《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》37.優しい時間
それからしばらく談笑していると、晃一郎が、裕隆を連れて帰宅した。
道香がまだいたことに安堵し、晃一郎は上等なワインを開けてくれた。
晃一郎や裕隆をえて更に賑やかになった食卓を囲み、そうしてすっかり食事や會話、お酒を楽しんでいると、気付けば23時前になっていた。
「マサさん、時間」
隣のマサにだけ聞こえるように道香は話し掛けると、マサが賑やかな中パンと手を打って、そろそろ帰るよと聲を掛ける。
「あらあら、もうこんな時間だったのね」
橙子が時計を見て驚いた聲を出す。
「泊まって朝出れば良いじゃない」
恵は泊まるように言うが、マサがそれを斷る。
「引っ越し當日でバタバタさせたら道香が疲れるだろ」
マサはそう言ってごちそうさまと手を合わせる。道香も倣って手を合わせた。
「道香さん。また近いうちに、今度はご両親ともぜひご挨拶をさせていただきたい」
晃一郎がにこやかに道香を見る。
「ええ、ぜひ。両親にも伝えておきます」
道香は答えると立ち上がって改めて頭を下げる。
「本日はお忙しい中、このようなおもてなしをいただきましてありがとうございました」
「やだぁ、道香ちゃん固い固い」
恵がただの家族の食事よと笑っていつでもおいでねと道香をい、座るよう促す。
「はい!ありがとうございます」
「道香ちゃん、本當よ。約束ね」
橙子はいのように道香を見る。
「はい。改めて伺わせていただきます」
道香は橙子に笑って答える。マサはその様子を見ながら部屋に控えていた高橋に聲を掛けてタクシーの手配を依頼する。
「道香さんはデザインも勉強したんだって?」
無口な裕隆が興味深そうに話し掛けてくる。
「はい。服飾系の短大を出た後に改めてデザインの専門學校へ行きました」
「今度はぜひマニアックな話しに付き合ってもらおうかな」
裕隆は職人気質だとマサから聞いている。グラブレのトップデザイナーだ。こちらとしても勉強になるだろう。
「ぜひ!力不足は否めませんが楽しみです」
「いやいや、道香さんのようなお嬢さんが高政と一緒にいてくれるなんて嬉しい話しじゃないか」
裕隆くんまで饒舌だと晃一郎は笑う。そこからタクシーの到著までまたしばらく盛り上がった。 全員にあたたかく見送られてマサの実家を後にする。
「張して損したろ」
「あったかいご家族だね」
「道香んとこもな。俺、親父さんとお袋さんの噛み合わない會話好きだよ」
「ははは。確かに。うちはお母さんのマシンガンが止まらないしお父さんのボケにはツッコミ不在だからカオスだよね」
お兄ちゃんたちが居たら立するんだけどねと道香は笑う。
「そういや、お前の兄ちゃんたち雙子なのな」
「うん。言ったつもりだったよ」
「凄えな。四人家族で弟醫學生だろ?親父さん本當にただのサラリーマンなのかよ」
「お兄ちゃんが稼いでるから、奨學金がわりに出世払いで學費出してる」
「ああ、なるほど」
「お姉ちゃんは酪農家だから、忙しくて殆ど帰ってこないんだ。こっちが押し掛けるじ。弟は真面目に勉強してるみたい。正月くらいは顔合わせるよ」
「うちなんか、もう辭めたけど姉貴はちょいちょい會社にも顔出すし、義兄さんも職場にいるからなあ」
マサは四人兄弟かと改めて想像が及ばない様子を見せる。
「そういえば姪っ子ちゃんなんだね」
「そうなんだよ。姉貴の我が強いんだろ」
「それ伝子に関係あるの?」
道香は聲を出して笑う。
そんな他無い話をしているうちに道香のマンションにタクシーが停まる。
マサが會計を済ませてしまうので、道香はまた無駄遣いだよと注意しながらタクシーを降りると、當然のようにその後からマサもタクシーを降りて一緒に部屋まで上がる。
し話をして、明日は役所に行くことを確認し合うと、マサは名殘惜しそうに道香にキスをして鍵はしっかり閉めろと言い置いて帰って行った。
鍵を二重に閉めて、道香はトランクケースから著替えとハンドタオルを取り出すと、今朝まで來ていたTシャツとジャージを持って風呂場に向かう。
サッとシャワーを浴びて頭やをしっかり洗うと、ついでにその場で歯も磨く。気疲れしたのか人知れず大きなあくびが出た。
いよいよ明日は引っ越し當日。風呂場から出てハンドタオルで用にを拭くと、髪の滴を絞り落として髪をまとめる。
クローゼットから最後の段ボールを取り出すと、ボディソープやシャンプーなどをロックして、ビニールで包んでから段ボールへれる。
隙間があるところには、同様にビニール袋にれたバスマットでかさましして隙間を埋めた。
箱詰めを終えると、ドライヤーで髪を乾かしてスマホを確認すると1時半。
道香はロフトに上がるとスマホを充電しながらアラームをセットすると、電気を消してすぐに眠りに就いた。
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