《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》33.ようやく前を向いて

ピリピリピリピリ。

耳をつんざくような電子音に目を覚ます。それはマサも同じらしく、小さく唸り聲を上げている。

「これ何の音?」

「んー多分俺の會社攜帯」

道香を抱きしめてこうとしないマサの腕を叩くと、急だったらどうするのと電話に出るようにマサを起こす。

昨夜は寢たのが遅く5時を過ぎていた。時計を見るともう15時前だ。

「んー。誰だよこんな時間に」

「あ!リサイクル業者かも」

「ああ。今日か」

マサはのそのそとロフトを降りると、クローゼットに掛けられたスーツのポケットから攜帯を取り出す。

「もしもし」

『毎度お世話になります!リサイクル本舗、山本でございます。石立様でしょうか』

「……はい」

『あと5分ほどで伺いますが、ご在宅でしょうか』

「はい。待ってるんで大丈夫です」

『ありがとうございます!それでは伺わせていただきます!』

元気な聲は電話越しに道香にも聞こえていた。

「道香、下に履くやつ何かねえか」

ロフトから降りてくる道香にマサがズボンを貸してしいという。

「ん?」

「さすがにこの下にスーツは変だし、パンツ一丁もヤバイだろ」

「ああ!そっか。マサさんがるやつあるかな」

道香は言いながら、ダボついたメンズのデニムをマサに渡す。

「これならるんじゃない?」

「男の忘れもんか?」

「學生の頃流行ったって言ったでしょ。そういうブカブカのやつを腰で履いたり、サスペンダーで著てたの!」

「ふーん」

マサは早速デニムに足を通して、道香にはダボダボなそれを履きこなす。

「あらぴったり」

「これガチでメンズじゃん」

「正確にはお兄ちゃんの大事にしてた古著をくすねたの」

「兄貴のかよ」

マサが吹き出して笑うとインターホンが鳴った。

念のためと言ってマサが対応をすると、あの元気な聲の電話のスタッフらしい人を含めて三人がやってきた。

道香はマスキングテープで分けした不要なものを一つずつチェックしながら指示を出して回収してもらう。家電も引き取れますと言われたので、掃除機や電子レンジ、他にもポットや洗濯機、炊飯や冷蔵庫も中を出して軽く掃除をして引き取ってもらう事にした。

