《『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……》38話 ありがたい汚は消毒だ

38話

(このガキを、さっさと、どうにかしねぇと……このままじゃあ、俺が壊れちまいそうだ。だが、どうやって……ん、いや、待てよ。案外、簡単な話なんじゃねぇか?)

勇者は、自分の呪いについての詳細を思い返す。

(なにも、こいつを殺すのが、俺である必要はねぇ)

死んでくれればそれでいい。

その原因が勇者でなければなけない理由は一つもない。

(……テキトーなダレかに、こいつを殺させればいい。奴隷は、基本、主人が死ねば解放される。そこらのドレイの場合、主人の死は、ただ一時的に苦痛から逃げられるというだけで、本質は何も変わねぇ訳だが、しかし俺の場合は例外。実質的に解放されて、正しく気高い、孤高の俺に戻る)

勇者は笑う。

一気に、気が楽になった。

閉塞的な狀況は突破した。

一つでも、突破口を見つければ、心はグっと軽くなる。

(よし、となれば、さっさと、誰かに、このカスを殺してもらおう。そして、その後は、慎重に行する。二度と、同じ過ちはおかさねぇ)

問題は解決。

正直、魔人化に関してはどうでもいい。

確かに、人間の國家で『魔人』として生きていくのは、大きなハンデとなるだろう。

しかし、それは弱者の話。

どうやら、『力』は変わっていないようだから、特に大きな問題はない。

所詮、この世は力が全て。

今、魔王國が、サミット等で、妙にデカいツラをしているのは、大帝國を滅ぼし、『強大な力を有する國である』と世界中に示したから。

どのような狀況であれ、力さえあれば、乗り越える事ができる。

そして、勇者は、その『力を持つ者』の中で頂點に経つバケモノ。

勇者は強い。

勇者は、世界最強の超人。

つまり、何も問題はない。

確かに、々と鬱陶しい――が、それだけの話。

我慢できるさ。

そのくらいのハンデなら。

『自由に殺せない』ってのも、確かに面倒だが、んなもん、我慢できないほどじゃねぇ。

なんせ、このクソみたいな狀況が死ぬまで続く、って訳じゃねぇからなぁ。

(呪いなんざ、かけてきた相手を殺せば解ける。つまり、當初の予定であるカースソルジャーの撃滅を果たせば、それだけで、なにもかも、まるっと全部解決ってわけだ。これから先、數年、ちぃと窮屈な人生になるが、所詮は、それだけの話。國を離れ、俺クラスしか話にならないダンジョンや跡を巡っていれば、誰とも會わずに數年過ごすのなんざ余裕。ぁあ……何も問題はない)

勇者は狀況を整理しおえると、

(……さて、近くに、手ごろなゴミはいねぇかな?)

ここはスラム。

クソは、頻繁に掃いて捨てなければいけない程いる。

(――おっ?)

ちょうどいいカスを求めて、周囲を見渡した、まさにその時、

「おいおい、セイラ……心したぞ。お前の逃げ足。正直、驚いたぜ」

いかにもな子分を一人だけ引き連れている、屈強なコワモテが現れた。

その二人を見て、勇者は歓喜する。

(パーフェクツッ! さすが、俺、選ばれているぜ、何かもかもからなぁ)

「ところで、セイラ。そこにいるのは誰だ? まさか、用心棒でも雇ったか? んー?」

見た目だけは屈強そうなバカがそう言うと、その子分が、後ろから、

「アニキ、あの妙なのやつ、もしかして亜人ですか?」

「ばぁか、ありゃ魔人だ。亜人が進化したもんだ」

「おぉ、さすが、アニキ。博識ですねぇ」

「一般常識だ、バカ野郎。お前は流石に無知すぎる。もうし勉強しやがれ」

「いや、はは……どうも、昔から、そういうのは苦手で……」

「言っておくが、本気で言っているんだ。アホだ、アホだとは思っていたが、まさか、自分が住んでいる國の首都すら知らんとは思わなかった。……一応聞いておこうか。流石に、それはありえないと思うが、ゲイド、お前、この國の王の名前をフルネームで言えるか? ……おい、なぜ目をそらす」

フっと、明後日の方を向いた子分『ゲイド』の、ありえないほどカラッポな脳ミソに呆れてから、

「で、セイラ。その魔人はなんだ? まさか、本當に用心棒を雇ったなんてことはねぇよなぁ? もし、そんな金を隠していたとしたら――」

「おいおい、ぉぉい、そこのカス。クソほどの価値もねぇお喋りはそこまでだ。それ以上は一言もしゃべるな。臭くて仕方ねぇんだよ」

勇者は、心底からウザったそうに、小指で耳のをほじりながら、

「俺とこいつは、なんの関係もねぇ。というわけで、好きに殺せ。可及的速やかに、な」

「なんだ、てめぇ、モンスターの分際で、人間様の國で、偉そうにしやがって……アニキ、あいつ、どうしてやります? なんなら、俺が、『この相棒』で、あの口が悪いモンスターに、自分の立場ってヤツを教えてやりましょうか?」

ナイフを取りだして、刃をペロリとなめるゲイド。

そんなゲイドの短絡的な態度を見て、勇者はしみじみ思う。

(ありがてぇ……おだやかな対応しかしていない、優しい、優しい、今の俺へ、さっそく純粋な悪意を向けてくれるとは。くく、生まれて初めてだぜ。この手の連中が、この世に存在してくれていて良かったと思ったのは。……さぁ、さっさとかかってこい。腕と足を一本ずつなくしても、ガキの一匹くらい殺せるだろ。それでも、まだ従わねぇようなら、歯を一本ずつ抜いてやる)

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