《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第17話 失蹤
昔絵本で読んだ、白雪姫のお話はこうだ。
ある國の王様とお妃様のところに、可い姫が産まれた。その名は白雪姫。
しかしお妃様は亡くなってしまい、魔が王様の後妻に。
魔は貌を誇っていたけれど、長した白雪姫は魔を超えるしさだった。
そこで嫉妬した魔が白雪姫を殺すよう、兵士に命じる。
白雪姫に同した兵士は彼を殺さず、森へ逃がした。
森に置き去りにされた白雪姫は、森のこびとたちと暮らすようになる。
けれども魔が再び白雪姫を殺そうとして、毒りんごを食べさせ……。
最後、王子様のキスで目覚めた白雪姫は、その王子様と結ばれる――。
*
目の前の現実が、語のあらすじを追うように進行している。
「ソシエお嬢様、早く……早く行きましょう!」
ミラーが鬼気迫った表で私の腕を引く。
私はスノーホワイトを森に置き去りにしてしまった。
「あっ、妃殿下、ミラーどの! スノーホワイトさまは……」
森の中、スノーホワイトの従者たちが、私たちふたりを見つけて駆け寄ってきた。
彼らは私たちを探していたらしい。
「それが、木イチゴを摘んでいるうちにはぐれてしまい……」
ミラーが答えた。
「えっ、どちらでですか!?」
「この先です」
従者たちの問いに、ミラーが來た道とは別の方向を指さす。
「探しましょう!」
「では手分けして、僕は向こうの方向を探してみます」
「では我々はあちらを!」
手分けして探すことになった。
けれど見當違いな場所を探しても、見つかりっこない。
私はミラーのそばを離れ、スノーホワイトが倒れていた付近へ戻った。
あえてそこへ戻ったというより、勝手に足が向いていた。
ところが……。
「ねえ、スノーホワイト、どこにいるの……!?」
彼の姿はその場所から忽然と消えていた。
気がついてどこかへ移したのか?
私は心臓が普段より早いリズムで脈打つのをじながら、周囲をくまなく探す。
あれからそんなに経っていないのに、スノーホワイトの姿はどこにも見當たらなかった。
馬車を停めた小道へ戻ったのかとも思ったけれど、彼はそこにもいなかった。
まるで神隠しに遭ったみたいだった。
本當に、彼はどこへ消えてしまったのか……。
そばを離れてしまったことを、後悔してもしきれない。スノーホワイトのの安全が心配だ。
――ボクが仕込んだカリソンの毒で、メイドが死んだのは可哀想だったね。
あの口ぶりだと毒りのカリソンを瓶にれたのは、やっぱりスノーホワイトだ。
でも彼はわざとルネを殺したわけじゃないし、私に対しても、明確な殺意を持っていたわけじゃないと思う。
――魔なら魅力的なのは當たり前だ! そんなあなたに、振り回されるこっちのにもなってよね!?
あの時の泣きそうな顔……。
スノーホワイトは私に対し、おそらく好意を持っていた。
殺意は憎しみからのものではなく、きっと好意の裏返しだ。
スノーホワイトを見つけだし、話をしたい。
きちんと向き合いたい。
彼が見つかった時、魔である私は窮地に立たされてしまうのかもしれないけれど……。
*
王子の失蹤は、すぐ王宮に知れ渡った。
「スノーホワイト様が森でいなくなってしまったんですって」
「また家出じゃないのか?」
メイドや衛兵たちが、宮殿のあちこちでウワサする。
「多な時期だからな。陛下が後妻をめとったのが気にらなかったんだろう」
「しかもいなくなった時、王妃様と一緒だったみたいですよ」
私にも、疑いの目が向けられていた。
スノーホワイト付きの従者たちは、引き続き森を探索しているらしい。
早く見つかってくれればいいけれど……。
スノーホワイトは従者に付きまとわられるのを嫌がっていたから、近くにいても出てきてくれないのかもしれないと思った。
*
ミラーがいないタイミングを見計らい、私は王妃の間に付屬するメイド部屋に足を向けた。
「王妃様!? どうされました? こんなところへいらっしゃるなんて。ご用があるなら呼んでくださればうかがいますのに」
繕いをしていたメイド長が慌てて立ち上がる。
今は彼以外、この部屋には誰もいないみたいだ。
「お願いがあるんです」
私は彼の前へ進んだ。
「私、もう一度スノーホワイトを探しに行こうと思っていて」
「王家の森へですか?」
メイド長は眼鏡を押し上げ、怪訝そうに私を見つめた。
「王妃様自らお探しに?」
「ええ、そのつもりよ」
彼の反応を見るに、これは異例なことなんだろう。
王妃が人捜しで宮殿を空けるなんて、確かにあまり考えられない。普通は下々の者に頼むと思う。
でも、スノーホワイトのことは私の責任だ。
あの時ミラーはスノーホワイトが城へ戻らなければいいと考え、私たちはわざと彼を置き去りにした。
そしてミラーのもくろみ通り、スノーホワイトは城へ戻ってこなかった。
とにもかくにも王子の無事を確かめたい。
「お願い。このことはここだけの話にして、ミラーにも言わないで」
私はメイド長に向かって手を合わせる。
萬一、ミラーが森でスノーホワイトと鉢合わせしてしまったら厄介だ。今度こそを見ることになる。
だから彼を連れていくことはできない。
「ミラーさんを置いて? まさかお一人で行かれるつもりなんですか……!?」
「ううん、心配しないで。王子付きの従者の方々が今森を探しているみたいだから、彼らに同行するつもり。ただミラーには知られたくないの。誰かに何か聞かれたら、私は用事ができてバスカヴィルの領地に戻ったと言っておいて」
王子付きの従者に同行するというのは、メイド長を安心させるためのウソだった。
彼は渋々といった表でうなずいた。
「でも何かあれば、陛下には申し上げます」
「わかったわ」
視察で遠方にいるフリオ王の耳にも、スノーホワイトの失蹤の知らせが屆いている頃だろう。
彼もを痛めていると思うと、余計に居たたまれなかった。
メイド長は「お忍びで行かれるなら」と、目立たない服を貸してくれる。
おかげで通用口を通っても私が王妃だということに、誰も気づかなかった。
*
正直、この世界のことをよく知らない私が、一人歩きをするなんて無謀に思える。
でもいつまでも、宮殿でぬくぬくしてはいられない。
私が迷い込んだ世界の語は否応なく、そして著実に前へ進んでいる。
その先にあるエンディングは、どんなものになるのか。
私は自分の足で歩き、自分が正しいと思える道を見つけないと。
その決意をに、私は以前馬車で進んだ道を、一歩ずつ歩いていった。
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