式を終え、皆を見送って全てを終えてマンションへ帰ってきたのは、日付が変わろうというくらいに遅かった。

著ていたものや持ち帰ったものを整理し終えてようやく一息ついた。足の裏がジンジンするし、著なれないものを一日著ていてのあちこちが凝っていた。シャワーを浴びて、寢室に持ち込んだシャンパンで乾杯をする。

「お疲れさまでした」

カチン、と小さくグラスを鳴らして、微発砲のをに流し込む。よく冷えたそれが胃に落ちるのがわかる。それを一気に飲み干して棚原が菜胡を抱き上げた。

「ようやく夫婦水らずだな」

橫抱きにされた菜胡は首に腕を回して、耳元に顔を寄せてきた。

「紫苑さん」

「ん、なに」

棚原の耳に口付ける。

「んっ……どうした」

くすぐったさにじろいだ。

「今日からよろしくお願いします、旦那さま」

「こちらこそ、奧さま」

ベッドへそっと下ろされる。部屋の燈りを消して、窓からの明かりだけの、薄暗い室。甘やかな幸せに満ちた、とても丁寧な口付けがわされる。響くリップ音。が離れる合間にれる熱い吐息に混じって、言葉が紡がれた。

「菜胡の全て、俺がもらうから……」

それは初めて棚原とを重ねた時に言われたセリフと同じだった。

もうはしたくないと思っていた。人がしいとは思うものの的にいたりもしないまま、診察室をする不審者に出會った。いきなりされたキスは気持ちがよくて、その人の匂いが印象に殘り忘られなくなった。好きになんてなるつもりなかったし、その人の妻になる未來なんて想像もできなかった。だが今はもう棚原と出會わなかった未來など考えられなくなっていた。

心のトゲも溶かした棚原の大きなに包まれて、彼を求め、彼に求められて、こうして腕の中にいる事に謝の気持ちしかなかった。

昴にいつか言ったように、この先何十年かけてでも、目の前のこの人と信頼しあって生きていく。菜胡はがいっぱいで、目を軽く濡らした。

「私にも、紫苑さんの全てをください」

覆いかぶさって、自を見下ろすしい人の首に抱きつく。

最悪の出會いからはじまった関係は、最の相手へとなった。

これから先も、夜明けを何度でもきみと――。

fin