《婚約破棄されたら高嶺の皇子様に囲い込まれています!?》19.男の子ってこういうお店が好きなんでしょ?(わたくしだって好き!)
セドリック=オクタヴィアン=ソブールを直接見てわかったことだが、彼にはほぼ魔力がない。
……ということは、迷子探索の時は、おそらく別人の気配を追っていたということになるのだろう。
クリスタは濃厚な魔力の気配を漂わせていた。あっちへフラフラこっちへフラフラしていた殘り香が目に見えるほどのだ。だから馬車の止まった所までたどれたのは、たぶん正解だったと思う。
問題はその後だ。
妹がこれだけガンガンに気配を殘すのであれば、當然そのお兄様とやらも優秀な魔法使いであろう、とわたくしは推測した。殿下やロジェの青バージョンであろうと當たりをつけ、疑いもしなかったのだ。
そして馬車の止まり場から、それっぽい青のの殘滓を追っていき……。
あああ! 恥ずかしい! この辺のくっそどや顔な自分が恥ずかしい! 途中まではちゃんとうまくいっていただけに、余計に!
運良く、わたくしが追った人の歩いた先が、セドリックの行き先と合致したからよかったものの……セドリック本人は魔力の気配が微弱な人だから、當然痕跡などほとんど殘らない。全然見當違いの方向に、クリスタを連れて行ってしまっていた可能もあったわけで。
しかしそうか、こういうパターンもあるのね……見える・・・からこそ、見えなくなるものもある、というか。
頭痛も合わせて今日は反省の多い日になりそうだ。
(まあでも、逆に考えましょう? これはわたくしが目を積極的に使おうとするようになったからこそ得られた報なわけですし、結果的にはクリスタとセドリックの最短再會に貢獻したわけですし……)
ふふふ、と白目を剝きながら歩いていると、ロジェがツンツン腕をつついてくる。
「おい……大丈夫かよ」
「え、何がですか?」
「いや、一応俺、あんたと皇子サマの引率係だし……引き返すって言うなら従うぜ?」
セドリックのことに思いを馳せていたので気がつかなかったが、いつの間にか隨分人のない區畫に足を踏みれていたようだ。
道も狹く、なんとなくじめじめして暗くて……まあ、自分だけで街を歩いていたら避けるような雰囲気だ。
しかしセドリックは迷いなく歩いて行くし、クリスタも相変わらず機嫌よさそうにしている。
何より殿下をちらっと見れば……はい、そんな予がしていました。思いっきり目が輝いていますね!
「ロジェ、もしかして今、帰る相談とかしている? とんでもない! こういう所、普段は絶対に來られないんだから!」
「おいおい……知らねーからな」
ロジェはあきれたように言いましたが、自分一人で帰ろうとしない所は本當に面倒見いいですよね。
わたくしも自分だけ帰りますなんて、空気の読めないことは言い出しません。
あと殿下の隣って、ある意味この世で最も安全な所の気がするし。
さて、セドリックは迷路のようにり組んだ細道を慣れた足取りで進んでいき、やがて一つの扉の前で足を止める。
妹を肩から下ろして手を繋ぎ、三回扉をノックした。
するとしして、何やらのぞき窓のようなものが開き、誰かがじとっと見つめてくる。
「マイヤーは昨日なんて言った?」
「クソ貓は滅びればいい」
ぼそぼそと謎の問いかけがされるが、セドリックは淡々と返す。
わたくしたちは目をぱちくりとさせてから、一斉に顔を合わせる。
「なあ今の暗號か? の合い言葉なのか!?」
「ぼく、はじめて見た!!」
「わ、わたくしも……わたくしもとてもドキドキしています……」
なるべくヒソヒソ聲で盛り上がっていたのだが、じろっとドアの向こうの視線がこっちに飛んでくる。
「セディ坊、今日はやけに騒がしいじゃないか。あんたとはいい付き合いだったはずなんだがね、なんぞ業務妨害の理由でもできたってのかい?」
「逆だ。むしろ客を紹介しに來た。妹をれたくないなら、私はここで待つが、後ろの団の一人は皇國人だ」
「……隣國からの上客ね。目つきの鋭いお嬢さんかい?」
「いや。その隣の金髪碧眼の方だ」
な、なんか……味されている気配をじる……!
