《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》十四話「村の真実を探りましょう」中
「皿江様、本當のことを言っていただけませんか? 私や主ぬしさまは、あなたの敵ではありません。何か事があるのなら――」
「先ほどから何を言いたいのか分からんな。言いたいことがあるのなら、はっきり言えばいい」
「……っ!」
六十はとうに過ぎたであろう皿江の、年齢による衰えをじさせない威圧のある視線に、壱子は思わず怯んだ。
誰に対しても怖じしない壱子がこのような反応をするのを、平間は初めて見るかもしれない。
しかし壱子も大したもので、すぐに気持ちを立て直してしっかりと皿江の目を見つめる。
そして壱子は重々しく、その口を開いた。
「……分かりました、それでは申し上げましょう。皿江様、あなたはとっくの昔に『ヌエビトの呪い』の正がツツガムシ病だと知っていたのではありませんか? たとえ古い文で記されていたとはいえ、村に殘された資料を元薬學院の教であるあなたが読み解けないはずはありません。そしてあなたは、私たちをツツガムシ病から守るために強力な蟲除けを渡してくれました。ですが、そのことをあなたはどういうわけか隠そうとしている! 何故ですか?」
壱子の鬼気迫る問いかけに、皿江は腕を組み目を閉じて、ジッとかない。
そして言葉を一つ一つ選ぶかのように、ゆっくりと語りだした。
「全く推測の域を出ないな。私は、私が正しいと思ったことを言っている。私はツツガムシのことは今日初めて知ったし、どんな蟲であるかも知らん」
「どうしてそのような噓を――」
「噓ではない! 知っていれば、私は村人を死なせることも無かった。勇敢にもこの村のために森に立ちろうとした者たちを、守ることが出來たのだ!」
搾り出すような激しい怒りを押し込めて、しかし抑えきれずにれ出た悲しみが、皿江の聲には含まれていた。
そして皿江は小さく咳払いすると、小さく天を仰いで言った。
「あの香は私が鈴のために取り寄せているものだ。あれがあなた方と話す種にでもなればいいと思って持たせた。それだけだ」
「……そうですか」
壱子は悲しげに目を伏せると、小さく頷いた。
「分かりました、では最後に……刑部ぎょうぶにヌエビトの調査を依頼したのは、あなただということでよろしいですか?」
「そうだ。數ヶ月前に、かつての伝手つてを使ってな。迅速な対応をしてもらって助かっている」
「……ありがとうございます。では、私からお訊きしたいことは以上です。主ぬしさま、何かありますか?」
そう壱子は聞くが、もともと壱子に連れられてここに來たのだ。
今までの話とは別に、平間に用件があろうはずも無い。
平間が首を振ると、壱子は立ち上がった。
「では、これで失禮いたします。お時間いただき謝します」
「いや、私も的になってしまった。何かあればまた來なさい。それと――」
「はい?」
「私の言うことではないが、あまり自分を押し込めるものではない。君が卓越した才媛さいえんであることはよく分かっている。今後は妙な気遣いは不要だ」
褒められたのと見かされたので、壱子は思わず頬を赤くする。
そんな壱子を目に、皿江は平間のほうを向いて言った。
「平間殿も、こんな娘が許婚では苦労するな。ああ、別に悪い意味ではない。褒め言葉だ」
「……はあ。確かに苦労はしていますが」
曖昧な笑みを浮かべて、平間は気の抜けた返事をする。
褒め言葉には思えなかったし許婚ではないが。
平間、壱子、沙和の三人は、皿江の屋敷を出るとそのまま彼らの宿舎に戻って、隕鉄の帰りを待つことにした。
――
「噓じゃな」
宿舎に戻って開口一番、壱子ははっきりとそう言い放った。
「噓って、何が?」
「皿江のことに決まっておろう。あやつは確実にツツガムシ病のことを知っていた。ツツガムシが載っているのは、私でさえ見られるような文獻じゃぞ。機であると言うことなどできるはずあるまい! 一、何を隠しておる……?」
分からないものがあることが腹立たしいのか、それともある程度信頼を寄せていた皿江に噓をつかれたことが悲しいのか、壱子は聲を荒げる。
しかし、平間には引っかかることがあった。
「でも壱子、皿江さんの『村人を守れなかった』って言う聲が、噓だとは僕には思えない」
「……確かに、あの臺詞には熱がこもっておった。しかし、それが演技ではないと何故言い切れる? それに、それは本當で、後にツツガムシを知ったという可能もある。それならば、ツツガムシを知っていてもその臺詞自は噓にはならない」
それもそうか。
だが、平間はイマイチ皿江を疑うことができないでいた。
あの実直そうな老人が自分たちを騙そうとしているなんて――。
「平間、見た目の印象だけで人となりを判斷しようとするのは愚か者のすることじゃ。私は宮中で、笑顔の仮面をかぶった化けどもを數多く見てきた。直は有用ではあるが、時に正確な判斷を曇らせる。事実だけを見なければならない」
平間の思考を読むかのように、淡々と壱子は言った。
確かに、宮中は海千山千の者たちが権力爭いのために相食む魔境だとも聞く。
それを間近で見てきた壱子だからこそ、なにか人の表面の裏に見えるものがあるのかもしれない。
どこか自分に言い聞かせるような印象をけたのもそのせいだろうか。
「分かった、皿江さんのことはキチンと眼鏡なしで考えよう。でも、皿江さんがツツガムシのことを知っていたとして、どうして僕たちにはそのことを言わずに、遠まわしに助けるようなことをしたんだろう」
「私もそれが分からぬのじゃ。私たちに好意を持っているならツツガムシの事を知らせれば良いし、悪意があるのなら蟲除けの香など渡す必要は無い」
考え込んでしまった二人に、沙和が明るい聲で言う。
「うーん、なんだかよく分からないことになってきたなあ。結局、村長さんは何をしたいんだろうね?」
「皿江の目的か。それはやはり、村を再び活化することではないか? 皿江の言葉の節々からは、村の現狀を憂う思いがこもっておったし、まず間違いないと思うが……」
そう言う壱子は、いつにも増して歯切れが悪い。
平間でさえ、皿江には村の活化以外にもっと何か、別の目的があるような気がする。
「まあ、今は皿江について考えても仕方があるまい。なにか重要な要素が欠けている気がする。しかし皿江が何を考えているか分からない以上、念のためこれからは隕鉄には私たちの護衛に付いてもらおうと思う。平間、それで良いか?」
「ああ、隕鉄さんが一緒なら心強い限りだ」
「よし。それに、窟で見つかった大量の人骨のこともまだよく分からぬ。今しばらくは森の調査を継続しよう」
そう言う壱子は、先ほどとはうって変わって、どこか楽しげに見えた。
問題が山積しているこの狀況でどうして……と思いかけたが、平間には分かった。
才覚あふれる彼は、このような「自分が本気を出しても解決できない問題」に今までぶつかったことが無かったのだ。
そんな未知との遭遇を、壱子という天才が楽しんでしまわないはずが無い。
平間は彼なりに壱子をねぎらおうと、隕鉄が戻る前に夕飯や風呂の用意を始めようと腰を上げた。
それに気付いた沙和もそれに続く。
その時、宿舎の戸が開くと、そこには皿江の養である鈴が立っていた。
「こんにちは! ああ、もう“こんばんは”になるのかな。上がってもいい?」
「もちろんじゃ。よく來たのう」
自分より小さな來訪者を、壱子は嬉しそうに迎える。
しかし鈴の表は、どこか影があった。
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