《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第8話 毒薬
「薬師のミラーが魔法使い?」
「いったいどういうことだ?」
私の左右にヤリを持って立っている、兵士たちが顔を見合わせる。
ミラーはぐっと苦いものでも飲み込むような顔をしていた。
それから小さく吐き捨てる。
「ハッ。バカバカしい。今度はどんな言いがかりですか」
「証人がいるそうだ」
異端審問が教えた。
「りたまえ」
協會側の兵士に続いて會議室にってきたのは、青白い顔をした小太りの男だった。
「薬師のベンヘルツだ……」
私のそばに立つ兵士がつぶやく。
(……薬師?)
嫌な予がする。
  そのベンヘルツを見たとたん、ミラーの顔から余裕のが消えた。
「名前は?」
「ベンヘルツです」
審問の問いに小太りの男が答える。
「出りの薬師だ。いつも世話になっている」
そう付け加えたのはフリオ王だった。
だから城の兵士たちも彼の名前と顔を知っていたんだ。
でも、どうして王室用達の薬師がここへ呼ばれてきたのか……。嫌な予がふくらんだ。
審問が水を向ける。
「ではベンヘルツ君の証言を聞こう。彼……、確かミラー君だったな。彼が魔法使いだという告発の拠は?」
「聞いてください、審問さま! 私は……、私はこの者に殺されかけました!」
ベンヘルツの太い指が、震えながらミラーを指さした。
「あれは二週間ほど前のことです。この男に突然、黒い毒薬を振りかけられ――」
“毒薬”という言葉に周囲がザワザワと反応する。
「それで気がついたらぐるみはがされていたんです!」
続く言葉にざわめきが大きくなった。
「つまりミラーは盜人か! どうして盜人が王宮にいるんだ!!」
この宮殿を守る兵士たちがいきり立つ。
「おいっ、誰があやつの素を調べた……!?」
「門を開けたのはどいつだ!?」
會議室にいた數名の兵士たちが言い合った。
「彼はベンヘルツ氏の代理として來たのです! その証拠として薬師ギルドのバッジを持っていました」
門を開けたらしい若い兵士が弁解した。
ベンヘルツがそれをけて発言する。
「薬師ギルドのバッジ! そうです、それも私から奪ったものです!」
「そういうことか」
審問が渋い顔をして軽く首を橫に振った。
「つまりこういうことだな? ミラー君はベンヘルツ君を襲い、彼にり代わって王宮に上がった。しかもその手口は殘。意識を失うほどの猛毒を使うとは。近年まれに見る悪辣な犯行ではないか!」
「ええ、そうなんです! 私はあれから何日も寢込んで! ようやく今日、教會と王宮に訴えました。本當に死ぬところだったんです!!」
ベンヘルツは振り手振りをつけて主張する。
ミラーが忌々しげに舌打ちした。
「チッ、死ねばよかったのに……。あんたのデカい図には、薬が足りなかったみたいだな」
「それは殺意アリと取っていいのか?」
審問がうなるような聲で言った。
「くっ、すっかり騙されていた……」
兵士のダグラスが悔しげにひざを叩く。彼はベンヘルツに証人席を譲り、後ろに立って話を聞いていた。
「このような者をそばに置くレディ・ソシエは、やはり魔に違いないでしょう! 私は正しい!」
それまでミラーに向けられていた視線が、一斉に私の方へ向けられる。
「レディ・ソシエ。私はこう考えます」
審問が立ち上がり、私の方へを向けた。
「あなたは魔法で王を幻し、王宮にり込んだ。ミラー君はもっと荒っぽい方法で。毒は魔法使いどものやり口です。おふたりの主従がどちらかわかりませんが、無関係とは思えません。どうです、弁明できますか?」
審問の鋭い視線が突き刺さった。
「……っ、私は……」
私はとっさにフリオ王を見る。
彼も自席から私を見ていた。私を疑っているのか、それともすでに失しているのか……。
彼の空の瞳からは何も読み取れない。
「私は……」
私は首を橫に振った。
「私は魔かもしれません」
周囲が恐れおののくように息を呑む。
ミラーが目を見開き、何か言おうとしたのがわかった。
けれども私は続ける。
「でも、そのことにどんな罪があるのか……。私にはわかりません」
「魔は異端です。王とは結婚できない」
審問が冷たく告げた。
「どうして?」
そう問いかけたのは私ではなく、フリオ王だった。
「彼が私に何をするというんだ」
その聲は悲しい響きを帯びている。
審問が答えた。
「レディ・ソシエには記憶がないと聞いていますが、魔ならただのではないのですぞ? 國を奪われるかもしれません、陛下のお命も危ない」
王が立ち上がり、私の方へまっすぐに歩いてきた。
「陛下、危険です!」
左右の兵士が、私のの前でヤリを十字に構える。
「レディ……」
フリオ王が私を見つめた。
そして大きな作で審問を振り返る。
「彼が魔だというのなら、私にかかった幻の魔法を解いてくれないか!?」
(え……?)
私はフリオ王の広い背中を見つめた。
「魔法を……?」
審問がうなる。
「そうだ、教會ならそれができるだろう!?」
「はっ……。左様ですね、神の力に不可能はないでしょう」
審問は、し戸ったような様子で答えた。
「だったらすぐにしてくれ! 私のにあるの炎が消えなければ、彼は魔ではないということになる」
「しかし陛下……」
同じテーブルにいた王の側近も、戸いの聲を上げる。
「やらない理由があるか?」
「……いえ……」
「だったら今すぐ! 命令だ!」
王が両腕を広げて訴えた――。
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