わたくしたちがごくっとつばを飲み込んでいると、のぞき窓が閉じた。これは顔パス失敗か!? と焦ったのも一瞬、鍵を開ける音がして扉が側に開く。
「ちびをれるなら、勝手をさせんことが條件だよ。商品を無駄にしたら弁償ではきかないからね」
「謝する。クリスタ、兄が良いと言うもの以外はれては駄目だ。約束できるか?」
「うん! クリスタ、いいこ」
「そこの三人も、こちらの指示通りの行をするように」
どうやら無事、の場所にれてもらえることになったらしい。
それにしても今の聲のかけられ方、わたくしたちの扱いが五歳児と並列だった気がしたのは気のせいですか。気のせいということにしておきましょう。
開かれた扉から側にると、下にギリギリすれ違えるかというぐらいの階段が続いている。薄暗い上に結構エグめの段差加減で、足下要注意だ。
階段を下りきってもう一つの扉を開くと、ちりんちりんと鈴が鳴る。
顔を上げたら、ふおお……と自然に聲がれた。
期待を裏切らない、雑多で怪しげながら魅的なものたちが並べられている空間が広がっている。
所狹しとが置かれていて、歩ける場所が下りてきた階段と同じぐらいの広さしかない。
天井は案外と高く、しかも照明も結構明るい。
上を見れば、天井からもよくわからない布などが垂れ下がっていた。
わたくしが知っている魔道店は、大簡素なカウンターでカタログを広げて注文をすると、店員が引っ込んでいって持ってきてくれる――あるいは後日家に屆けてくれる、という形態のことが多かった。
こんな風に、現をずらずら並べている場所を見るのははじめてだ。
學園に來て二年も経つが、まさか徒歩行圏にこのようなお店があったなんて。
「……きらきら。すごい」
きょろきょろ見回す五歳児が、たぶん我々の総意を述べた。有言実行で、興味深そうにあっちこっち見ているがちゃんと手は自分の服を握ったままである。
「ふん、そうかね。その辺じゃ落ち著かないだろ、もっと奧まで來な」
まんざらでもなさそうに返したのはご老だ。この店の店主と見える。
目深にフードを被っていて、なんかこう……今にも「ヒッヒッヒ」とか笑い出しそうなじだ。お年を召していらっしゃるとは思うが、別はいまいち判別がつかない。パイプをくわえて杖をつく姿が、なんとも様になっている。
ちなみに當然のように、店主殿には煙もも見えない。でもこの場で目を懲らそうとすると、途端に四方八方がうるさくなって目が開けていられなくなりそうだから、あまりちゃんとは判別できなさそうだ。
それとこれも今日、というかさっき知ったことなのだけど、わたくしの目、多であれば見る魔力の量? を調整? できるらしい。ぼんやり眺めている分には普通の景が見えているけど、集中して一點に焦點を合わせるとや煙がもやーっとし出す、的な……なんというか、そんなじなのだ。
しかし地下空間なのに案外広いというか、し広すぎない? って気もしてきた。もしかして空間拡張とかしているのかな。あれ、便利だけど失敗すると拡張させた空間が一気に元に戻って……要するに圧死のリスクが常につきまとう、結構怖い魔法なんですけどね。
さて、怪しげな店主にぞろぞろくっついていく我々の前には、また階段が現れた。更に下りだ。なんとまさかの地下二階。迷路みたいですっごくわくわくする。
地下二階は地下一階よりも小さめ空間な気がするが、上とは趣が異なる。
椅子と機が並んでいて、お話しをする用の部屋という雰囲気だ。
わたくし達がなんとなく各々適當に腰掛けると、店主がふーっと煙を吐き出してから一言。
「んで? 隣の國からわざわざ來て、一何をお探しなんですかね、お坊ちゃん」
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