《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》29.嫌がらせ

掃除をしたり洗濯を済ませてソファーで寛いでいると、10時ごろにインターホンが鳴った。

モニターで確認すると、昨日見積もりに來たスタッフが映っているので、安心して扉を開ける。

段ボールやクッション材、その他にもガムテープなどをけ取ると、再び扉を二重にロックして部屋で荷造りを開始する。

手間が掛かりそうな食類を先に梱包し始めると、一人暮らしを始める際に親から持たされたや気にって購した、友人の結婚式の引き出など意外と數が多い。

マサが來てくれたので冷蔵庫の中の減りは予定より早い。大枠で殘りのメニューを組み立てると、使う食に見當をつけ、使わない食は一気にクッション材で包んで段ボールに詰めていく。

「まあこれも向こうで処分するかも知れないけど……」

獨りごちて大きな溜め息を吐き出すと、荷造り出來るものは早々と段ボールに詰め込んでいく。

一段落すると晝ご飯に殘っていた冷凍うどんを茹で、バラと大を甘辛く炒めたを乗せて食べ休憩をする。

食後はテレビを流し見しながら、タオルやシーツなどの荷を段ボールに詰め、ドライヤーやヘアアイロンなどの細かい家電は封を閉じずに一つの段ボールにまとめて放り込む。

詰め終わった段ボールはクローゼットの中にれて出來るだけ部屋のスペースを殘しておく。

15時を過ぎる頃にはあらかた片付いてしまい、道香は手持ち無沙汰になる。そこで、この數日ではもう使わないであろうパソコンやプリンター、コンポや固定電話などを、保管していた正規の箱にしまうと、部屋の中がだいぶスッキリした。

を退かしたことで臺座になっていたラックなどをリサイクルに出す前にきれいに拭いて掃除する。それらをこなしているに気付けば17時を過ぎている。

道香は洗面臺で手を洗うと夕飯の下拵えに取り掛かる。特売で購した合挽きミンチを解凍してハンバーグのタネを作る。刻んで冷凍した微塵切りの玉ねぎを全て使い切ると、他にもニンジンやしいたけを荒微塵に刻み、つなぎの卵を割りれたらナツメグを振りよくねる。

マサが帰宅してから焼けば良いので、ボウルにラップをかけると、冷蔵庫で寢かせる。

小麥とマーガリンでホワイトソースを作ると、牛でダマにならないようにトロトロになるまでばし、コンソメをれて味付けすると、フライパンで鶏モモ、じゃがいもを炒めて火を通し、塩胡椒で味付けしてから、冷凍していたブロッコリーも併せて投してクリームシチューを作った。

食のバランスよりは、食材をいかに使うかなので、どうしてもガッツリした食事になってしまう。しかしマサの食ならばこれも全部食べ切るかもしれない。

フライパンを洗ってコンロに戻すと、米びつから三合分の米を計りれ、米を研いで炊飯にセットする。

一通り作り終えると、道香は部屋に移してお茶を飲む。何気なくスマホを見ると、マサからメッセージが數件來ていた。

急いで確認すると、急にった會議が押して行くのが遅くなるという容だが、手が空くたびに更新したのだろう、メッセージは三通に分かれていた。

以後メッセージが無いことから、まだ會議中のはずなので短く了解とだけメッセージを返す。テレビ以外を早々と片付けてしまったのでなんとなくソファーから見える視界は殺風景だ。

夕方のニュースを見るとこの時期には珍しくゲリラ豪雨の様子が映っている。洗濯を干しっぱなしなのを思い出して慌てて取り込むと、遠くに雷鳴が聞こえる。

今週は晴れ間が続くのではなかったのか。

引っ越し當日は晴れるように願いながら、取り込んだ洗濯を畳む。しだがマサの服が混ざっていることが不思議だけれど、これからはそれが當たり前になる。

道香は部屋をザッと見渡して、本當にこの家を出るのだなと、改めてマサと一緒に住んで環境が変わることを実した。

マサからの連絡を待ちながら、暇を持て余し、気が付けば21時半を過ぎたが未だ連絡は無い。

既にご飯は炊けているしハンバーグもそろそろ焼いても良いかも知れない。何もしないでいると余計なことばかり考えそうになるので、道香は立ち上がるとハンバーグを焼くことにした。

小振りなサイズに形して數を増やす。半分は普通に焼いて、酒、醤油、ケチャップ、ソースをれ、それらが絡むように炒めて皿に盛る。フライパンを洗うと、再び殘りの半分を焼いて今度はホールトマト缶を使い香辛料をいくつかれて煮込みハンバーグを作る。味見をしながら微調整してゆっくり煮込む。

