《婚約破棄されたら高嶺の皇子様に囲い込まれています!?》22.最近會う男がことごとく有能でお強い……
が助けを求める聲――わたくしはをすくめたが、弾かれるようにき出した人がいた。
「クリスタを頼む」
簡潔に言った彼は、児をわたくしにぽんと渡し――いやいやいや、もうちょっと妹さんは大事に扱って!? あなたは軽々持てたかもしれませんが、わたくしは至って普通の學生なのです、力した五歳児って結構重たいんですよ!
託されて、というより押しつけられて、ぐらっとが傾く。
「シャンナ!」
皇子殿下がさっと駆け寄ってきて支えてくださったので、不慮の事故は免れた。
しかし一息ついている暇もない。
既にセドリックは走っていってしまって――速っ、もうほとんど姿が點じゃないですか!?
「うえっ!? ああ、どうすりゃ――」
「ロジェ=ギルマン! ぼくらはいい、セドリックを追え。狀況の確認と、必要であれば援護を」
突然の非常事態に遭遇すると、パッとける人間と立ち盡くしてしまう人間がいる。
わたくしは當然後者だったし、ロジェも混してしまったようだった。
しかし殿下がただちに凜とした聲で指示を出せば、ロジェははっとし、すぐにセドリックの後を追いかけていく。
いやあ本當に、さすが殿下はいついかなるときも格が違――近い! 五歳児を抱きかかえるわたくしを、殿下が更に支えているのだから、それはもう當然ながら距離が近い!!
ひええ、一難去ってまた一難!
「で、殿下……あの、ちょっとこれはまずいですよ……!?」
「大丈夫。クリスタを任されているし、ぼくたちはいったんここで待とう」
はいそうですね荒事の気配のする方に児抱えて走って行けるわけがありませんものね、それはそれとして著姿勢……。
と思っていると、視界に何やらポンポンと、音と煙を立ててが現れる。
一つは大きなクッションのようだ。殿下はそこにゆっくりとクリスタを橫たえた。
わたくしも理的に荷が下りて距離も離せて、ほっと一息つく。……ちょっとだけ殘念なんて、思っていないんだからね。たぶん。
そしてもう片方は、手に持つのにはちょっと大きめ、けれど全を映すのにはし小さめ程度の、楕円形の鏡だった。
最初はわたくしたちを映していたが、のぞき込んでいると鏡面がぐわんとゆがみ――別の景が映し出される。
セドリックだ! 彼が薄暗い……路地裏かな? にいる様子が見える。
これは確か、投影式。見ての通り、目の前ではない、離れた場所の狀況を映し出す魔法だ。魔法と時空魔法の組み合わせでできたはず。
「おまえたち、何をしている」
セドリックが唸るように言う。
彼の視線の先には、何やら不審な男が二人……いや三人かな。よってたかって何かを囲んでいるようだと目をこらせば……何だろうあれ、の人?
男達の姿でちょっと見えにくいが、もう一人いる人はスカートをはいているようだ。たぶんこれが悲鳴の主。
えっ……ていうか待って待って、あれ、麻袋被せられて縄巻かれてる!? 今時罪人だって、あんなひどい格好はさせられませんて。とんでもなく穏やかじゃない景だった。
しかも更に不穏さは増す。
セドリックが聲をかけると、男達はぱっと彼の方を見てから、顔を見合わせて目配せし合い――そして一人が懐から素早くナイフを取り出したかと思うと、飛びかかってきた!
「危ない!」
「大丈夫だよ」
いわばのぞき見をしている立場なのだが、思わずんでしまう。けれど隣の殿下がすぐに落ち著いた聲を上げた。
その通り、セドリックはを捻って刺突を避けると、飛び込んできた相手の手に自分の手を添え、思いっきりはたいた。相手が思わず刃から手を離した隙を見逃さず、今度はこちらから一撃をお見舞いする。ぐふっ、と鈍い聲を上げ、不審者その一は倒れた。
つ、強い……セドリックさん、素手で難なく刃持ちを仕留めてしまれた。お強い!
けれど一人目がやられたのを見て、二人目がなんと……詠唱を唱え始めた!?
魔法使いと魔法の使えない人間が戦えば、それはもう當たり前だが魔法使いの方が圧倒的に有利である。
わたくしが顔を青くして隣を見れば、相変わらず殿下は冷靜で、むしろ堂々とした風格すら漂わせるご様子。で、殿下の見立て的には大丈夫だということでしょうか……?
息をのみ、ぎゅっと両手を合わせて見守っていると、セドリックはすっと腰の後ろに右手をやる。
すらりと引き抜かれたるは……えっ? なんでこの人剣持ってるの、今どこから出した? 確かに背中というか腰の後ろというかに何かつけていらっしゃったようですが、明らかにそんな長い得ではありませんでしたよね?
「仕込み剣かあ。かっこいいね」
解説ありがとうございます、殿下! なるほどそういう魔道でしたか。杖と見せかけて中に剣が仕込まれている、というような暗であればわたくしも知っていましたが、魔道だと更に可能が広がるのですね。
しかし悪の魔法使いから放たれたるは電撃、セドリックはこれを避け――ない? えええ、噓でしょ、この人今、魔法攻撃切りつけませんでした!?
「今のどうやったんだろう。消石? いや、消石は魔法を消す石だから、逆に魔法による加工もけ付けない。時空魔法で圧する、なんてことはできない。となると、仕込み剣の材料とはなりえないはずで……」
か、解説によって、セドリックさんがなんかとんでもないをお持ちか、単純に本人が人間卒業しているかという可能が示唆されました。
しかしこんだけびっくりなことをされても、殘念ながら不審者チームは戦意喪失してくださらない模様。魔法を使う方がまた雷を――ああまずい、一人被害者を抱えて逃げるつもりみたいだ。
けれど、不審者が走り出そうとした瞬間、どでかい炎の柱が上がって行く手が阻まれる。
「ふざけんなよ、げほっ……こんだけ走らせて、かはっ……まだ追いかけっことか……絶対許さねえ、この場でぶち殺してやる……ごほごほごほっ!」
超騒な臺詞を吐きながらロジェが登場したが、苦しそうな息を上げているので、その分迫力が落ちているような、かえって怨念増し増しになっているような……。
「ロジェ=ギルマン。無理はするな。私一人でやれる」
「すかしてんじゃねえぞ地味青カラー、テメーにばっかりいい格好させるかよ!」
敵の魔法使いは、新たな魔法使いの登場にターゲットを変えようとしたらしいが、天才火炎魔法使いロジェ様の方が早い。
「撃ってくるからには、撃たれる覚悟できてんだろうなあ!?」
ドスの利いた吠え聲と、紅に染まる鏡映像……。
「や、やり過ぎ!」
「大丈夫だよシャンナ、あの焼き加減ならギリギリ死なない。最悪うっかりぽっくりしちゃってても、まあ……蘇生するから証拠は殘らないかな」
隣の解説様がさらっと一番怖いことを言っていた気がするが、全力で聞かなかったことにする。
その間にセドリックはぐんと踏み込み、奧で人質を抱えて逃げ損ねた方へ。
「う、くな! こいつがどうなっても――」
往生際の悪い臺詞が聞こえそうになった気もしましたが、最後まで臺詞を言い切る前に、綺麗な峰打ちが決まったようだった。
あっという間。まさに一瞬の出來事だった。
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