《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》3.知らないバーテンダー
しずつ客が増えてきただろうか。タクミも忙しそうにんな客の相手をしている。
その時、チリンとドアベルが鳴ってバーの扉が開いた。
「あれ、マサじゃん」
ドアの方を向いて、タクミが驚いたように聲を出し、自然と道香もそちらを見ると、し驚いて息を飲む。
180センチ以上ありそうなその男は、野的なしい顔つきを強調させる長めのツーブロックを後ろにでつけ、黒のライダースジャケットとデニム姿だが、立っているだけなのにその存在に圧倒される。
「オーナー今日來れないらしいから早めに來た」
タクミとは違いよく響く男らしい太く低い聲で、マサと呼ばれた男はそう言うと一度店の奧に向かった。
「今の人は?」
めぐみはタクミにおかわりを頼みながら話し掛ける。
「ああ、うちのスタッフだよ」
「道香アンタ會ったことあるの?」
「いや……初めて見る人」
店の奧の扉を見つめたまま、気もそぞろにめぐみに返事をする。
「ああ、マサは基本的に深夜勤務だからね。道香ちゃんが來る時間にはいないよ」
タクミが他にも何人かスタッフがいる話をし始めるので、ようやく視線を戻してその話を聞く。
タクミの話ではオーナーを含めて5人スタッフがいるらしく、個人の特徴を聞くうちに、道香はマサにだけ會ったことがない事実に気が付いた。
「うちは朝の5時まで開いてるからね。マサは他の仕事も有るらしいし、深夜固定だから會うことがなかったんじゃないかな」
タクミはシェイカーを振りながら、アイツの飯は旨いよと食事の注文を勧める。
「へえ。どんな料理なんだろうね、道香」
「あ、え?……うん、気になるね」
しばらく顔を出していたのにタクミのことはおろか、店のことにもあまり詳しくない自分に気が付いて、道香はいかにタクミに舞い上がっていたのかけなくなる。
ガチャリと奧の扉が開き、タクミと同じタイトな黒のシャツとギャルソンエプロンにを包んだマサが現れた。
「オーナーしばらく來れないらしい」
マサはタクミに一言そう言うと、手を洗って消毒している。
「なに、込みってんの?」
タクミは作り終えたドリンクをトレンチに乗せると、マサの返事は待たずにカウンターを出る。
「タクミのお客さん?」
ようやくそこでマサが道香とめぐみに視線を向ける。
「あー。この子がタクミさんのファンで」
「ちょ、めぐみっ!」
「タクミの?変わってるな」
眉を寄せて小さく笑うと、空いたグラスを下げ、次の一杯は奢るからと好みを尋ねてくる。
「じゃあ私はスプリッツァーで」
めぐみはそう言ってワインベースのカクテルを頼むと、アンタは何にするの?と道香を見る。
「いつもはピーチフィズなんです」
「甘くて飲みやすいのが良いのか。ちょっと待って」
マサは短く答えると、新しいグラスワインを注いでソーダで割るとライムをカットしてめぐみに差し出す。次に手早くボトルを用意して道香用のカクテルを作り始める。
「パイナップルは平気?」
「はい」
手元をかしながら目線だけを送ってくるマサにしドキリとしながらも、道香はなんとか返事をした。
「マリブパイン。アルコールも低めだし甘いけどサッパリしてるし飲めるはず」
コースターの上にグラスを置いてそれだけ言うと、マサはタクミからけ取ったオーダーを見て調理に取り掛かった。
「あれ。道香ちゃんがピーチフィズ以外を飲んでる」
「マサさんの奢りだそうです」
戻ってきたタクミにそう答えると、道香はマサが作ったカクテルを一口飲む。
「ん。飲みやすい」
「コイツが奢るって言ったの?」
タクミは下げてきたグラスをシンクに移すと、珍しいこともあるもんだと目を見開く。
「お前のファンとか貴重だろ」
マサは表も変えずに、既に仕込んであったらしい材料を冷蔵庫から取り出して、タッパーから一掬いすると、フライパンにそれをれて炒める。
「タクミさん贔屓はおかしいんですか?」
その調理する後ろ姿に聲を掛けるのはめぐみだ。
「客けは良いけどな」
「おい、マサ。濁して言うのやめろよ」
タクミは苦笑いを通り越して呆れた顔でマサを睨んでいる。するとマサの手元から香ばしい匂いがしてくる。
「ドミグラスですか?」
道香は好であるその匂いに堪らず聲を掛ける。
「そう。ハッシュドビーフでグラタン作るとこ」
手を止めずに隣でマカロニや野菜を茹で、また別のフライパンでと玉ねぎを炒めると、マサは仕込んであったドミグラスソースを生クリームでばしながら返事をした。
「マサがいる時だけ出る料理」
サイズは小さいから食べてみたら?タクミが笑ってこちらを見るので、道香はマサの背中に聲を掛ける。
「とても味しそうなので一ついただけますか」
その聲に振り返ると、マサはじゃあこれも奢ってやるよと笑ってみせた。
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