《『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……》51話 やはり、俺は何も間違っていなかった。

51話

(……こ、こんなカス共に、ここまで言われて、何もできないのか……ぐぅ……ぬぅううううう!!)

「ゲイド、このうるさい小僧は俺が抑えておく。お前は、そのガキを連れて、事務所に戻れ」

「了解しやした」

「――ぅ――ぅ」

バタバタと暴れるセイラの首を、

ゲイドは、右手で、グっとしめて、

「暴れんなよ、めんどうくさい……了承をもらっているとはいえ、俺みたいな下っ端が、アニキの商品を傷つける訳にはいかないんだよぉ」

「――ぇほっ――」

セイラのき聲を聞いた勇者は、ギリっと奧歯をかみしめて、

「おい、ごらぁ、そこのカスゥ! そのガキを殺す気がないなら、そこに置いていけ! これは命令だぁあ! この俺様の命令だぁあ! ぉい、聞いてんのか、ごらぁ! 誰の言葉を無視して――てめぇも、いい加減に離せ、ごらぁああああ! さっきから、ずっと、誰にってると思ってんだぁああ!!」

ぶが、ゲイドは、それをシカトして去っていく。

サーバンも、勇者を相手にしていない。

ただ、うるさそうに片目をつぶっているだけ。

勇者だって、こんな意味のないびで、あのカスが止まるとは思っていない。

だが、現狀、他にできる事がないのだ。

剣を振ることや、魔法を使う事はもちろん、アイテムを使う事も出來ない。

何度か、アイテムボックスに手をばしてみたのだが、アイテムが取り出せない。

『殺意』を知されてしまい、制がかかってしまう。

何もできない。

今、勇者は、己が必死に築き上げてきた全てを奪われて、ただ、ぶ事しかできなくなっていた。

「ゲイドォ! とまれぇ! とまれぇっつってんだよぉお! 聞け、ごらぁああ!!」

勇者は、こんな時にどうしたらいいか知らない。

心ついた時には既に、ある程度強かった。

敗北の経験はあるが、それは、相手が『達人』の場合に限られた。

これまでずっと、不愉快な絶は、一太刀にしてきた。

魔法で一蹴してきた。

だから、分からない。

『本のバカ』みたいに、喚く事しかできない。

勇者は、無力の恐さを、初めて知る。

今までは、強すぎたため、『他人の痛み』を想像する事しかできなかった。

実際に験してみて、勇者は思う。

――やはり、俺は、何も間違っていなかった。

「最後の忠告だぁあああああ! これが最後だぁ! 戻れぇええええ! てめぇ、地獄を見るぞぉおおおおお!」

雑言を瀟灑に取り繕う事すら出來なくなってきた。

まるで、駄々をこねる児。

やかましくび続ける勇者を見て、

サーバンは、やれやれと、面倒くさそうに首を振った。

「うるさいぞ、小僧。いい加減にしろ」

キュっと、しだけ、肩を摑む手に力がった。

痛みはない。

悪意もない。

だから、振り払えない。

なぁ、もっと強く、握りしめてくれよ。

砕いてくれても構わねぇから、

――だから、

――頼むから、

「いい加減にするのはテメェらだぁああ!」

勇者は、その顔面を、これ以上ないほど真っ赤に染めて、

「これだ、これだよ、これがイヤなんだよぉおおおおお! こういうのを見たくねぇからぁあああ! こういうのがイヤだからぁあああああああ! だから、研いできたんだろぉおおおおおおお! けよ、ぁああああ! なんのために、これまで、必死こいて剣を振ってきたと思ってやがる! なんのために、魔法を磨いてきたぁあああああ! こういうのを! こういう、ふざけたクソを! ブチ殺すためだろぉおおおおお!」

勇者はぶ。

が千切れるほど、

「ここでけねぇならぁああああ! なんのためにぃいいいいい! この、クソみたいな世界で、必死こいて生きてきたんだぁあああ! これじゃあ、なんの意味もねぇだろぉおおがぁあああああああああああああ!!」

「小僧……本當に、もう、黙れ。無駄だ。んで変わる地獄など、この世には存在しない」

サーバンの言葉が脳にしみわたる。

なぜなら、それは、

――言われるまでもなく、他の誰よりも知っている事だから。

連れていかれるセイラの背中を睨みつける勇者。

小さくなる背中が、勇者の心臓をメッタ刺しにする。

だから、

――ついに、

「……やめ……」

「あ? 何か言ったか?」

「やめてくれ……」

「なにをだ?」

勇者は、ひねりだすように、

しでも……知っているヤツが………………どんな生き方をしてきて、誰に助けられてきて、どうやって生きてきて、どうやって頑張って……そういうのが想像できて…………な、名前まで……知っちまったヤツが……『そういう目』に遭うって現実は…………むりだ……耐えられねぇ……」

セイラのことなど、勇者は、ほとんど知らない。

當然だ。

ついさっき出會ったばかり。

セイラに関しては、ほとんど無知に等しい。

けれど、名前は知っている。

『名前も知らない彼の姉』が、彼を守ろうと必死になって頑張っていたという話を聞いてしまっている。

非常にない報だ。

――だが、

「頼むから……あのガキを、殺してやってくれ……頼む……」

勇者の懇願を聞いて、サーバンは、

「流石、魔王國の魔人。人家でいらっしゃる」

しっかりと突き放した。

決して、ほだされたりなどしない。

――サーバンも、自分の哲學を持って生きている者の一人だから。

勇者は理解してしまった。

この男は同類。

『自分』を、『遵守』している者。

そんなヤツに何を言っても無駄な事は、自分が一番知っている。

だが、だからといって、投げだす事はできない。

「頼むから……」

もし、それが出來ていたなら、

こうなるずっと前に、とっくの昔に、

――己の命を壊して、この世からの退場を決め込んでいる。

「……やめてく――」

「これが、現実だ、小僧。もし、今後、魔王國の王と、どこかで會う事が葉ったら、かの王に、言っておいてくれ。――理想で世界は救えない。あんたの思想は立派だと思わなくもないが、思想で変えられるほど現実はヌルくない――」

「んなこたぁ……」

勇者は、

「誰よりもぉ……」

ボロボロと、涙を流しながら

「知ってる……」

爪を剝いだ時でさえ決してらさなかった涙を流しながら、勇者は、頭の位置を下げた。

「……殺してやって、くれ……たのむぅ……」

「ありえない。なぜなら、あいつを売るのが俺の仕事だから。こんな仕事でも、俺は誇りをもってやっている。誰にも文句は言わせねぇ。……恨むなら、こんな世界に生まれた自分自を恨め」

サーバンは、まっすぐな目で勇者を睨んでそう言い切った。

セイラを脇に抱えて、長い路地裏をまっすぐに進んでいくゲイドの背中は、

どんどん小さくなっていくばかりだった。

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