《売れ殘り同士、結婚します!》19話 同棲
────迎えた三月上旬。引っ越しの日。
冬馬はこの日のために休みを取っておいてくれたため、朝から一緒に最後の荷を運ぶ。
大きい家はほとんど冬馬の家にもあるため使わないものは処分して、必要なものだけ持っていくことにした。
化粧品などの細かいものは自分で持って、管理會社の人の立ち合いのもと退去手続きを済ませる。
そのまま冬馬の運転でこれから我が家となるマンションへ向かった。
「おかえりなさいませ。茅ヶ崎様、大河原様」
「どーも」
「こ、こんにちは……」
今日から私もこのマンションの住民になるからか、コンシェルジュの男にはすでに私の名前が共有されていたよう。
ここにくる度何度挨拶されても慣れないのに、様付けまでされてしまうようになったら永遠に慣れない気がする。
冬馬みたいに平然と會釈だけすればいいのだろう。でもそんなの私には無理。恐れ多すぎる。
「いずれ二人とも茅ヶ崎って呼ばれるって考えたら、楽しみだな」
「ちょっと照れくさいけどね」
冬馬と結婚するということは私も茅ヶ崎になるわけで。それを考えるとにやけてしまう私がいた。
そんな調子でエントランスを抜けてエレベーターに乗り込んで部屋に向かい、ざっと荷解きをしてあてがわれた私の部屋にしまった。
「ホットミルク飲むか?」
「うん。飲みたい」
「じゃあソファに座って待ってて。すぐ作るから」
「ありがとう冬馬」
なんとか荷解きを終わらせた頃、冬馬がホットミルクを作ってくれた。
リビングで並んで座りながらそれを飲むと、一気に落ち著いていく。
「もう晝すぎちゃったけど、どんなじ?」
言われて初めてお晝を過ぎていたことに気がついた。
言われてみればなんだかお腹も空いてきたような気がする。
それくらい作業に沒頭してしまっていたようだ。
「もうちょっとかな。ごめんね冬馬。お腹すいたしょ」
「いや、朝しっかり食べたから案外平気。それより本當に手伝わなくていいのか?」
「うん。ありがとう」
荷解きと言っても最後に持ってきたのは服や化粧品、それから一番大事な仕事で使うものたちだ。
それくらいなら手伝いも必要ないから、と冬馬にはゆっくりしてもらっていた。
ホットミルクを飲んだ後に近所のカフェでし遅めのお晝を食べてから家に戻り、パパッと殘りの片付けを終わらせる。
どうにか夕方までには片付いて、ホッと一息ついた。
「疲れただろ。おいで」
リビングに戻ると冬馬がソファにポンポンと手を置く。
それに吸い寄せられるように向かうと、冬馬の隣に座ってぎゅっと抱き著いた。
「本読んでたの?」
「あぁ。どちらかっていうと仕事に関係あるものだけど。しずくも読んでみるか?」
「ううん。私の頭じゃ理解できなさそうだからやめとく」
法律関係のものもあるのだろう。何やら小難しいタイトルがいくつかテーブルの上に置かれていて、付箋がられているところを見るに読んでいる途中なのか勉強の途中なのだろう。
冬馬の熱心さとひたむきに上を目指して努力する姿勢は本當にかっこいい。
「続き読んでていいよ」
私はこうして抱き著いてるから。そう言うものの、
「集中できるかって。いいよ、本なんていつでも読めるから」
笑って私を抱きしめ返してくれた。
冬馬の匂いをいっぱいに吸い込んで、ピタッと頬をつける。
規則的に聞こえる冬馬の鼓の音が心地良くて落ち著く。
……あぁ、ずっとこうしていたい。
「來週はいよいよ卒園式なんだろ?」
「うん。今から張してる」
「しずくは年長クラスの擔任なんだろ?何著ていくんだ?」
「袴著て行くよ。クリーニングから戻ってきたから、當日は朝から容室行って著付けしてもらうの」
「へぇ。袴のまま帰ってくる?」
「いや、その後同僚と飲みに行く予定だし、容室でいでから帰ってくるよ」
一人でいで畳める自信はない。こういうのはプロに任せたいところ。
しかし冬馬はどこか殘念そう。
「しずくの袴姿、見たかったな」
「……どっちにしても土曜日だから冬馬は仕事でいないでしょう?」
「そうなんだけどさ。やっぱ見たいじゃん。好きな人の晴れ姿」
"好きな人"
不意に飛び出した言葉にドキンとが高鳴るけれど、それに流されてはいけない。
