《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》45.結婚式
そして3月。
「もう、本當バタバタし過ぎ」
道香は元が強調されるオフショルダーのマーメイドラインのウエディングドレスを纏い、控え室で頭を抱えていた。
「本當よねえ。めぐみちゃんが嫁いだと思ったら、まさかアンタまでこんな早くお式になるなんて思わないわよね」
慶子はお茶をれて一人でほうと呑気な溜め息を吐く。
「同居始めた時からいずれはと思ってたけど、まさかお父さんがマサのお父様と舊知のなかとは知らなかったよ」
「そうよね。駄菓子屋の息子が、あの有名な紳士服の老舗の坊ちゃんと知り合いだなんてお母さんも初耳だったわよ。だけど良いご家族じゃないの、偉ぶってないし、橙子さんなんていつもお料理の話で盛り上がるもん」
「いつも?そんなに連絡とってるの」
「そうなのよ!お稽古ごととか社界のイメージがあるでしょう?でも普通の奧様で先週は自宅で取れたお野菜とハーブをくださってね、だからそれで作れる料理について盛り上がっちゃって。鶏が合うか豚の方がいいかって。庶民派で驚くわよ」
「もう、あんまりそのマシンガントークで困らせないでよ?」
「大丈夫よ。お話し好きな人だから毎回會話が弾むのよ」
橙子を思い浮かべて、彼なら確かに慶子と會話のラリーを続けられるかも知れないと思った。
「それよりお父さんどうしたのかしらね」
「またお義父様と話し込んでるんじゃないの?今日はお婆ちゃんも來てるし」
「あら、そうね。お義母さんも見てないわ」
「それよりお姉ちゃんだよ!お義兄さんも家族みんなでよく來てくれたよね」
「史子はね。雅史くん甲斐があるから従業員に任せて來たって。こんな時くらいしか來れないから家族旅行気分で良いじゃないの」
「それを言うならお兄ちゃんも隆太も忙しいじゃない」
「誠也はその気になればいつでも帰ってこられるのよ。でも冠婚葬祭なら経費で落ちるって、まあケチ臭い!それにあの子、昔からアンタを貓っ可がりしてたから、最初はアンタが結婚って聞いて早すぎる怒ってたけど、高政くんに會うなりコロっと態度変えちゃうんだもの、けないわ。ああ、隆太?あの子は単なるただの春休みで暇なだけよ」
さすが慶子、一を言えば十も返ってくる。
「でも家族が揃うなんて嬉しいよ」
「當たり前でしょう。そんな薄に育ててないわよ」
慶子はそう言って立ち上がると、本當にお嫁に行くのねと、道香の頬に手を添えた。
「本當にきれいよ。お姫様みたいね道香」
「ありがとうお母さん」
史子の時も慶子はこんなふうに涙を浮かべたのだろうか。それとも涙脆くなったのだろうか。遠巻きにだが事件のことを知っているからだろうか。理由はどれなのか分からないが母の手は暖かくて涙が溢れた。
「ああ、いやね。新婦がお式の前から泣いててどうするの」
慶子は化粧が取れないように用に涙を拭いてくれる。
「そろそろ時間だから先に行くわね」
「うん。また後でね」
挙式を上げる教會に向けて慶子は先に席を外す。
半年ほどで生活がガラリと変わった。仕事もプロジェクトの功で、々な企畫を任されるようになった。
私生活では都合がつく時だけだが、マサの婚約者として食事會やパーティーに參加する機會も増えた。今後は伴として同席するのだろう。
「いよいよ結婚か」
あの日會わなければ、或いは雨が降らなければ……ふとマサとの出會いを振り返って不思議な縁もあるだと道香は思う。
正直事件のことは思い出したくないが、それがあったからこそマサとの関係は強固になった。謝などしないが、二人で乗り越えて今がある。
「マサの奧さんか」
道香は高政をマサと呼ぶようになった。別に理由は無いが、寄り添ってそばに居てくれるのは、初めて會った日のマサのまま変わらないし、彼は道香に対等で偉ぶらない。そのにあだ名を呼び捨てにするようになった。
「ご新婦様、そろそろご準備をお願いいたします」
ノックと共にドアが開くと、パンツスーツのがイヤホンに手を添えながらニコリと微笑む。
「はい」
道香は立ち上がるとブーケを持ち、スタッフに案され、マサが待つチャペルへ向かう。
り口に控えていた廉太郎は慶子と同じように道香を見てお姫様みたいだねと呟いた。
廉太郎と腕を組み、開いた扉の向こうで待つマサの方へ、ゆっくりと一歩ずつ足を進める。
マサの元には道香のブーケと同じダリアのブートニアが飾られている。
廉太郎の腕が解かれ、道香はマサの手を取る。
病める時も健やかなる時も永遠に……
おしまい。
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