「………………これが転生か……？」

そう、溺れて意識を失った啓が意識を取り戻すと、全く姿形が違う自分に変わっていた。

想像するに、このの年が溺れて命を落としかけたことで、前世の啓の記憶が現れたのかもしれない。

この年の記憶と啓の記憶が混ざり、どっちが本當の自分なのか分からなくなるが、どうやら転生したことは理解した。

「赤ん坊からじゃないじの転生か…………」

これには心助かった。

高校生の記憶があるせいか、一応母親とは言えおっぱいを吸うのは気が引けるとこだった。

漫畫やラノベを結構読んでいた啓は、転生の作品も持っていた。

そのおかげでなのか、思っていた以上にすんなりとこの狀況が理解できた。

「…………いや、そんなことも出來なかったか…………」

思春期による恥ずかしい考えが浮かんでいたが、頭のなかで年の記憶が映像のように流れたことで急激に気持ちが冷めた。

「………………最悪だ」

この年の記憶は、啓が呟いた通り最悪だった。

まず、この年の母親だが、生まれてすぐに亡くなっていた。

そのことを、父親から聞かされている映像が頭に流れてくる。

赤ん坊からの転生でも、おっぱいを吸うことなどできなかったのである。

そして、次から次に流れる映像は、目を瞑りたくなるばかりだった。

まず、このの年はアンヘル。

年齢は５歳。

元々・・は金髪碧眼で、將來はイケメンになることが予想される整った可らしい顔をしている。

どうして元々・・なのかというと、啓の記憶が混ざった今のアンヘルは、白髪で碧眼の狀態だからだ。

心ついた頃からの記憶だと、父と母方の叔父の３人でいつも行していた。

しかし、１年前父が目の前で殺された。

そして、今から數日前、叔父もアンヘルを守って命を落とした。

何故そうなったかといえば、アンヘルたちがエルフだからだ。

この世界は、ファンタジー世界のように、人族・獣人族・魔人族と々な種族が存在している。

その中にエルフ族も存在していて、老若男にかかわらず容姿がしいエルフは、他の種族からかなりの迫害をけてきた。

封建社會が基本となっているこの世界の人族にとっては、貴族への獻上品としてとても価値が高い・として扱われており、見つけしだい捕獲するのが當たり前になっている。

捕まったエルフは、貴族へ送られ、奴隷として好き勝手に扱われる。

エルフの男もも、その容姿から異、場合によっては同に的なとして扱われることが多い。

他には、労働力としてだったり、中には単純にストレス発散のサンドバッグ代わりとして扱われることもあった。

そんなことが続き、元々森でひっそりと暮らしていた數民族のエルフは、５０年もしないにどんどんと數が減り、恐らく現在の生き殘りはアンヘルただ１人になってしまった。

父と叔父が殺されたのは、人族の追っ手からアンヘルを守ろうとしたためで、目の前で父と叔父が殺されたのを何もできず、ただ言われた通り逃げるしかできなかったかことが、アンヘルにはとてつもない神的苦痛だった。

