《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第5話 王家の旗

翌日――。

フリオ王は騎士たちをいくつかの班に分け、周囲の村々へ向かわせた。

村の暮らしぶりや舊領主だったバスカヴィル家、また新領主の仕事ぶりについて調査、確認するらしい。とはいえ、主な目的は私の辺調査だと思う。

王自も調査班に同行していった。

山頂の城には、私と數人の兵士だけが殘された。

ミラーはというと、王の調査隊よりずっと早い時間に城を出ていった。

「お嬢様がくと怪しまれます。私にすべてお任せを」

そう言い殘して。

ミラーは魔法のことを知る者に、口止めをしに行ったみたいだ。

に関する道や書も彼いわく、すべて魔法で隠してしまったらしい。ちょっとその魔法が見たかった。

出かけていく王たちを見送った私は、城の周囲をぐるっと歩いていた。

知っていたはずの場所を歩けばなくした記憶を取り戻せるかと思ったけど、殘念ながら、そう上手くはいかないみたいだ。

足下は、隙間から雑草の生えた古い石畳。

石畳が途切れた向こうはもう雑木林が迫っていた。

人が住まなくなった城は、こんなにも早く自然に浸食されてしまうのか。

靜けさの中、響く蟲の音がもの悲しかった。

そんな時、靜けさを破り、城の表側から怒聲が聞こえてくる。

兵士たちの聲だった。

いったい何があったのか。

耳を澄ましても、距離があるせいで何を言っているのかまではわからない。

私は騒ぎがしてそちらへ駆けだした。

すると城の門前で、誰かが兵士たちに縄をかけられている。

賊でも捕まえたのか? でも、こんな廃城に今さら盜みにる人がいるなんて……。

そう思った次の瞬間、私は見えてきた景に、我が目を疑った。

捕まえられているのは子どもだった。七、八歳くらいの男の子だ。

とても痩せていて汚れた服を著ている……。近くの村の子どもに違いなかった。

「何があったんですか!?」

私が慌てて駆け寄ると、兵士のひとりが眉間にしわを寄せて言った。

「この者は、王家の旗に石を投げたのです!」

城の門前に掲げられた旗に、土が付いている。

男の子は顔を背けたままだった。石を投げたのは本當なのかもしれない。

そして彼は頬の辺りが腫れている。取り押さえられる時、兵士に毆られたんだろうと思った。

私は反的に男の子をかばう。

「ただの子どものイタズラでしょう? 許してあげてください!」

兵士はすげなく首を橫に振った。

「いえ。いくら子どもでも、これは王家への反逆です。我々の一存で釈放するわけには」

「まさか、陛下が戻られるまで、その子を捕まえておくつもりですか?」

「そうするしかありません」

「そんな!」

王が帰ってくるのは夕方だ。それまで何時間も拘束しておくことになる。

いくらなんでも、子どもに対してそんなことが許されるのか?

きっと心細いだろうし、恐怖心を植え付けてしまう。

親だって當然心配するだろう。

領民たちの王家への心証も、今以上に悪くなってしまうはずだ。

――領民たちはあの王を恨んでいます。そしてこの僕も。

昨夜のミラーの言葉を思い出した。

しかし、兵たちにためらいのは見えなかった。

それどころか、彼らはさっさと仕事を片付けようとしている。

「おい、地下に牢があったな? あそこへれておこう!」

「そんな! 待ってください!」

私の言葉を無視して、兵士たちは男の子を引っ張っていく。

悔しい。今の私になんの権力もないということはわかっているけれど……。

地下へ続く階段の手前で、男の子が振り返った。

(――あっ!)

すがるような瞳に私は息を呑む。

(助けなきゃ! 助けられるのは私だけだ!)

