※バルナバ視點

コン、コン、コン、コン！

「おい、先にこっちだろ！　お前らさっさと釘持ってこい！」

慣れた手つきで柱に釘を打ち付ける薄殿を見上げながら、僕は不満に思っていた。

何でこいつが仕切ってるんだ？

「あの、監視殿。アニエス様の監視はいいのでしょうか？」

「あん？　お前が言い出したんだろ。不在の間に羊舎を建てて、びっくりさせようって」

「いや、だから、それは、こうして城から番匠を呼んでですね……」

この作業を行ってるのは僕らだけじゃない。というか、僕が攜わる予定ではなかった。

確かにそう言ったさ。ニワトリに続いて羊を飼いたいってアニエス様が仰るから漁港へ行ってる間に建てときたいと。だから殿下の許可を得て、昨日のうちに番匠へ頼んでおいたんだ。それはあくまでも建築屋のプロが建てるのであって、僕はいつもの如く彼について行こうと思っていた。

それを薄殿がしゃしゃりでて「お前も手伝え」って言うから……現在に至ってる。

「どうせいつもの行パターンだろ？　後で食堂で合流すればいい」

「いや、でも職務として」

「大丈夫だ。彼は逃げない。それに萬が一、襲われても負けはしないだろう」

そ、そりゃあそうだよ。アニエス様は走なんかしないし武も嗜んでるから問題ない。それくらい分かってるよ。

僕の心境は最早「監視」ではなく「付人」なんだ。この島で一生過ごすことになった令嬢に寄り添い、手助けをしたいって思ってる……。

しかしコイツ、今更何をそんなに張り切ってるのか。心境の変化でもあるなら確認したい。

「ところで監視殿はペチェア島が気にりましたか？」

し意地悪な質問をしてみた。

「はあ？　ここは魚が味い以外、なーんもない退屈な島だ。だから大工して気を紛らわせてるんだよ」

そ、そうですか……って聞くんじゃなかった。

「僕はてっきり子供に懐かれて、島が好きになったのかと！」

「ふん！　子供は苦手だ！」

いやいや、子供に抱きつかれて満更でもない様子だったでしょう？

「そんな話より羊の手配はしてるのか？」

くそお。話を逸らされた。

「ええ、ジャコブを三頭ほど」

「ほう。古代種のを引く希種じゃないか。発したな」

「用として、殿下がお選びになりました」

「殿下がねえー」

「如何しましたか？」

「いやあ、隨分と罪人に甘いんだなと思ってね」

「特別待遇だからでしょう。それにアニエス様だけじゃないです。島民には大抵甘いです。殿下は！」

コン、コン、コン、コン！

薄殿は無言で釘を打つ。

おい、何とか言えよ？

「バルナバ、お前の主人は立派な方だ。第一王子だったら良かったのにな……」

コン、コン、コン、コン！

「え？　今、何て？」

「だーかーらー、釘を持ってこいって言ったんだ」

偉そうに。コイツはやっぱり好きになれないな。

でも、何だかんだと言いながらも晝前には羊舎が出來上がったのだ。悔しけど薄殿のおかげだと、ほんのしだけココロの中で彼を褒めてやった。