二束三文を覚悟していたが、結構な高額で買い取ってもらえた。

作業を終えて業者が帰ると部屋はだいぶがらんとしている。

道香はパソコン用のデスクに置かれたテレビを見上げ、それ以外はドレッサーだけが殘されたフローリングに座ると、を踴らせて學生生活を始めたころを思い出す。

マサが食材の殘りを見て飯でも食うかと部屋の向こうから聲を掛けてくる。

「じゃあ作ってもらおうかな」

返事をしてぐるりと部屋を見渡す。殘りのものを段ボールに詰めなくては。

クローゼットから未使用の段ボールを取り出し、壁に掛けたコルクボードの寫真飾りやドレッサーの中を整頓し始める。

この家ともあと二日でお別れだ。々あり過ぎたが、もう引っ越し先を変えようとかそんな気持ちはなかった。マサと居る。それが道香の答えだった。

「道香、出來たぞ」

「はいはーい」

マサの元に向かうとカレーのように盛り付けられたシチューと、豚のコマ切れとピーマン、ナスとネギの炒めが出來上がっている。

「使い切ったんじゃないか?」

「本當、凄いよマサさん!ありがとう」

皿を出してマサが炒めた料理を盛り付けると、床にフロアモップを掛けてから、薄手のラグを敷き、ピクニック気分で遅い晝ご飯を食べる。

「これ手作りだったのかよ」

マサはごめんなと言いながら、味しいと繰り返してシチューを頬張る。ごめんというのはきっと昨日の失態のことだろう。道香は謝罪にはれずに笑う。

「マサさんたくさん食べてくれるから、作り甲斐あるよ」

「まあ、ここんとこ、まともに飯食う時間がなかったからな」

夜はどうしようかと晩ご飯の相談をしながら、あっという間に晝ごはんを全て平らげる。

「ゴミが出ないように外で食うか?」

「なら近所に味しいスペインバルがあるよ」

いつだったかめぐみと行った店を思い出して、道香は洗濯の渇き合を確認する。

「このカッコで大丈夫だろ?」

「さすがに私は著替えるけどね」

マサはデニムにジップアップのパーカー姿だか、道香は明らかに寢巻きと分かるTシャツとジャージ姿だ。

食べ終わった食はマサが洗うと言うので片付けをお願いして、道香はマサのワイシャツにアイロンを掛けた。

バタバタと警察に行ったその足で道香の家に來たマサは、當然のことながら、事前の話とは違ってビジネスバッグしか持っていなかった。

アイロンを掛け終えると、そのままクローゼットにワイシャツを掛ける。他の洗濯も畳んでトランクケースにれた。

洗いを終えたマサは未使用の段ボールを取り出してキッチン周りの片付けをし始める。道香もまとめた服をバッグごと段ボールに詰め、ドレッサーから必要最低限の化粧品をポーチにまとめると、手元のカバンに詰め込み、あらかじめ荷造りしていた殆どの箱にガムテープで封をする。

マサは醤油などの調味料の蓋をガムテープで固定すると、ビニール袋にまとめてから段ボールに移す。

「捨てても良いけど、この程度なら持っていっても邪魔にならねえだろ」

クッションがわりにバスタオルを道香からけ取ると、調味料が倒れないように固定して段ボールに封をした。

「荷造りもほぼ終わったね」

「あと何があるんだ?」

「テレビかな」

「もう片付けるか?」

「そうだね」

道香はクローゼットの上から正規の箱を取り出すと、それをけ取ったマサがテレビを梱包する。

「殺風景になったな」

拭き掃除をしながらマサが部屋を見渡して呟く。

「いよいよ明後日引っ越しだね」

「あ、明日は午前中から実家に行くから」

「え?」

「親父の都合でな。今回のことでバタバタして夜は分からないらしい」

「そんな時にご挨拶ごときで時間を割いていただくのも気を遣うんだけど」

マサから雑巾をけ取ると、風呂場できれいに洗ってベランダに干す。

「お前に會って謝りたいのは親父も同じなんだよ」

「えー。謝罪なんて求めてないよ」

「まあ、嫁り前の娘さん預かるのにこんな狀況だから」

「そりゃま、そうだけど」

困った顔をすると、マサは道香を抱きしめて預かる側の責任だと、あくまでも自分の不注意から芝田が暴走して犯行に及んだ経緯を改めて詫びる。

「本當にごめんな」

「だからマサさんが悪いってわけじゃないから」

道香はマサの背中をゆっくりとでると、脇腹に指をらせてくすぐる。

「ちょ、こそばいって」

「はは、弱點みっけ」

マサをくすぐってじゃれると、二人は自然と笑顔になる。

「道香には敵わないな」

「そう?私も腕力なら負けるけど」

騒なこと言うなよ」

「はは。めぐみならマサさんでも投げちゃいそうだけどね」

そういえば、めぐみに連絡をしていなかった。道香は急に思い出したように、ロフトで充電しっ放しだったスマホを取ってくると、めぐみに今回の事件の詳細をメッセージで送る。

まだ仕事中だろうから既読はつかないが、時間のある時に芝田に対する罵倒と、お説教を聞かされるかも知れない。

「めぐみちゃんてなんの仕事してんの」

「タイコー本社の付」

「老舗商社じゃん」

「ね。凄いんだよ」

「見合いって會社関連?」

「違う違う。親さん同士が知り合いで、向こうのお母さんが特に乗り気でお見合いするんだって」

「へえ。アイツ親の言うこととか聞かなさそうだけど」

めぐみを思い出してか、険しい顔つきでマサは呟く。

「ここだけの話、めぐみは5年付き合って同棲までした彼氏と別れたの。だから違う視點で付き合うのもありかと思ってお見合いけることにしたんだって」

「へえ。あの気の強さで、アイツ見合いとかうまく行くのか?」

「なんだろね。マサさん相手だといつも喧嘩腰だけど、めぐみは大手の付だし人當たりは良いんだよ?」

道香はなんでそんなに対抗心持ってるのと笑う。それに対してマサは溜め息を吐き出すと笑い事じゃないと道香のおでこを指で弾く。

「対抗心つか、アイツ純粋に失禮だろ」

「それめぐみも言いそう」

弾かれたおでこを押さえながらも、道香は吹き出しながらそう答える。

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