が騒ぐ。

勝手に子どもを逃がせば、後で私が罰をけることになるかもしれない。

けどむしろ、その方がいい。私が罰されることで事態が片付くなら……。

私は兵士たちの目を盜み、地下牢へ向かった。

冷たい石畳を踏み、薄暗い地下を進む。

取りの小窓からわずかに以外、明かりはなかった。

この様子だと、日が暮れたとたんに地下は真っ暗になってしまうだろう。そんなところに子どもをひとりで置いておけない。

幸い、地下牢のり口で見張っている兵士はいないようだった。

鉄格子の大きな扉をまたぎ、奧へ進む。するとすぐ脇の狹い牢に、人の気配があった。

「ねえ、そこにいるの?」

格子越しに聲をかけると、床に座り込んでいたらしい男の子がく。

「大丈夫? 助けに來たよ」

兵士たちに気づかれないよう、なるべく小さな聲で話す。

「……でも、カギがかかってる……」

震える聲で子どもが教えた。

見通しの悪い中手探りで探すと、鉄格子の扉に小さな南京錠がかかっている。

何度かかしたり、引っ張ってみたりしたがダメだった。

「うーーーん」

南京錠はさび付いていて今にも壊れそうなくせに、なかなか壊れてくれない。

「ねえ、なんで王家の旗に石を投げたりしたの?」

南京錠に力を加えながら私が聞くと、男の子はこう答える。

「雪解けの國の王は領主様から土地を奪った悪い王様だって、村のみんなが言ってる」

「……そうなんだ……」

石を投げたのはただのイタズラだろうと思ったのに……。こんな小さな子が憎しみに駆られてそんなことをするなんて。

きっとつらい生活のせいだろう。そう考えるとが痛んだ。

「あの人が悪い王様かどうか、私にはまだわからない。でも、石を投げても王様はやっつけられないよ……。みんなの暮らしがよくなるよう、私も頑張ってみるから……。お願い、もう危ないことはしないで」

男の子は悩むようなそぶりを見せたあと、小さくうなずいてくれた。

「ありがとう……」

私はこの子の期待に応えられるだろうか。

ともかくこの場を乗り切りたい。

魔法でならカギを開けられるかもしれない。私は服の中から小枝を取り出した。

小枝の先を南京錠のカギに向け、それが開くところをイメージする。

上手くいくといいけれど……。

小枝に集中している私を見て、男の子がたずねる。

「もしかして魔法?」

「うん、ね」

男の子を安心させようと、明るく答えた。

ミラーには怒られるかもしれないけれど、今はそれより目の前の男の子だ。

いっぱい意識を集中し、“錠よ開け”と強く念じて小枝を振った。

するとカチリとひとりでに、南京錠がく。魔法は功したらしい。

「やったっ。今のうちに逃げよう……!」

鉄格子の扉を開けて男の子を促す。

その時、意図しない方向から聲が聞こえ、背筋が凍った。

「ウソだろ、魔法だって……!?」

(まずい!)

奧から兵士がひとり駆け寄ってくる。

失敗した! まさか奧にいるとは思わなかった。

私はとっさに男の子の手を引いて駆けだす。

幸いというかなんというか、逃げ道はふさがれていない。私たちは地上へ続く階段を駆け上った。

地上へ出ると闇に慣れ始めていた目に晝間の太が突き刺さる。

これからどうすべきなのか。

今は逃げるしかない。あの兵士につかまれば、男の子はまた牢へ逆戻りだ。

「おい、小僧が逃げたぞ!」

兵士が仲間を呼ぶ。

「こっち!」

いつの間にか男の子が前になって、私の手を引いていた。

茂みに飛び込み、い草の葉が何度も頬をかすめる。

それでも必死に足をかし、振り返ると城はもう見えなくなっていた。

兵士が追いすがってくる気配もなかった。

わざわざ追う価値もないと見て、追いかけるのをやめたのか。

だったら初めから逃がしてくれればよかったのに……。

もう走りすぎて息が苦しい。

「ねえ、ここまでくれば――」

前を走る男の子に話しかけ、彼が私を振り返った瞬間――。

彼の姿が目の前から消え、視界が反転する。

同時に腕が引っ張られ、ズズズと足がって持っていかれた。

何が起きたのか。

背中を強い衝撃が襲う。

そして気がつくと私たちは、深いの中に落ちていた――。

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