《不用なし方》第15話
亜は短期間で退院することができた。
左腕と肋骨の骨折と記憶の欠落があるので通院は続くけれど、日常生活を送るには問題がないということで自宅療養が認められたのである。
しかし、退院したからといってすぐに大學に復帰できるという狀況ではなく、自分の部屋でノートを捲って自宅學習をしながら過ごしていた。
病室で目を覚ましたときよりは隨分と思い出せていると思う。しかし、分からないことはまだまだあった。
特に気になっているのは……バッグの中から出てきた薬の存在だ。亜には通院して薬を処方してもらった記憶がない。さすがに母親には訊きづらくてモヤモヤしたものを抱えたまま過ごしていた。
「亜、岸さんがお見舞いにきてくれたわよ」
部屋の扉がノックされて母親の聲が聞こえる。
「花ちゃん?」
開いた扉の向こうに、久しぶりの友人の姿が見えて顔を綻ばせた。
「もう起きてて大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」
ローテーブルの前に座布団を置いて花を促す。母親はすぐに開花へと引き返していった。
「隨分、記憶の方もハッキリしてきたみたいだね」
「うん。でも……まだ分からないことがいっぱいで……」
「無理はしちゃダメだよ」
「うん」
花は亜と同じ講義をけている人たちからノートのコピーをもらってきていた。それをテーブルに並べながら話し始める。
「あ、そうだ。佳山くんもあとから來るよ」
「佳山くん? ……あぁ、花ちゃんと一緒に病室に來てくれた人だよね?」
「そうそう。亜と一緒にけてる講義があるからって」
目を覚ましたばかりのとき、亜は花を苗字で呼んだ。それは高校學直後の知り合ったばかりの頃の呼び方だった。
佳山に至ってはなんとなく會ったことがあるような気がする程度で、流を持っていたという記憶はない。
頻繁に病室を訪れる二人と話しているうちに大學での生活風景をぼんやりと思い出してきたけれど、それでも濃い霧が掛かったような狀態は続いている。
話し込んでいるとインターホンが鳴って、やがて佳山が案されてきた。
「早かったね。もっと遅いかと思ったよ」
「今日はカフェが空いてたんだ」
どうやら佳山は手土産を持ってきてくれたらしい。
その証拠に母がトレイにケーキと紅茶を乗せて持ってきた。
「ここのケーキを食べにいこうって話してたのを思い出してね」
「え?」
カフェにいく話をしていた? いつもの自分ならば"いく"と即答していたはずだ。……なのに、話だけで終わったのだから、なんらかの理由で斷ったのだろう。その理由は?
「そういえばそうだったね。ま……」
「無理に思い出そうとしないで!」
考え込む亜を、母の大きな聲が現実に引き戻す。友人二人も驚いたように亜の母を見上げている。普段は穏やかな彼が聲を荒らげるのはとても珍しい。
「あ……ごめんなさい、大きな聲なんか出して……。あの、岸さんちょっといいかしら?」
母が花を廊下に連れ出して話している。なにを話しているのか気にはなるけれど尋ねる勇気はない。
事故以降、亜の母親は妙に神経質になっている。
朝はいつだってニュースを観ながら食事をしていたのに、事故以降はテレビが點いているのを見たことがない。
「そういえば、栗林さん。攜帯は? 岸さんが電話しても通じないって言ってたよ?」
佳山の問いに、亜は困ったように微笑んだ。
「壊れちゃたみたい。今度母が新しい攜帯を用意してくれるって。きっとデータも消えちゃったんだろうなぁ……攜帯がないと不便だよね」
ティーカップを両手で持ち上げて溜め息を吐く。
「おばさま、亜の攜帯壊れちゃったんですか? どうりで通じないはずだわ……」
部屋に戻ってきた花が母のいる後方に視線を向けた。
「そ……そうなの。だから、通學再開までには新しい攜帯を買ってあげましょうねってお父さんと話しているところなの」
「攜帯って若者の必須アイテムですから、早く買ってあげてくださいね? でないと、私も不便で」
「そ……そうね。じゃあ、近々……」
亜は母の視線が彷徨っているのを見て、漠然とだけれど"違う"とじた。
きっと攜帯は壊れていない。……いや、事故で畫面くらいは割れているかもしれないけれど、データは無事なのだろう。そして、母は攜帯からなんらかのよくない報を得てしまったのだとじた。 それで隠し持っているのだ。何故かそう確信した。
しかし、心配を掛けている以上それを責めることはできない。母がなんの意味もなくそのようなことをするとも思えなかった。
「あ……このケーキ味しい!」
今の亜にできることは、いつも不安そうにしている母にこれ以上の心配を掛けないことだ。
二人の會話を終わらせるようにケーキを口に運んで、やや大袈裟に喜んで見せた。
「栗林さんはショートケーキが好きだって岸さんに聞いたんだ」
「私のチーズケーキ好きも覚えててくれてありがとー」
テーブルに戻ってきた花が笑顔でフォークを握る。
一瞬母と花が眼で會話をしたような気がしたけれど、その場の空気を悪くしないように亜は気付かないフリをした。
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