗にそり上げられている。
服は行者が著るような、これまた白い法を纏っていた。
ゆったりとした服からびた四肢は筋張っていて、異様に太い。
大男は軽々と刀を弾くと、平間と壱子の方に目を向ける。
「お嬢、探しましたぞ。ん、君は……ああ、例の彼か」
地響きのような低い聲で大男が言う
お嬢って……壱子のことだろうか?
「まったく、次から次へと、なんて日だ……」
衛士姿の男は、険しい顔でつぶやく。
「さっさと片付けて帰らないと……なッ!!」
言うが早いか、すさまじい速さで距離を詰め、斬りかかってくる。
その男の殘撃を、大男は楽々と、次々にけ続ける。
そのきは、の大きさからは想像も出來ない速さだった。
男の上段からの殘撃を角棒でけると、大男がくるりと回転して、けた方と逆側で男の足を払う。
さらに、勢を崩した男の腕をすぐさま打った。
その衝撃で、男が刀を落とす。
圧巻だった。
人間のきとはここまで洗練されたものになるのか。
を突いた男のもとに角棒を突きつけ、大男が淡々と言い放つ。
「どういうわけで襲い掛かってきたのかは知らんが……まだやるか、小僧」
「いや、もういい。多分、俺じゃあんたには勝てない」
男は首を振ると、立ち上がって刀を拾い上げ、納めた。
そして小さく笑って言った。
「で、逃げてもいいのかな」
「それはお嬢の決めることだ」
大男はそう言うと、壱子の方を見る。
壱子は黙って頷いた。
「そりゃどうも。全く、散々だ……」
男はきびすを返し、去っていった。
その姿が見えなくなったとき、ようやく平間と壱子は安堵あんどのため息を吐いた。
――
「それで壱子、この人は?」
平間の問いに、壱子ではなく大男が答えた。
「我われはお嬢付きの衛士えじで、名を隕鉄いんてつと申す者。貴殿が件くだんの役人だな? 梅乃殿から話は聞いている」
「隕鉄いんてつ……さん?」
「我は僧籍ゆえ、そのように名乗っておる。隕鉄でもおっさんでも生臭坊主でも、好きに呼ばれるが良い」
「お気遣いどうも……僕は平間京作と言います」
そう自己紹介して、平間は會釈した。
どうやら冗談も言える気さくな人らしい。
「もう一人護衛が付くとは聞いていたが、お主じゃったか、隕鉄」
「はは、我より他にお嬢の護衛が勤まるものなどおりますまい」
髭の間に白い歯をのぞかせて豪快に笑う隕鉄。
そんな彼とは対照的に、壱子の表はどこか苦々しげだ。
……なにか嫌な思い出でもあるのだろうか。
「まったく、梅乃らしい人選じゃな……しかし、なんにせよ助かった。禮を言うぞ、隕鉄」
「我の職務でございますゆえ、それには及びませぬ。先回りして平間殿の家で待っておりましたが、あまりに到著が遅いので探しに來てみればこの始末。まっこと、お嬢はそそっかしいですなあ」
そう言うと、隕鉄は再び笑う。
なるほど、壱子が苦手なのはこういう風に子ども扱いするところか。
「ほっとけ、隕鉄。あ、あの男……」
壱子の視線の先には、先ほど路地にいた痩せた男の姿があった。
男のもとへ壱子がタタタッと駆け寄っていく。
平間もそのあとを追った。
「お主、怪我はないか?」
「……」
男の返事は無い。
それどころか、壱子を無視して虛ろな目でふらふらと歩いていく。
まるで壱子が見えていないように。
「お、おい……!」
結局、男は壱子に反応することなく行ってしまった。
「……? どうしたのかのう」
不思議そうに首を傾げる壱子に、平間が言った。。
「そんなことより、先を急ごう。もうすっかり夜だ」
「ん、それもそうじゃな」
平間の言葉に壱子が頷き、歩き始める。
が、すぐに足を止めて言った。
「……のう平間、この辺りに菓子屋でもあるのか?」
「菓子屋? さすがに無いと思うけど……」
そういう高価なものを扱う店が、ここのような貧民窟にあるとは思えない。
「どうして?」
「いや、私の勘違いじゃった。行こう」
「そう? まあ良いけど、すこし食い意地が……」
「そうじゃない! まったく、これだからお主というやつは……」