その上、必死に小船で海上に逃げ、人族の追っ手を巻いたアンヘルに待ち構えたのが大時化だった。

自分がどこへ向かっているかも分からず、ただ必死に船にしがみついていたがそれもどれだけの時間だっただろうか。

船が高波に飲まれ、同時にアンヘルも海の中に飲みこまれていった。

そして、目が覚めたらここの海岸に流れ著いていた。

前世で聞いたことがあるからか、啓はアンヘルが神的苦痛と的苦痛によって、髪のが抜けてしまったのだろうと結論付けた。

「……………………あれっ？」

その記憶がよみがえり、アンヘルだか啓だか分かっていない狀態の年は自然と涙が溢れ出ていた。

「……前世の格の方が強いか？」

しの間涙を流した後、年はしの間考えた。

今の自分が啓なのか、アンヘルなのかということを……。

アンヘルの記憶やその時々のは、思い起こそうとすれば殘っている。

だが、それ以上に前世の啓としての覚の方が強くじる。

もしかしたら、自分がアンヘル年のを奪ってしまったのではないかと罪悪がし湧いてくる。

しかし、だからこそこの命を大切にしなければならないのではないかと思いもある。

「俺は松田啓でもあり、アンヘルだ。合わせてケイ・アンヘルってことで良いだろ……」

このなのだから、前世の名前だけを使うのは何となく気が引ける。

なので、アンヘルの名前を殘す意味でも、前世の名前をくっつけたこの名前で生きて行くことに決めた。

「寒い……、腹減った……」

ケイの記憶ではついさっきまで夏だった。

だが、流れ著いたこの島の気候は完全に冬。

現在、ケイは上半は半袖のシャツの上に薄手の長袖シャツ、その上に厚手の長袖シャツを著て、上著を著ている。

下半は下著に半ズボン、その上にズボンをはいた狀態。

厚著をしているが海の水で全ずぶぬれになっている。

から察するに１０℃前後の気溫、ケイの小さいは自然と小刻みに揺れ始めた。

しかも、飲んだ海水を吐き出し、胃の中が空っぽになったからだろうか、腹の蟲が鳴りやまない。

「焚火……、火は……、魔法！？」

流れ著いた海岸近くを探し、焚火に使えそうな流木を拾い集めた。

ところが、木を集めた所で火のつけ方に悩んだ。

ここは異世界。

ライターやマッチなどないのだから、細い木を回転させて火種を作る原始的な方法が思い浮かぶ。

しかし、そんなことをしていたらいつ火が付くかも分からない。

完全に風邪をひく。

そんな時、頭にアンヘルの知識が浮かんできた。

この世界には魔法がある。

そして、アンヘルは簡単な魔法ならば使えた。

「え～と…………火！！」

“ポッ！”

「おおっ！？」

の中の魔力をじ、それを巡らせるように意識し、指先に集めた魔力を火に変える。

ライターをイメージしたら上手くいった。

初めての魔法に、ケイは思わずの聲をあげてしまった。

「はぁ～……、あったかい……」

々火力が強めだが、上著とズボンをいだ狀態では仕方がないだろう。

「……魔とか人間とか寄って來ないよな？」

今のケイにはどちらが來ても逃げ切れるか分からない。

海岸の周囲は景が広がっていて、生が現れればすぐに察知できる。

し東に走れば巖場になっているので、見つかったらそっちへ行って隠れるしかないだろう。

「……持ち、……指？」

を溫めることはできてきたが、空腹は収まらない。

これまでの人族からの逃亡で碌なものを食べていないだろう、ただでさえガリガリに痩せたでは栄養不足で頭が回らない。

いま現在手ぶらのケイが悩んでいたら、またもアンヘルの記憶が浮かんできた。

ケイの左手小指には指がハメられていて、どうやらこの指に持ちが収納されているようだ。

「おぉ……、魔法の指か？」

どうやらこの指は、１辺が４ｍの立方の大きさの空間分ほどを収納できる魔道らしい。

その中に鍋やテントなど逃亡生活に必要なものがっているようだ。

「……じゃがいも？　……だけ？」

指の中の食料を探してみるが、じゃがいも以外の食料はっていないようだ。

「……しょうがないか」

どうやら、エルフでは食料すら手にれるチャンスがなかったようだ。

それが想像できたケイは、あきらめるしかなかった。

鍋も指の中にあることだし、じゃがいもを茹でて食べることにした。

「…………うぅ……うまい」

調味料もなかったので海水で煮ただけのじゃがいもだったが、空っぽの腹にはとてつもなく味くじた。

ただでさえ逃亡生活では満足に食事をする機會がなかった。

そのうえに、この數日海の上で何も食べられなかったからか、アンヘルのも混じって、ケイはただのじゃがいもを涙を流しながら食べたのだった。