ソファーに座って大畫面のテレビを見ると、道香は大きなあくびをしてクッションを抱える。雨宿りのあの時みたいだなと、道香はふと思い出してうとうとする。

「マサさん」

ボソリと呟いてクッションと一緒に膝を抱える。

「……なんだよ」

「うわあ！びっくりした！おどかさないでよ。いつ帰ってきたの？」

「今。俺ただいまって聲掛けたけど」

寢ぼけてたのかとマサは道香の頭をくしゃりとでる。

「靴は？全部持ってきた？」

「おう。意外と持ってることに驚いた」

「今からしまう？」

「そうだけど」

「じゃあ橫で見てる」

ソファーから立ち上がって、私は片付け終わったからと道香はマサの片付けの手伝いを申し出る。

「見るだけかよ」

「噓ウソ手伝うって」

二人で玄関に向かうと、マサの靴を段ボールから取り出して、道香の靴同様、普段使いのは玄関に出して、ブーツやスニーカーを棚に陳列するように並べていく。

「なんかブーツ多いね」

「ああ。バイク乗るからハマってた時期があったんだよ」

「スニーカーのイメージないね」

「だからないだろ？」

「革靴は手前の方にれといた方が良い？毎日同じ靴ってわけにもいかないだろうし。それとも玄関に何パターンか出しとく？」

「あー。確かにそうだな」

マサは道香の手元を見てこれとこれはよく履くかなと玄関に下ろす。

「あとはしまってて良いよ」

「凄いね。靴磨くやつも持ってるんだ！」

「安履き潰すんじゃなくて高い一級品を一足の方が良いんだよ」

「なるほど」

靴の整理を終えると、道香はリビングに戻ってメモをマサに見せる。

「今日既に不便にじただよ」

「乾燥機あるのに干し竿いるか？」

「花や梅雨の季節は別だけど、に當てて干したいから」

「あと贅沢言えば、殺風景だから観葉植がしいかな」

「じゃあ遅い晝飯がてら買いに行くか」

「うん！デートだデート！」

「それくらいではしゃぐなよ」

そうは言いながらもマサはにこやかだ。道香は取り急ぎの洋服から、白のリブニットにワインレッドのベロアのスカートを合わせ、ベージュのライダースジャケットを羽織る。

化粧をするために寢室に移すると、マサはボタンダウンシャツの上から黒のニットを著て、ダメージデザインのタイトなブラックジーンズを履いていた。

「髪のびてきてんな」

「ああ、刈ってあるところ？」

「そう。目立つか？」

「大丈夫だと思うけど、揃えに行く？」

「ならお前も行くか？カラーとかれたらどうだ」

「頻繁に通うの面倒だからカラーは良いや。でも、髪切ろうかな」

「いいんじゃないか」

「ならちょっと切ろうかな」

「じゃあ決まりだな。サロン行ってから買いだ」

「ご飯もね」

會話しながら化粧を終えると、長らく手れを怠っていた髪のを手櫛で整えて、ずいぶんびたなと苦笑いして立ち上がる。

「マサさんは気になる無いの？」

「俺、基本お前がいればなんでもいいから」

「あーごちそうさまですー」

「他人事かよ」

「だって真面目に答えないから」

道香はマサのお腹をパンチすると、スマホを充電から外して、今日の格好に合わせたカバンにれる。他には財布と必要最低限のメイク道、タオルハンカチやティッシュ、サニタリーの予備を念のためれておく。

マサはスマホと財布をポケットに突っ込むと、家の鍵一応持っとけよとカードキーを手元で振った。

別のカバンにれっぱなしだったので、無くさないように財布のカードホルダーに鍵をれる。

「よし。行くか」

「はーい」

玄関で並んでブーツを履くと、一緒に家を出る。

エレベーターで駐車場まで降りて車に乗り込むと、マサはリモコンでシャッターを開けて車を出した。

「サロンて、予約しなくても大丈夫なの？」

「ああ、知り合いがやってるとこだから、急に行っても平気」

「へー。友関係広いねえ」

「道香だってんな職種の友だちいるだろ？それと変わらねえよ」

「まあ、確かに。保育士とか看護師とかいるっちゃ居るわ」

「そういうこった」

車を走らせて5分。マサは慣れた手付きでコインパーキングに車を停めると、道香の手を取ってサロンがっているビルに向かう。

繁華街の裏通りにある、一階はセレクトショップがった三階建ての小さなビルだ。

「あ！盛長さん、オーナー呼びますね」

店にるなり男スタッフがマサに聲をかけると、奧にいたらしいすらりとした中的な男が顔を出した。

「高政、お立場があるんだから髪のくらいちゃんと……あら、このお嬢ちゃんどなた」

「道香。ほぼ俺の嫁」

「いやん！高政のお嫁ちゃんなの？僕は弦一郎。ゲンちゃんって呼んでね」

「石立道香です。よろしくお願いしますゲンちゃんさん」

「ゲンちゃんさんっておかしいから！」

ケラケラと笑うと、マサと弦一郎はカットについてやり取りしている。マサが振り返って道香もカット頼めるかと確認すると、弦一郎はスタッフの一人を呼びつけて道香につくように指示を出す。

そこからはマサと別々にスタイリングにる。ジャケットを預けてシートに座ると、切りたいイメージを伝えて、ヘアカタログと照らし合わせながらイメージを固めていく。

シャンプーとトリートメントで髪を濡らしてからカットにる。

當たり障りのない會話をしていると、彼の服がビザリーのだと気付いたので好きなのか聞くと、価格の割にデザインや持ちが良いと用しているらしかった。

道香は腰の近くまでびていた髪を、バッサリとミディアムのウルフカットにした。

前髪は作らずに橫に流す。あまりゴテゴテしないようにワックスでの仕上げは斷り、スタイリング方法だけを確認すると、仕上げはアイロンとコテで癖づけしてもらうに留めた。

「あらお嫁ちゃん、隨分短く切ったのね」

「さっぱりしました！」

「印象が変わったな」

「うん。セットの仕方とかアレンジも教えてもらったから自分でも出來そう」

マサと弦一郎を互に見て、道香は擔當してくれたスタッフに頭を下げる。

「お會計は高政からいただいてるから、よければ今度からはうちにメンテナンスに遊びに來てね」

「はい！ぜひ」

道香は満面の笑みを浮かべて弦一郎に挨拶すると、マサの手を取り店を出た。

「こんなに近いなら今度はカラーも試そうかな」

「良いんじゃないか？」

「マサさんはもしかして髪も切った？というか梳いたのかな」

「分かるか？弦一郎が黒は重たいからってだいぶ切られたかな」

「うん。さっぱりしたね」

車に乗り込むと、郊外のショッピングモールを目指した。