※ブリス視點

「監視殿が居れば安心ですね。僕は晩飯の魚を屆けに帰ります。晝前には食堂へ行きますから」

「お、おう」

バルナバは仕れた魚を將に渡すと一旦、屋敷へ戻って行く。

お前はまるで使用人だな。まあ、味しそうな魚だったから早くベルティーユに渡してくれ。ふふ、今晩の飯が楽しみだ。

一方でアニエスとコリンヌは汚れたカラダを洗うべく、大衆浴場へって行く。

大衆浴場だって？　こんな労働者階級が行く大風呂へるのか？　コリンヌはともかくアニエスは上級貴族だろ？……い、いや、今はただの罪人か。

にしてもだ。

彼の行は庶民そのもの。単なる好奇心なのか？　王都で出來なかったことを満喫したいのか……？

流石に風呂まで監視出來ない。折角だから通りすがりの庶民に聲をかけよう。朝、爺さんと話した質問を何人かにぶつけてみた。だが……。

「領主様は立派な方です。良くしてくれます」

誰に聞いても同じことを言う。殿下はよっぽど島民を大切にしてるんだと心してしまう。監獄や港、街の警備も萬全を機してる。小さな島とは言え、彼はシャイだが間違いなく立派な名君領主だ。報告すればケヴィン様は益々警戒されるだろうな。

やがて、アニエスはメイドの様な出で立ちで浴場から現れた。コリンヌとお揃いでピンクのエプロンが眩しい。

おいおい、何とも派手だな。ふん、まあ二人ともそこそこ人だから似合うけどな。何か腹が立つ。

それから大衆食堂を覗くと皆んな従業員の様に働いていた。全く意味が分からない。彼らは將の指示で黙々と仕込みを行い、バルナバに至っては店の清掃に勤んでいる。

お前、もはや役人ではないな……。

しチャラ男に同した。私だけカウンターに座ってワインをちびちび飲んでいるのが申し訳ない気になる。だが、開店と同時に庶民が多くって來たので罪悪は無くなった。

おい、俺にも飯をくれ……と言おうとした瞬間、コトッと、熱々のお魚スープが目の前に置かれた。

「いつものやつですよね？」

アニエスが満面の笑みで給仕してきた。そのしさにドキッとしたが何とか平靜を裝う。

「おう、これで良い。ふふん」

一口スープを飲む。

うめぇ。これだ、これこれ。堪らん。

にしてもだ。

店のあちこちから「アニエスちゃん、アニエスちゃん」と、やかましい聲が聞こえてくる。バルナバも居るのに彼ばかりが呼ばれていた。

全く、庶民に大人気だな。まあ、あの貌はそうそう居ない。メイドの様な格好だが滲み出るオーラはやはり貴族だ。

誰にでも想良く振る舞う彼を見てると「本當に罪人なのか？」と疑念が浮かぶ。

俺の中で段々悪・役・令・嬢・と言うイメージが薄れていってるのは間違いない。