《不用なし方》第14話
亜の記憶から自分の家族に関する記憶が消えていることを知らされた優希は自分がどうやってマンションに帰ってきたのか覚えていない。
あの事故の際、亜を背後から突き飛ばした元友達は、その場にいた目撃者の男に取り押さえられ、警察に突き出された。
その報は優希の友人たちにの速度で広まったらしく、攜帯電話のメッセージ通知と不在著信がものすごい勢いで増えていく。
それらが鬱陶しくて電源を落とし、ソファにを沈め、空の変化をただ眺めて……どれくらいの時間が経過したのか分からない。いつの間にか窓の向こう側は闇のカーテンに覆われていた。
亜の記憶から自分の家族だけが消去されたという現実は、そう簡単にけれられるものではなかった。
この部屋で毎日食事を作り、選択や掃除をして……。
視線を寢室へと向ける。
あの部屋で數えきれないほどを重ねた。
この二年間は決して夢などではない。それなのに……亜は覚えていないのだ、なにも。
「くそっ……!」
どこにぶつけていいのか分からない怒りを拳に込めてソファに叩き付ける。
「亜さん、兄ちゃんのこと忘れちゃったんだって?」
一人しかいないはずの部屋にの籠らない聲が響いて、優希は大きな溜め息を吐いた。
「俺だけじゃねぇよ、お前も、おふくろのことも覚えてねぇ」
他の記憶はあるのに、どうして自分たち家族のことだけを忘れてしまったのか?
疑問と怒りが込み上げてくる。
「忘れたいくらい苦痛だったんじゃないの? この二年間が」
遠慮のない言葉に優希の苛立ちが増していく。なんとなくそうではないかと考えていたことを言われてしまって返す言葉も見つからない。
「母ちゃんたちは知らないみたいだけど、俺は知ってるよ。兄ちゃんが亜さんになにをしてたのか」
弾かれるように振り返って弟ののぞむを睨む。冷靜だがの眼には非難のが含まれていた。
「俺が合鍵持ってるのを忘れてた?」
は指先に引っ掛けた鍵を見せるように回す。それは、二人がを重ねている場面を見たことを語っている。
「俺、兄ちゃんは亜さんを好きなんだと思ってた。でも、亜さんの気持ちは分からない。大學で見かける亜さんは笑顔なのに、兄ちゃんの前では絶対に笑わないんだ。なのに、この部屋で兄ちゃんと……」
「うるせぇ……!」
傍にあったリモコンを摑んでに投げつけた。彼は軽々とそれを避けて睨むような視線を兄へと向ける。
「母ちゃんから伝言。もう、亜さんの見舞いにはいくなって」
「は?!」
「記憶が戻るまであまり刺激したくないから遠慮してほしいって向こうの親さんに言われたみたいだよ」
亜の母親が優希の両親に頼んだのだという。
見舞いにいって會っていればそのうち思い出すかもしれないのに……その可能を切り捨てたのだ。
優希のことを思い出すということは、高校生の頃のあの事故のことも思い出してしまうだろう。おそらく、彼の母親はその記憶を取り戻してほしくないのだ。だから、亜から自分を遠ざけるのだろう。
理解はできる。しかし、納得はできない。
「俺もいかない方がいいと思う。取り敢えず伝えたからね。攜帯の電源くらいれといた方がいいよ。母ちゃんが心配してる」
「するかよ」
「してるよ。じゃあ、俺帰るから」
はそう言ってリビングを出ていった。足音が遠退いていく。
「くっそぉっ……!」
優希は両拳をテーブルに叩き付けた。しかし、手よりもの痛みの方が遙かに辛くて……大きなを丸め、しばらくの間聲を殺して泣いていた。
今までの自分の酷い行いを後悔しながら。
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