《婚約破棄されたら高嶺の皇子様に囲い込まれています!?》20.翡翠の目と言えば、×××××――
怪しげなフードのご老相手にも、殿下の皇子スマイルはまったく薄れなかった。
「ぼくじゃなくて、彼に必要になるかもしれないものを探しているんだ」
「……ほう?」
うひー、舐めるような視線が飛んできた気配。思わずをすくめるのと同時に、
(もしかして、わたくしがただ人になんとなく目を向けているだけの時も、相手をこんな気分にさせているのかな。だったら嫌われて當然だな……)
とか、ちょっと現実逃避気味に考えたりもする。
「シャンナ。目のこと、ここにいる皆に教えてもいい?」
「……へ? あ、はい、どうぞ」
殿下に小聲で話しかけられ、返事をする。
まあ、知らなかっただけで別に隠しているようなものでもないし……?
殿下はすうっと息を吸った。
「彼は霊眼の持ち主なんだ」
「――ハッ! 何を言い出すかと思えば。まあ確かに、印象的なの目をしているお嬢さんだが。翡翠――そうさね、そのは稀代の・・・――」
「そう、翡翠は・・・霊眼の・・・・特徴と・・・合致する・・・・。鮮やかな緑の目になるって話だからね。自覚したのはつい最近だけど、基本的な魔力の流れならちゃんと見えてるよ。……そうだな。シャンナ、あのパイプ、どう見える?」
「…………え。あ、ああ。ええと、はい。パイプですね?」
わたくしは直していたが、話しかけられて気を取り直した。バクバクする心臓を押さえて笑みを取り繕い、深く息を吸う。
――そうだ。これだ。これこそ、普通でいいから新しい眼鏡を買わねばと急いだ最大の理由だったのに。わたくしが目のことについて指摘されるとすれば、大は目つき由來だった。のことはここ數年れられず、殿下はずっと霊眼を話題にしていたから……すっかり油斷していた。
(冷靜になるのよ、シャンナ。揺を悟られては怪しまれる。パイプ……そう、店主がくわえているパイプを見るの)
ただの大人の趣味的裝備と思っていましたが、殿下がそうおっしゃるってことは、何かあるのかしら? 注目してみると……あら、ほんとだ。なんかただのパイプと違うみたい。さっきの場所だと周りがうるさくてわからなかったけど、この部屋なら見れそうだ。
「あれも魔道、なんですかね。なんだろう、吸うものにが……いや違いますね。これ……まさか時空魔法? 圧……んー、そもそも本がパイプじゃないというか、もっと大きくて……」
「圧、拡張……てことは護用の武、とか?」
「なるほどね」
わたくしがぶつぶつ呟くと、ロジェが首を傾げて引き取る。
ご老は沈黙していたが、セドリックが驚いた顔になっていた。
「どうしてそれを……あのパイプが魔道であることも、本當は武であることも、初見で見破るなんて」
「これ、セディ坊。勝手に種明かしをするんじゃないよ」
あ、良かった。今日一回盛大なやらかし済みだったもの、ここでも外してたらわたくしもう実家に帰るしかなかったかもしれない。合ってて本當に良かった。
口に出した推測がひとまず的外れでなかったらしいことにほっとしていると、ご老はふん、と鼻を鳴らす。
「なるほどね。まあこんなもんいくらでも種も仕掛けも仕込めるもんだが、いったんは信じてやっていい。んで? じゃあその絶滅危懼種の魔眼使い様が、こんな魔道店に何の用があるってんだい」
「……この目に合う眼鏡を探しているんだ。霊眼の力を抑制し……それと、外部の人間への認識阻害もかかっていたかもしれない。誰にも目のことを見破られないように、と」
「ほう……?」
今まで皮げだった店主の口調が、興味をそそられたような風に変わった気がする。
ところがそこで邪魔がった。
「つまんない! クリスタ、うえ、いきたい! さわらない、いいこにするから!」
――まあ、あんな魅的な景を見せられた後、殺風景な部屋でただ鎮座して待たされたら、児がこういう反応になるのもむべなるかな、である。むしろ今までよく黙っていてくれた。
あちゃー、という空気が部屋に漂い、店主がからから笑って手を振る。
「こりゃあたしが悪かった。セディ坊、上に連れてきな。あんたもだ。そわそわ貧乏ゆすりがうるさくって仕方ないよ」
パイプで指さされたのはロジェだ。
まあ……彼、特待生ですから績は優秀ですが、基本的な分はき回りたい方でしょうしね。探検行きたそうな顔、してるものなあ。
「あたしゃまだこの坊ちゃんと話すことがありそうだからね。話がつまらない奴らは上に行ってな。そんでいいかい?」
「はい」
殿下はそう答えるし、他の人達も否はなさそうである。
わたくしは……あ、はい。そもそも魔道店に來たのはわたくしが原因なのですものね、殘る組ですよね。
正直、さっき一瞬のことでニアミスされたので、あまりこの場所、特に店主のいる所には長居したくないのですが……仕方ない。
「クリスタ、もう一度言うが、兄の言うことをちゃんと聞くのだぞ。そうしないと、この店から追い出されて二度とれないからな」
「わかってるもん!」
「あー、お二人さん……まあ、俺が必要になりそうだったら、うん。なんかこう、呼んでくれ?」
ぞろぞろ出ていくのを見送った店主は、立ちっぱなしの姿勢から今度はわたくし達と向かい合う椅子にどっかり腰を下ろす。
「さて、さっきの続きと行こうか。あんたが求めているのは、いわゆる“魔眼封じ”だね。それも的に現を知っている」
「うん。シャンナは長い間、目の特徴に理解の深い人間に隠されていた」
「……ハッ! ようやくわかった。坊ちゃんは品じゃなくて、報を買いに來たんだね」
「あまり期待はしていなかったけど――運良くセドリックと今日街で會えたから」
「あんた持ってる人間だねえ。まあ、そういう見た目してるが」
ぷかーっと、パイプから煙……実は武らしいけど、やっぱりちゃんとパイプ機能もあるのかしら。
わたくしは話がいまいち見えなくてぼーっとしているのだけど、二人はなんだか盛り上がっていそうだ。
「だがいくら皇國の偉い人相手でも、いきなり顧客名簿なんか見せられないよ」
「もちろん。そもそも、必ずしもこの店を介したわけじゃないだろうしね。それに客の方には當たりがついているんだ」
「へえ? んじゃ何を調べたいって言うのさ。作り手かい?」
「本當は誰がを隠したがっていたのか、かな」
わたくしには殿下の考えていらっしゃることはずっとわからない。
ただ、今までは頼もしかった彼が、このときはし怖くなった。
という言葉を舌に乗せ、暴こうとするような語りをするのであれば、特に。
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