「……もう、私は別に學生じゃないんだから。それに主役は子どもたち!私はおまけみたいなもので晴れ姿でもなんでもないよ」
「そうか?」
「うん」
保育園は制服が無いから、卒園式の時の服裝も基本的に自由だ。特にの子はここぞとばかりに著飾ってくるだろう。男の子もスーツは初めての子も多いから、お兄さん気分で著てくると思う。皆張してくるだろうなあ。
想像しただけで可くて、自然とにやけてしまう。
「後で寫真見せるから、それで許して?」
「まぁ仕方ないよな。わかった。寫真楽しみにしてる」
當日はひまわりの擔任だけでの寫真撮影も予定している。それで我慢してもらおう。
呑気にそう考えていると。
「じゃあ、袴姿は寫真で我慢するから、代わりにしずくをちょうだい」
ひょい、とを橫抱きにされて、そのまま冬馬は私を連れてリビングを出ていく。
「えっ、え?」
「ほら、ベッド行こ」
「ちょっと冬馬!?」
落ちないように條件反でしがみつき見上げると、にやりとした視線が私を捉えた。
「同棲初日。しずくは片付けばっかで全然俺に構ってくれないからずっと待ち侘びてたんだ。しずくのこと早く食べたい」
「食べっ……」
「いいだろ?」
そう言ってベッドに置き、私の上にった冬馬はちゅ、ちゅ、と音を立てながら私の顔にキスを落とす。
頬、耳、目元、鼻、おでこ、そして。
らかいがれる度、電気が走るかのように甘い刺激にが疼いた。
「で、でもまだ暗くないよ?」
段々日がびてきてまだ若干の明るさを殘している窓の向こう。それを指差して申し訳程度の抵抗をしてみるものの、冬馬は全く気にしていない。
それどころか恥ずかしげもなく
「だからいいんだろ?しずくの全部がよく見える」
なんて言うから私は顔を真っ赤にさせた。
「晩ごはんも食べてないのに……?」
「あとでデリバリーすればいいだろ?。つーかもう俺が限界。ちょっと黙れよ」
反論しようと聲を出すものの、言葉を吸い取るかのようにキスが降ってくる。
「とっ……んぅ……」
すぐに私の服の中に侵しようとする大きな手。それをどうにか一度抑えると、冬馬はムッとした表になった。
「この手はなんですか。れないんですけど」
私の手を指差しながら不満たっぷりな聲に、深呼吸をしてから
「せ、せめてシャワーらせて……」
とその目を見上げて懇願した。
いくら數はなかったとは言え、荷も運んだし荷解きもした。
片付けの最中はあまり気にならなかったけどもしかしたら汗臭いかもしれないし、するならするで一旦シャワーにりたい。
「だ、だめ……?」
「っ……」
確かに目が合ったはずなのにスルッと視線を逸らした冬馬の顔は真っ赤に染まっていて、私は首を傾げる。
「どうしたの?冬馬」
「……上目遣いは反則」
言うが早いか、首を元の位置に戻す間も無くが重なる。
言葉通り食べられてしまいそうなほどに激しいキスに翻弄されていると、ほんのし離れた冬馬が、ふぅー……と長い息を吐いた。
「なんでそんな可いの」
「え……」
「まじで反則。理保つのに必死なのに、そんな煽んなよ」
「煽ってるつもりなんか……」
「涙目で上目遣いしてくるのが煽りじゃなかったら、俺のこと試してる?」
言葉に詰まる私に、冬馬は「
悪い。冗談」
とぺろりと下を舐めた。
「……そんなにシャワーりたいなら、一緒にろうか」
「っ、なんっ……」
「上がった頃には外は暗くなってるだろうし、俺はしずくが味わえればいいから風呂でもオッケー」
「……っ」
「もちろん上がった後はまたここに來るけど」
予想と違う展開に驚きを隠せずにいると、冬馬は
「いや?」
と聞いてくる。
「いや、じゃないけど……」
「ん。じゃあ決まり。行こ」
そのまま洗面所に連れて行かれ、キスをされながら服をがされる。
まさか初日から一緒にお風呂にることになるなんて……。
張で心臓が発してしまいそうだ。
冬馬の舌が私の口を荒々しく這い回り、気が付けばお風呂にる前に膝から崩れ落ちそうになる。
「ふっ……ほんと、かわいいなお前」
私を支えながら満足そうに笑った冬馬とのお風呂はとても甘く、きっかり二時間ほどった後のぼせそうな頭の中で寢室に移し、甘く激しい夜にほとんど寢かせてもらえなかったのだった。
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