《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》36.張の中での食事
「さ、道香ちゃん。難しい話は後にしてお食事しましょう」
道香は橙子に手を取られ、引き摺られるように食堂に連れて行かれる。
道中、食事は自分が腕をったと橙子は興気味に、お口に合うと良いわとニコニコして道香を見る。
食堂の脇の洗面臺で手を洗うと、タオルを借りて手を拭き、橙子に案されるまま席に著く。
遅れて來たマサと晃一郎は仕事の話なのか張した面持ちのまま、靜かなトーンで會話をしている。
「いやよね、家にいる時くらい仕事のことは忘れれば良いのに。これだから殿方は」
橙子は道香を気遣ってか、そんな言葉を掛けてくれる。しかし道香は芝田のことだろうかとし心配になる。
「ああ、待たせたね。いただこうか」
席に著いた晃一郎が聲を掛けて食事が始まる。
ローストビーフやマッシュポテトがあるかと思えば、いなり壽司と筑前煮なども並ぶ。
ローストビーフを切り分ける高橋は、誇らしげに全て奧様の手作りですよと笑顔を見せる。
「そうなんですね!ありがたく頂戴します」
道香は高橋がサーブしてくれたし厚切りの贅沢なローストビーフを見て興した。
「お袋のいなり壽司とかひさしぶだな」
マサは箸も使わずに手摑みでいなり壽司を頬張る。
「高政!お箸を使いなさい。行儀の悪い」
橙子が嗜めるように聲を上げ、マサはバツが悪そうに用意された手拭きで指先を拭うと、箸を持って二つ目のいなり壽司を頬張った。
食事が進む中で、道香の家族の話を々と聞かれる。隠すことでもないので、四人兄弟で、兄は仕事で海外赴任、姉は酪農家に嫁いで北海道、弟は歯科醫を目指している大學生で、親は普通のサラリーマンだと正直に話した。
兄姉と弟の話は実家に來た時にマサにも話してあったのだが、道香の兄と姉は実は二卵の雙子である。これにはマサも驚いていた。
マサは聞いていたとおり姉と二人姉弟だそうだ。姪っ子ばかりが三人なのだと言う。
そこでマサは何かを思い出したように、晃一郎の耳元にコソコソと耳打ちをし始めた。
晃一郎は最初こそ訝しむ顔をしていたが、マサの話が終わると、道香を見てなぜだかとても嬉しそうな表を浮かべた。
楽しく談笑して食事が進む中、ドアのノックと共にスマートな男が食堂にってきた。
「そろそろお時間です」
失禮しますと一言斷ると、男はマサにも頭を下げて晃一郎に聲を掛ける。
晃一郎は片手を挙げて分かったと返事すると、男は食堂から出て行った。
「お父さん、もうお仕事なの?」
橙子が溜め息を吐き出すと、ああと短く返事をして晃一郎は道香を見る。
「道香さん、申し訳ないが私は席を外します。いやあ、しかしこんなに嬉しいことはない!どうぞ高政をよろしく頼みますね」
夜またお會いしましょう。そう言って食事を終えると席を立つ。橙子はマサと道香に斷りをれると、晃一郎と一緒に中座して食堂を離れた。
「お父様に何を話したの?」
「道香の親父さんから預かった最終兵をちょっとね」
「ん?」
道香は意味が分からず首を傾げる。廉太郎は普通のサラリーマンだ。最終兵とは一なんなんだ。
「それより口に合ったか?」
「うん!もう最高。どれも味しくてお箸が止まらないよ」
「お袋は料理が趣味なんだよ。さっき親父も言ってたけど、今日は姉貴も來るし、夜までゆっくりしていけ」
「ご挨拶に伺っただけなのにお邪魔じゃないの?」
「お前を帰らせたら親父に嫌味言われんの俺だから」
気にするなとマサは、またいなり壽司を頬張った。
食事を終えると橙子に庭のガーデニングを見せてもらう。高橋と橙子が世話をしているらしく、ハーブや小さな家庭菜園もあるらしい。
終始腕を組んで道香ちゃん、と呼ばれるのはなんだかこそばゆいじがした。
庭を楽しんだ後はアヤメも一緒に、マサの部屋でアルバムや學生時代の話を聞いた。アルバムに寫るマサはく、今よりもやんちゃなじで可らしかった。
「高政、りますよ」
橙子がお茶にしましょうと聲を掛けに來たので、案されるまま、リビングに戻る。
「おもたせで失禮だけど、私の大好だからお茶請けに出させていただくわね」
橙子は道香が持って來た焼き菓子を味しそうに食べながら、マサやマサの姉の恵の話を面白おかしく話してくれる。
「そう言えばお姉ちゃんまだ來ないわね」
「チビたちの支度もあるんだろ」
「今日はシッターさんが來てくれるらしいから、もうそろそろくるはずなのよ」
橙子が振り返るので、道香もそちらへ視線を向ける。もうすぐ16時だ。
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえたかと思うと、服裝はシンプルだがゴージャスながってきた。
「お母さん久しぶり!おお、高政。こちらがアンタの彼?」
「お初にお目にかかります。石立道香と申します」
道香が立ち上がって頭を下げると、良いの良いの!と頭を上げさせ、座ってとにこやかに橙子の隣に座る。
「ねえ、道香ちゃん」
「はい」
「本當に高政なんかで良いの?」
「はい?」
答えに詰まって聞き直すと、恵はケラケラ笑いながら、マサのどこが良いのかと改めて尋ねてくる。
「正直で優しくて、仕事熱心なところです」
「うわあ、好きな子の前でカッコつけてんだねアンタ」
マサの顔を見て聲を上げて笑うと、恵は橙子に道香ちゃんじゃ勿ないよねと言う。
橙子は恵を嗜めながらも、同じように思うのか、道香に本當にマサで良いのかと確認してくる。
「私の方こそ、私なんかで良いのか……」
道香がそう答えると、三方向からツッコミがる。
「問題児は高政だから!」
「高政が問題なのよ」
「お前で良いんだよ」
三人は顔を見合わせて聲を出して笑う。道香もつられて笑顔になる。
恵は華やかな見た目どおり賑やかな人だった。旦那様である常務の池裕隆は口數がなく恵が一人で喋っては笑っていると、マサが説明してくれる。
恵が來たことで一層會話が盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。
晩ご飯も食べていくように橙子と恵に説得され、出ていく前の晃一郎の言葉も思い出し、道香は遠慮せずに言葉に甘えることにした。
時計を見ると19時を過ぎている。
夕食は高橋が用意してくれていると言う。出來上がりを待つまでは、賑やかな會話を楽しんで、20時前に高橋に聲を掛けられ食堂に移すると、串揚げや天ぷらの用意がされていた。
「天ぷらはお手元のをつけてから揚げて召し上がってください」
卓上コンロがいくつか設置され、マサと道香は同じ鍋で串揚げを揚げて熱々をい食べる。なんと贅沢な夕食だろうか。
「ご飯しかったら高橋さんに言えば持ってきてくれるぞ」
マサはそう言うと高橋さんにご飯を頼んでいる。
家での串揚げにテンションが上がり、レンコンにを纏わせて油の中にれたところで、恵から聲を掛けられる。
「道香ちゃん、高政から聞いてるだろうけど、明日の迎えは11時ごろで構わない?」
「いやでもお忙しいんじゃないんですか?お子さんのこともありますし」
「良いの良いの!そんな気を遣わないで。コイツの車運ぶついでで悪いけど、遠慮なく乗って行こうよ。ね?」
「ありがとうございます。助かります」
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