《白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?》第33話 エピローグ
あれから二日後――。
魔法の鏡の殘骸は、宮殿の広い敷地の外れにある、日當たりのいい丘に埋められた。
「どうしてここに?」
私が聞くとスノーホワイトが教える。
「ここはねー、ボクのオモチャのお墓なの。小さい頃飼ってたちょうちょをここに埋めて、それから壊れたからくり人形とか。錆びたオモチャの指とか……。バイバイするものをここに埋めてる」
よく見ると緑の絨毯のそこここに、手作りの十字架が立てられていた。
「そっか……。魔法の鏡はスノーホワイトにとって、やっぱり思い出深いものだったんだね」
私は鏡――ミロワール――と書かれた十字架に手を合わせる。
バラバラにしてしまったことを後悔はしないけど、形だけでも殘せなかったことは殘念だ。
「ううん、あの鏡が部屋からなくなってスッキリしたよ。今度はもっと可いデザインのを置くつもり! ハートとか、りんごの形とか♪」
スノーホワイトは吹っ切れたような笑顔をしていた。
それから私たちは敷を敷き、丘の上でのお菓子タイムにする。
「でもほんと、レディが鏡のを突き止めてくれてよかった」
あの鏡はヴィオレット家に古くから伝わり、何人ものたちに用されてきたものだった。
それに魔法の力が宿った。
たちのへの憧れと執念が、鏡に力を與えたのかもしれない。
力を得た鏡はアルテイアに貌を與え、アルテイアは王に見初められた。
それが彼の希だったのか、周囲が畫策したものなのかはわからない。
ともかく鏡は彼の輿れとともに、王宮へ持ち込まれた。
アルテイアは王妃の座とその権力を手にれ、彼の鏡もその力に酔いしれた。
しかしアルテイアは亡くなった。
そして魔法の鏡が次に目をつけたのが、貌の年・スノーホワイトだった――。
この世界では力だ。使いようによっては権力と結びつく。
ううん、私が元いた世界でだって、キレイな人はもてはやされた。
でもそれは萬能の力じゃない。
下手をするとの魔力に魅られ、自らの価値を見失う。
絵本の中の白雪姫の継母が、にこだわるばかりに、白雪姫に手をかけてしまったみたいに……。
あの魔は、きれいで聡明な王妃さまにだってなれたはずだ。
何も一番にこだわらなければ。
かわいさにこだわるスノーホワイトは、この先どう生きるのか。
「実はね、レディ」
スノーホワイトがお菓子の包みを開けながら話し始めた。
「前に魔法の鏡に言われたんだ。レディ・ソシエを殺したら、ボクは永遠の若さと貌を手にれられるって」
「ええっ?」
「ふふっ。びっくりでしょ。ボクは信じなかったけど」
「信じなかったの?」
魔法の鏡の言うことが本當だったのか、ウソだったのか。私にはまるで判斷がつかない。
ただあの時、あの鏡の力と対峙して、鏡が尋常でない魔力を持っていることは実した。それを考えると、もしかしたらもしかするかも?
スノーホワイトはお菓子の包みから顔を上げ、かわいく小首をかしげてみせる。
「信じるも信じないも。ボクは永遠なんて求めてないよ。レディがいてボクがいて、パパや他にもたくさんの人がいて。面白いことや面白くないことがあって。いろいろ経験してボクも変わっていく。それが人生なんだろうなって最近思うんだ」
「そっか……」
十五歳の王子は私が思っているより大人だった。
「あ、このガレットすごく味しいよ! 甘じょっぱいのがクセになるから!」
スノーホワイトはばらのほっぺにお菓子を含む。
こうやって甘いものばっかり食べて、全く太らないんだからうらやましい。
そこが男の子とアラサーとの大きな差だ。
味しそうに食べる彼の頬のあたりに、健康が輝いていた。
「見た目なんかより、健康が一番だよね」
まあるくてツヤツヤなお菓子と王子を見比べて、私は思いを口にする。
「んん? レディはどっちも持ってるじゃん!」
スノーホワイトがガレットのを口元につけたまま言った。
「全然そんなことないよー」
  私は苦笑いで答える。
でも、考えてみるとスノーホワイトの言うとおりかもしれなかった。
日々の不安はあっても今のところ食住には困らず、大きな病気もない。そんな私は満たされている。
この國の人たちが、みんなそれぞれに満たされますように……。
太の降り注ぐ丘で私はそんな思いを巡らせた。
*
ある夜、私はふとフリオ王に聞いてみた。
「私がホントはバスカヴィル家のソシエじゃなく、他の世界から來た人間だったらどうします?」
私の隣に仰向けに橫たわっていた彼は、ゆっくりとをこちらに向けた。
銀のメダイユが厚い板をる。
「どうだろう……。驚きはしないな。私の魔が、どこか別の世界から來たとしても」
指の背で、彼は私の頬をなでた。
「これから君が、ここにいてくれればそれでいい」
「聞かないんですか? 私がどこから來て、どうしてここにいるのかって」
「私が森で拾ってきたからだろう? 君がどこから來たかなんてことは問わない。どこで産まれても、君が誰よりしいことには変わりないからな」
銀の瞳が優しく笑っていた。
「前から思ってたんですが、私の顔はそうしくありません」
「こら、私の妻の悪口を言うな!」
王は小さく吹き出した。
「私が運命をじたんだ、それ以上の何が要る?」
確かに、他に何も要らない。
私は鏡を見て安心したいとは思わない。
今ある幸せをけ止めよう。
彼は汗ばむからだで私を包み込んだ。
腕の中から見上げると、を優しいキスでふさがれる。
「君のほうこそどうなんだ? 異世界の王にされて」
「それは、嬉しいです……。ずっと絵本みたいな、王子さまとのに憧れてたから……」
「……ほう?」
王の瞳が一瞬、大きく見開かれた。
「その言いようは、君が私にしているということにならないか?」
「……っ……」
居たたまれずに、私はそっと視線を外す。
「そうですね……。夫がまぶしすぎて、なかなか目が合わせられないくらいには……」
今さらで気恥ずかしいけれど、私はフリオ王の前では乙だった。
そもそも顔が好みだったから仕方ない。
そして今ではもっと、彼の中に惹かれてしまっている。
「レディ、こっちを見てくれ」
そう言いつつ、王は自ら私の視線の先に回ってきた。
「君は私が好きなのか」
「す、好きです……。言わせないでくださいよ」
「私も君が大好きだ」
目まいのするような悅びの中、甘く視線が絡まった。
彼のが弧を描き、それから私たちはしっとりとキスをわす。
の鼓がトクトクと、恥ずかしいくらいに鳴っていた。
折り重なるから、彼のの鼓も伝わってくる。
私たち、どうしてこんなにドキドキしているんだろう?
もう夜も遅い時間なのに。
「……ソシエ……」
耳たぶに熱い吐息がれて……。
熱いとでれ合った。
私たちのハッピーエンドは続いている――。
―fin―
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