最悪マサが今日來れなくても、今夜と明日で片付ければ良い。そう思ってフライパンの火を弱める。

そんな時に電話が鳴る。マサからだ。しかし珍しくビデオ通話なので道香は違和を覚えつつも念のため録畫の設定をしてから電話に出る。

『こんばんはぁ』

畫面にはわにした下著姿のが映っている。見覚えがある。アウトレットで見かけたマサの書だというだ。聲もそののものだ。

「どちらにお掛けですか?」

道香はさして驚くそぶりも見せずに、マサの電話を使う芝田に返事をする。

短く舌打ちする聲が聞こえると、わざとアングルを変えて、スーツのままでベッドに橫たわるマサの様子が映し出される。

『分かりません?今、専務と一緒なんです』

「ご用件はそれだけですか?」

道香は淡々と返すとまた電話の向こうからイラついたような舌打ちが聞こえる。

『隨分と余裕ですけど、私たち前から付き合っているんですよぉ。あなたは専務の気まぐれな遊び相手よ、勘違いも大概にしなさい』

仕方ないので、には見えないようにカバンからあるを取り出すと、道香は手元で何かを作する。

「聞いてんの?財産狙いのメス豚が!どうやって取りったか知らないけど、私たちの邪魔をしないでくれる?」

「必死ですね……可哀想に」

芝田に語りかけながら、道香は會社攜帯からマサが持っているはずの彼の會社攜帯に電話をする。

芝田はヒステリックに『噓じゃないわよこのメス豚が!』と罵倒し始める。

それを聞き流し、會社攜帯を數コール鳴らすと畫面の向こうで唸るような聲を上げてマサが起き上がる様子が見える。様子がおかしいのは明らかだ。そして元から攜帯を取り出すとマサが電話に出る姿が映る。

『……はい、盛長』

起き上がったマサに芝田は驚いて青ざめ押し黙る。

「盛長さん……端的に申し上げるなら貴方の危機管理意識とやらは全くなってないですね」

『みち……』

「一點、私怨でこの手の妄言を吐く淺慮な書なのはお立場的に如何なものかと。二點、もし薬を盛られているのならすぐ警察か病院へ。三點、この後お迎えが必要ならいつでも出られるのでご連絡をください」

道香が冷徹な聲で淡々と語ると、マサは頭を抱えながら芝田に一瞥くれると、短く分かったと返事をする。

「盛長さん、最後になりますが彼の淺慮な行は終始録畫済みなのでこれ以上拠のない事で騒ぐなら出るところに出て対処するとお伝えてください」

スマホ越しに大聲で違うんです!と騒ぐを録畫したまま會社攜帯を切ると、ようやくスマホの畫面にマサが映り、改めて連絡すると申し訳なさそうな顔が映って通話が切れる。

「はあ……」

電話を切って録畫の狀態を確認する。問題なく全て殘っていたので道香はパッアップをとって保存した。

「メス豚ねえ」

笑いが込み上げる。同時に噴き上げる怒りをどう鎮めるか頭が痛くなる。

「嵯峨崎と言い、この芝田と言い、頭のおかしい人が多いもんだわ」

実際にマサが芝田と人同士であった過去があったとしても、今はそうではないだろう。

「財産目當てなのは自分でしょ。私はバーテンのマサしか知らないよ……なにが専務だよ」

こんなことが度々起こるようなら付き合うのは疲れるなと道香は小さく溜め息を吐く。

しばらくテレビを見ていたが、待っているのがバカらしくなってご飯を溫めると一人で食べ始める。淡々と食べて量を減らし、途中お茶を取りに行ったりしながら、満腹になるまでご飯を食べた。

それからテレビを見てし休憩すると、シャワーを浴び、髪やをサッと洗う。

風呂から出てドライヤーで髪を乾かすと、スマホが震えて電話の著信を知らせる。道香は髪を乾かす手を止めてスマホを摑むと電話に出る。マサだった。

「はい?」

『道香、さっきのことだけど』

「謝るのやめてね、彼が謝罪するならまだ分かるけど、マサさんが謝るのは意味が分からないから」

『悪い、不注意で』

「そうだね。事実か噓かはどうでも良いけど、実際に彼は下著姿であなたと居たからね。私に気を取られて自分のことは注意力が散漫してたのかな。で?なんの電話」

どうしても出てくる言葉にるトゲが滲む。みっともないとは思うが、信じていようが、いまいが、あんな嫌がらせをけて、良いの良いの気にしないでとは言えなかった。

『お前な……まあいい。家に行けるのはもうし後になる。その時ちゃんと話そう』

道香の反応にマサは呆れたように溜め息を吐いたが、それでも行って話せば分かると言わんばかりの言い様で話を続ける。それに腹が立った。

「無理してこなくて良い!」

『道香、悪かっ』

「私も普通の人間だよ。當たり前に腹も立てば怒りをぶつけふこともあるよ」

『……悪い』

「今日だけじゃなくて明日もこなくて良い。二度と會いたくない!」

『おい、みち』

何かを言おうとしていたマサの電話を一方的に切ると、道香はソファーに倒れ込む。

「あー、なんで八つ當たりしちゃったんだろう……」

自己嫌悪で嫌になる。両手で顔を覆うとけなくてジワリと滲む涙を拭いた。

マサが悪いわけじゃない。それは分かる。だけどこんな狀態の時に、あんな嫌がらせをけたくなかった。

「あんなに堂々と噓つくかな?実は本當も混ざってるからじゃないのかな」

もうやだ。タクミや二百萬持ち逃げした昔の彼氏を思い出し、自分が全然長していないことに腹が立って仕方なかった。マサが違うとどうして言い切れるのか、自分の中で確信がなかった。

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