《婚約破棄されたら高嶺の皇子様に囲い込まれています!?》24.華麗すぎる學園生活が戻って來ました(大殿下のせ……おかげ)
楽しくもイレギュラーな予定満載になった休日も終わり、再び日常的な學園生活が戻ってきた。
「この柄っつーか、十字のとこにはまってる奴が魔石?」
「そうだね。魔力を充填する部分だ」
……でもこれ、日常って言って良いのかしら?
のどなか晝下がり、わたくし達は中庭の芝生に敷布を広げ、談笑を楽しんでいる。
メンバーは皇子殿下、伯爵令息、特待生と、そうそうたる顔ぶれだ。まぶしい。理的にも魔力的にも、視界がきらきらしている。
まあ見方によっては、外れ者同士がを寄せ合って――という解釈にもなるのかもしれないが、何しろこちらには皇子殿下がいらっしゃる。本當、歩く太のようなお人だ。それ規格外じゃない? 規格外だもの……。
しかし、こんなに明るくにぎやかな晝休みがあるなんて。し前までぼっちデフォルトだったわたくしの學園生活としては、考えられない景だ。
「やっぱこういうのって、毎日自分で充填してるのか?」
「私はそれほど魔力がないから、人にやってもらうか、充填用の魔石を使う」
「へー……」
今の話題は、セドリックの魔道についてである。
この前実戦利用された武に、お二人とも興味津々の模様だ。特に、興味はあれど縁がなかった、という風のロジェは、目をきらきらさせてあれこれ熱心に聞き込んでいる。
剣の持ち主セドリック氏は、淡々と解説をしていた。
お晝にったら特に抵抗もなく大衆食堂についてきたし、お晝換會にも參加してくれた。その後もこうして付き合ってくれている――ということは、なくとも悪印象は抱かれていない。と、思う。
靜かで表筋が任務放棄しがちな人なので、皇子殿下とは別の意味で何考えてるかわからない方ではある。本當、ロジェの単純さが清涼剤だ。赤髪の特待生は、考えていることが全部顔に出る。
「なあ、素樸な疑問、いいか? 充填切れになったらどうなるんだ?」
「照明ぐらいならきみも使ったことがあるだろう? 魔力を充填しなければ點かない。あれと大差ない」
「照明は形変わらないじゃんか。これ、いつもは腰の後ろに隠してるんだろ?」
「魔力で形狀加工しているのだから、加工前に戻る。つまりこいつの場合、剣の形になる」
「戦闘中に魔力切れを起こしても、剣が手元に殘るのはいいね。刀はセラン鉱石だから、強度も問題ないだろうし」
「魔力が切れた狀態で打ち合いなんかになれば、あっという間に刃先が劣化する。長持ちはしない」
「まあなあ……魔力切れなんて狀態に追い込まれたら、普通大ピンチだろうしなー」
かくいうわたくしも、ちょっと盛り上がりが過ぎるとついていけなくなることもあるが、おおむね楽しく拝聴させていただいている。
王國では魔法使い>魔道利用者という絶対式が存在しており、學園でこんな風に魔道の解説なんかしていたら、普通は嫌な顔をされる。何ならAクラスの誰かに嫌みを言われてやめさせられるだろう。それこそレオナールとか、こういうの大嫌いだし。
が、今は魔道利用に偏見のない隣國の皇子殿下がいらっしゃっている。
不思議なお方だ。特に保守的な王國において、変化をもたらすような人間は基本的に疎まれる定めである。
しかし殿下は容姿や腰がこの國の理想的な貴人そのものであるためか、けして快くは思っていない人も、なんとなく強く言えない所がある。
まあ真正面から対立したらどうなるか、を以てお手本を示した無謀系庶民もいましたしね。基本的には親切でお優しいけれど、敵はきっちり仕留めようね気質でもある方だからなあ……。
「お、予鈴だ。晝ってみじけーなあ」
「セドリックは、放課後は予定あるの?」
「今日は鍛錬だ」
「剣の? 見に行ってもいい?」
「……駄目とは言わないが、面白いものでもないぞ?」
「ちぇ。俺は今日は早く帰らないといけない日だからパスだな」
「また今度にすればいいさ」
午後の授業が始まる気配に、學生達は腰を上げる。
わたくしはささっと敷布を畳んだ。これぐらいはね。やらないとね。
座學はクラス別なので、そのまま皆で別れる。
「シャンナ、ごめんね。面白くなかった?」
「え? いえいえ、魔道の話は普段聞けませんから。楽しかったですよ」
「そう? それならよかった」
Aクラス組、殿下と二人になったら、何やら謝られてしまった。
わたくしがずっと聞き役に回っていたから、余計な気遣いをさせてしまったのかもしれない。
殿下は教室に向かう道すがら、何やらもじもじした素振りである。まだ他にも言うことがあるのかしら?
「……あのね、シャンナ。ぼく、もうししたら、ちょっと忙しくなるかもしれなくて……」
「はあ。あ、いえ、はい」
「その……シャンナを一人にしてしまうだろうけど。いや、あの、シャンナとしては、もちろん一人の方が嬉しいのだろうけど」
「そんなことはありませんが」
間。
言われた方も言った本人も、思わず足を止める。
あ、あれ? なんかするっと口から言葉が出て行ってしまった……!?
「そ、その……殿下と過ごす時間は、わたくしにとって尊いもので。ですが、ご都合の邪魔もしたくなく……ええと……」
わたわた言い訳をさまよわせていたわたくしの目が、ぱちっと碧眼とかち合う。
わたくしの目はその質上、他人に威圧を與えやすいらしい。だが殿下は、わたくしとごく普通に目を合わせ、微笑みを返してくださる。
――適度な張をはらんだ、冷靜な思考に戻る。
「大丈夫です。わたくしのことはご心配なく。その……あと。……お待ちしております」
この臺詞はおこがましいかもしれない。どうせ最後には捨てられることが決まっているのだから、と考えるなら、帰還をむような言葉をわざわざ口にする必要はない。
でも、言いたくなった。言っておきたかった。「どうせ裏切られるのだから」と自分を守るのは、この人に不誠実な気がしたから。
「……なるべく早く用事を済ませて、帰ってこられるようにするね」
「はい」
……それに、々ちょうど良い機會なのかもしれないし。
「シャリーアンナ=リュシー=ラグランジュ! あんたを斷罪するわっ!」
ほらね。殿下の姿が見えなくなった途端、やっぱり來た。
お待ちしていましたよ、ミーニャ=ベルメール。
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