《不用なし方》第29話
記憶を失う前の自分は……一なにをしていたのだろう?
陸上のお手伝いをしていたのかもしれないと考えたけれど、陸上部の人たちに知り合いはいないし、親しげに聲を掛けてくる人もいない。そのことから、大學の陸上部との関わりはないと考えていいだろう。
記憶を失う前の自分はなにをしていたのか、まったく分からない。他の誰でもない、自分のことなのに……。
じゃあ……高校の頃は? 中學校の頃は? 小學校の頃は?
思い出そうとしても頭の中が深い霧に覆われてしまって、酸欠になったかのように頭がクラクラしてくる。
しっかり覚えていると思っていた高校以前の記憶も、実はかなり曖昧であると最近になって気が付いた。非常勤醫師の大沼のおかげだ。
いつものように醫務室を訪ねてとりとめのない話をしているときのたった一言で、思い出せないことがあるということに気付いたのである。
友人だった人の顔と名前が思い出せないのだ。
それまでは"誰に言われたの?"と訊かれることもなかったので疑問に思わなかったけれど……誰が言ったのか、本當に言われたのか、テレビで見聞きしただけなのか、ただの妄想なのか……一つ疑いだすと信用できると思っていたことが途端に信用できなくなって、不安と恐怖に襲われた。
確かなことがないと自分自のことすら信用できなくなるーー。
以前大沼が言っていた言葉だ。その言葉の意味ををもって知ることになった。
大沼、花、佳山は噓を吐かないと信じられる。けれど……母のことは信用できない。最も近しい人を信用できないというのは正直辛い。なにも話せないし、なにも相談できないからだ。そうなると醫務室に足を運ぶ回數が増えていくのは當然のことかもしれない。
最近は疑問を書き込む"疑問ノート"を持參している。話の途中でも疑問を持ったらその場で書き連ねていくのだ。
醫務室で話す容は決まっていない。他ない話をするだけの日もあれば、不安や焦りを吐き出す日もある。
明らかなのは、醫務室を訪れた後はいつも心が軽くなっているということだ。だからつい大沼が醫務室にいる日にやってきてしまう。
しかし、今日は大沼が不在の日。モヤモヤしている気持ちを聞いてもらうことはできなかった。
 帰宅し、ベッドに腰を下ろすと、枕元に置かれているストールに手をばす。屋外での転寢から覚めたとき手元にあった謎の代だ。
首に巻いて匂いを嗅ぐと、不思議と懐かしいじがした。
本來であれば落としとして屆け出なければいけないのだけれど……できなかった。どうしてもこのストールを手放せなかった。 
何故懐かしいとじるのか……それと同時に悲しくなるのはどうしてなのか……今はまだ分からない。
「思い出したい……」
 そう思うと同時に無にをかしたくなった。
そのためには先ず、バッグの中から疑問ノートを取り出して鍵付きの引き出しに片付ける。母に見られないためだ。
きちんと施錠したことを確認してからスポーツウェアにきがえて、階段を下りていく。
「お母さん、ちょっと走ってくる」
亜は母に聲を掛けながら玄関へと向かう。すると、パタパタとスリッパの音を立てながら慌てて母がやってきた。
「急に、どうしたの……?」
「ただ、なんとなくをかしたくなっただけだけど……ダメ?」
母の顔が強張っているのが分かる。心配させまいと微笑んでみたけれど、効果はなさそうだ。それどころか、なにか探るような……疑っているような眼をしている。走ることを歓迎していないのは明らかだ。
「一人で走るの?」
「うん、あ……お母さんも一緒に走る?」
「お母さんは無理よ」
予想通りに母が斷ってきた。母は運が苦手だ。それを分かった上で訊いたのだ。
こういうことはきちんと覚えているに……。
「もう暗くなるし、危ないから早めに帰ってきなさいよ?」
「うん、分かった」
亜は母の言葉に短く答えて家を出た。
門を出てから軽くストレッチをして、ゆっくりと走り出す。
 なにも考えずに、足の向くままに進む。見えてくる景は普段となにも違わない。
亜の住んでいる家は住宅街にあるけれど、すぐ傍には大通りがあって、広めの歩道は街燈や店の看板で明るく走りやすいため、早朝や夜はジョギングをしている人が多い。
亜が無心で足をかしていると、いつのまにか自宅からそう遠くない総合公園に辿り著いていた。野球場とサッカー場とテニスコートがある広い公園だ。公園を囲むようにジョギングのコースがあって、外燈やナイター設備のおかげで夜遅くまで明るいため、が多く走っている。
亜は流れに従うようにコースに合流し、四周ほど走ったところでしだけペースを落とした。そして、スローペースで一周走ってからようやく足を止める。
 さすがにが渇いた。周囲を見渡し、自販売機を探す。
「久しぶりなのに、隨分飛ばしてるね」
謎の聲と共に目の前にスポーツドリンクが現れ、亜は驚いて顔を上げた。
……誰?
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