呆れ顔で言う壱子だが、次第に俯き、目を伏せる。
そして軽く頬をかき、恥ずかしそうに言った。
「その……まぬ」
「え?」
「すまぬ! ……すまなかった。その、私が軽率なことをしたばかりに、お主まで危険な目に合わせてしまった。なんと詫びればいいか分からぬ……」
壱子も壱子なりに責任をじているらしい。
見ると、壱子の目じりには小さく涙が浮かんでいる。
平間としては結果的に無事であったから特に壱子の責任がどうとも思っていないし、なんなら土壇場で自分を犠牲に平間を逃がそうとした壱子の高潔さに、いたくしているくらいだ。
さて、なんと言ってめたものだろう。
言葉選びを迷いながら、平間はゆっくりと壱子に言った。
「壱子がしたことは何も悪くない……とは言わないけど、そんなに半泣きで謝る必要があるとは思えない」
「なっ……泣いてなどいないわ!」
そう言って壱子は慌てて目じりをぬぐう。
そんな壱子に噴出しそうになるのをこらえて、平間は続けた。
「壱子がしたことは決して間違っていない。まだ子供の君が自分の信念だけを持って、大の大人にたった一人で立ち向かったんだ。誰にだって出來ることじゃない。褒められこそすれ、責められることなんて無い」
「しかし結果として、平間、お主も命を落としかねなかったのじゃぞ! なぜそのようにヘラヘラと笑っていられるのじゃ!」
「なぜと言われても……」
確かに、平間は慎重な格だと自負している。
そんな彼がなぜ自らに迫っていた危険を笑っていられるのか、彼自良く分からなかった。
「まあ、そんなことはどうでも良いんだよ」
「どうでもって……そんなはず、あるまい」
「いいんだ。壱子は正しいことをした。ただ、やり方がし間違っていただけだ」
そう、やり方が間違っていた。
あのように高圧的な態度で迫っていかなかったら、もしかしたら円満に収まっていたかもしれない。
平間は自分の言ったことに深く頷きながら、更に続ける。
「ただ間違えただけだから、次に間違えなければ良い。壱子は頭がいいでしょ?」
「うむ、私は頭がいい」
「そこは謙遜けんそんしたりしようね……。まあとにかく、次だ。それに、んなことを験して、學ぶために壱子は僕と一緒にいるわけだから、今回のことはある意味功だ、とも言える」
「功……? それはさすがに屁理屈が過ぎる気がするが……」
眉をひそめて言う壱子の頭を、平間はそっとでた。
壱子は一瞬驚いたように肩をすくめたが、すぐにされるがままになる。
「だから、気にするな」
そう言って、平間は彼が考えられる限り最も優しげな笑みを作った。
壱子が無言で小さく頷く。
「さすが壱子様、素直で賢い」
「無論じゃ。私を誰だと思っておる」
不敵な笑みを浮かべ、壱子はするりと平間の手から逃れると、し距離をとって背を向けた。
それからし振り向いて、かろうじて聞き取れるくらいの小さな聲で言う。
「それと、私をかばってくれて、その……嬉しかった。禮を言うぞ」
「それはお互い様だ」
「そうか。ではそういうことにしておこう。ならば次は、私の代わりに斬られてくれ」
壱子はほんのし舌を出し、悪戯っぽい笑みを浮かべて隕鉄の方へ駆けて行く。。
「それは免こうむる」
平間は苦笑いして、足早に壱子のあとを追った。
――――
魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~
放課後の部活。俺は魔法陣をただ、いつもどうり描いただけだった。それがまさか、こんなことになるとは知らずに……。まぁ、しょうがないよね。――俺は憧れの魔法を手にし、この世界で生きていく。 初投稿です。右も左もわからないまま、思うままに書きました。稚拙な文だと思いますが読んで頂ければ幸いです。一話ごとが短いですがご了承ください。 1章完結。2章完結。3章執筆中。
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