《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》十二話「死者の骸と戯れましょう」上
「これってやっぱり……」
目の前で橫たわる二の人骨を前にして恐々(こわごわ)と言う沙和に、壱子がうなずく。
「ああ、ヒトの骨じゃな。明らかに」
「やっぱりそうだよね……。でも、なんでこんなところに?」
「私たちの知る限りでは、森で消えた者は二人しかおらぬ。六年前に行方を絶った旅商人の夫婦じゃ」
「そうだね。じゃあ、この骨はその二人のものだとしてさ……」
暗さに目が慣れてくるにつれて、窟の奧のほうの景が見えてくる。
その窟の奧に目を向けながら、沙和が続けた。
「向こうに転がっている方々は、一だれ?」
聲を震わせながら沙和が言うように、さらに奧には何分もの人骨が壁沿いに放置されていた。
手前にあった二とは対照的に、その多くは雑に散らばっていた。
それゆえ、それぞれの頭蓋骨にしっかり全の骨がそろっているのか、一目見ただけでは判然としない。
窟の奧行きは八間(十四メートル半)ほどで、平間が両手を広げて手のひらが付く程度の橫幅だ。
つきあたりには一尺(三十センチメートル)あまりの巖や小石が、人骨と共に転がっている。
窟の左右に分かれて散らばる骨の間を、壱子はスタスタと軽やかな足取りで歩いていく。
「ひぃ、ふぅ、み、よ……全部で十五か。多いのう……」
まるで川原で石を數えるような口ぶりで頭蓋骨を數え上げる壱子に、平間は思わず眉をひそめた。
別に信心深いほうではないが、さすがに不遜だと思う。
平間はチラと沙和のほうを見ると、彼は恐怖心を押し隠すような微妙な笑みを浮かべながら壱子のほうを見ていた。
そんな二人の反応を知らずに、壱子は転がった頭骨を無造作に両手で持ち上げて下から覗き込んだり、腕のものらしき細長い骨をコツコツと指で弾いてみたりしていた。
「頭骨は全て人のものじゃな。どうやら、あまり劣化が進んでないようじゃ。それに骨折の痕も見られぬ。病死か? いや、これだけでは死因が分からぬか――」
「ちょっと壱子、そんなにぞんざいに接したら、骨の持ち主に祟たたられても知らないよ」
「……? ああ、そうじゃな。どんな形であれ、死者には敬意を持たねばな」
素直にうなずいた壱子は、手に持った骨をそっと地面に戻した。
しばしの沈黙。壱子も平間も、互いにかける言葉が見つからない。
し重くなった空気を良くしようと、沙和は無理に明るく切り出した。
「それで、壱子ちゃんはこの窟をどう思うの?」
「まだ何とも言えぬが、いくつか仮説が立てられるじゃろう。一つは、ここが墓場であった可能じゃ」
「お墓? でも、今までこの森には人がっていなかったでしょ」
「勝未からはな。別の集落からってきた者がおったかも知れぬ。しかし、自分で言っておいてアレじゃが、これはあまり考えにくい」
そう言うと、壱子は試すように平間のほうを見た。何故だと思うか、答えてほしいらしい。
し考えて、平間は口を開く。
「墓にしては、雑すぎると思う」
「その通りじゃ。手前に橫たわっていた二の骨、これを『夫婦』と呼ぼうか。この『夫婦』を除いて、あまりに骨が散しすぎておる。死者を弔う場所としては、おかしい。それに加えて、ここが度の高い場所であるにも関わらず、骨の劣化が一様に乏しい。白骨になってから時間が経ってない証拠じゃ。おおよそ五年といったところで、十年は経っておらぬ。短期間に大量に棄されているわけじゃから、墓が『継続的に埋葬され続けるもの』だと考えると、やはりこれはしっくり來ない」
「それならさ――」
壱子が言い終えると、沙和が小さく手を上げて言う。
「さっきの熊みたいな食のがここを巣にしてて、この人たちはそのに食べられちゃった、っていうのは? あ、もしかしたらヌエビトがここにいて、人を襲っていたとか……?」
「うむ、それも考えられるな。ただ、獣に襲われたにしては、噛まれたときに生じるような傷が見當たらぬし、何より生前の姿を保ったまま白骨化している『夫婦』の説明がつかぬ。ヌエビトの線は……いまは何とも言えぬな。ヌエビトの報がなすぎて、何とでも言えてしまう」
「そっか……」
しゅんと肩を落とす沙和に、壱子は慌てて付け加えた。
「や、しかし『夫婦』は奧の散した骨と比べて最近のものに思えるから、奧の骨は沙和の言うようにの犠牲者で、そのがいなくなった後に『夫婦』が何らかの形でここに來た、という線も捨てきれぬぞ」
「そっか、そうだね。壱子ちゃん、気を使うことも出來るなんて、なんていい子なの……!」
「か、勘違いするな。別にそういうわけではない!」
鼻息を荒くして言う壱子は、つくづく噓が下手だ。そう平間は苦笑する。
それについてあまりほじくり返すと嫌がるだろうから、平間は話題を元に戻した。
「じゃあ壱子、本命はやっぱり?」
「言い方は悪いが、死置き場じゃろうな。年単位ではあるが、十年以という比較的短い期間に十五人の死をこの窟に置く理由は、それしかあるまい。きっと死を運んだ者は、誰にも死を見られたくなかったのじゃろう、という推測もつく」
「見られたくなかったって、なんでそんなことが分かるの?」
「窟のり口に滝があったじゃろう。あれは本來、もっとずっと太いはずじゃ。こっちに來てみよ」
滝のかかる窟のり口のほうへ歩きながら、壱子は二人に手招きした。
それに付いて行き、滝を避けて外へ出ると、壱子が滝の脇を指して言う。
「ここと、ここじゃ。合いや風合いが違うじゃろ? おそらく普段はこの境目あたりまで滝が落ちているはずじゃ」
確かに、滝に近い側はそうでないほうに比べて黒ずんでいて、巖もどこからかだ。
そしてその境界線は、窟のり口を左右から挾むように引かれていた。
壱子が言ったとおりなら、本來は滝が窟のり口全を覆っていることになる。
それならば、外から窟は見えにくくなるだろう。
「近頃、雨の多い皇都でもめっきり雨が降っておらなんだ。同様にこの辺りでも雨がなかったのなら、いま私たちの前にある滝は本來の姿よりかなり細くなっているはずじゃ。どうじゃ平間、お主が死を隠したいときに、り口を滝で隠された窟を見つけたら、ここに隠したくならぬか?」
「確かに、そうなるかも……」
そんな狀況にはならないと思うが。
平間の反応に気を良くしたのか、壱子は満足げにうなずく。
「そうじゃろう、そうじゃろう。ただ、そう考えるとまた疑問が生まれてしまう。あの何もの死を窟に運んだ人間は、なぜあの窟を選んだのかということじゃ」
「なぜって、そりゃあ壱子がいま言ったように、り口が滝で隠されていて、見つかりにくいからでしょ」
「見つかりにくさを求めるなら、この森のどこかにでも埋めて、目立たぬように細工したほうがずっと見つかりにくい」
「それは……確かに」
「私もそれが分からぬのじゃ。なぜ土の中でなく、窟の中に隠したのか……」
言うと、壱子はあごに手を當ててし俯く。彼が事を考えるときの癖だ。
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